真田の傀儡子(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 立ち合いの翌日、あまりにも衝撃だったのか秀勝は与えられた部屋から出てこなかった。朝餉や夕餉にも顔を出さない有様だ。
 が、その次の日、朝餉の刻限になって彼は尚勝のもとへ飛び込んできた。
「貴様も傀儡子の出なら、馬の手綱をとる腕には自信を持っているだろう? 俺と“駆け落ち”で勝負しろ」
「――っ」
 秀勝の申し出に、尚勝は思わず声を失う。
 駆け落ち――それは “傀儡子につたわる”男の通過儀礼だ。
 やることは単純で、断崖で馬を駆け下りる、ただそれだけのことだった。
 ただ、非常に危険で、かつてはたびたび命を落とす者が出ていたという。しかし、戦国乱世においてはなにもせずとも人の生命は失われていく――その上で駆け落ちで犠牲を出していてはまたたく間に傀儡子は絶えてしまうはずだ。だから、長らくおこなわれなくなっている儀式だった。
 甚之丞から話を聞いていたのだろうが、やっかいなことを教えてくれたものだ。
 立ち合いなら、最悪真剣でやりあったとしても双方が命を落とさないように工夫する余地がある。
 だが、駆け落ちとなると……。
 秀勝が手綱の操作を誤る、馬がつまずくなどしてもこちらにはどうしようもない。
 さらに、
「貴様が応じぬというなら、俺は腹を切る」
「!?」
 彼のかさねた言葉に、尚勝は瞠目する。
「母の無念を晴らせぬというなら、俺に生きることは許されぬ」
 どうだ、とばかりの顔つきをする秀勝。その手で脇差を抜き、諸肌脱ぎになって腹部に切っ先を向ける。
 やられた、と尚勝は思った。
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