67 / 80
69
しおりを挟む
● ● ●
立ち合いの翌日、あまりにも衝撃だったのか秀勝は与えられた部屋から出てこなかった。朝餉や夕餉にも顔を出さない有様だ。
が、その次の日、朝餉の刻限になって彼は尚勝のもとへ飛び込んできた。
「貴様も傀儡子の出なら、馬の手綱をとる腕には自信を持っているだろう? 俺と“駆け落ち”で勝負しろ」
「――っ」
秀勝の申し出に、尚勝は思わず声を失う。
駆け落ち――それは “傀儡子につたわる”男の通過儀礼だ。
やることは単純で、断崖で馬を駆け下りる、ただそれだけのことだった。
ただ、非常に危険で、かつてはたびたび命を落とす者が出ていたという。しかし、戦国乱世においてはなにもせずとも人の生命は失われていく――その上で駆け落ちで犠牲を出していてはまたたく間に傀儡子は絶えてしまうはずだ。だから、長らくおこなわれなくなっている儀式だった。
甚之丞から話を聞いていたのだろうが、やっかいなことを教えてくれたものだ。
立ち合いなら、最悪真剣でやりあったとしても双方が命を落とさないように工夫する余地がある。
だが、駆け落ちとなると……。
秀勝が手綱の操作を誤る、馬がつまずくなどしてもこちらにはどうしようもない。
さらに、
「貴様が応じぬというなら、俺は腹を切る」
「!?」
彼のかさねた言葉に、尚勝は瞠目する。
「母の無念を晴らせぬというなら、俺に生きることは許されぬ」
どうだ、とばかりの顔つきをする秀勝。その手で脇差を抜き、諸肌脱ぎになって腹部に切っ先を向ける。
やられた、と尚勝は思った。
立ち合いの翌日、あまりにも衝撃だったのか秀勝は与えられた部屋から出てこなかった。朝餉や夕餉にも顔を出さない有様だ。
が、その次の日、朝餉の刻限になって彼は尚勝のもとへ飛び込んできた。
「貴様も傀儡子の出なら、馬の手綱をとる腕には自信を持っているだろう? 俺と“駆け落ち”で勝負しろ」
「――っ」
秀勝の申し出に、尚勝は思わず声を失う。
駆け落ち――それは “傀儡子につたわる”男の通過儀礼だ。
やることは単純で、断崖で馬を駆け下りる、ただそれだけのことだった。
ただ、非常に危険で、かつてはたびたび命を落とす者が出ていたという。しかし、戦国乱世においてはなにもせずとも人の生命は失われていく――その上で駆け落ちで犠牲を出していてはまたたく間に傀儡子は絶えてしまうはずだ。だから、長らくおこなわれなくなっている儀式だった。
甚之丞から話を聞いていたのだろうが、やっかいなことを教えてくれたものだ。
立ち合いなら、最悪真剣でやりあったとしても双方が命を落とさないように工夫する余地がある。
だが、駆け落ちとなると……。
秀勝が手綱の操作を誤る、馬がつまずくなどしてもこちらにはどうしようもない。
さらに、
「貴様が応じぬというなら、俺は腹を切る」
「!?」
彼のかさねた言葉に、尚勝は瞠目する。
「母の無念を晴らせぬというなら、俺に生きることは許されぬ」
どうだ、とばかりの顔つきをする秀勝。その手で脇差を抜き、諸肌脱ぎになって腹部に切っ先を向ける。
やられた、と尚勝は思った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
無明の彼方
MIROKU
歴史・時代
人知を越えた魔性を討つ―― 慶安の変を経た江戸。女盗賊団が夜の中で出会ったのは、般若面で顔を隠した黒装束の男だった…… 隻眼隻腕の男、七郎は夜の闇に蠢く者たちと戦う。己が使命に死すために(※先に掲載した「柳生の剣士」の続編です)。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
戦国終わらず ~家康、夏の陣で討死~
川野遥
歴史・時代
長きに渡る戦国時代も大坂・夏の陣をもって終わりを告げる
…はずだった。
まさかの大逆転、豊臣勢が真田の活躍もありまさかの逆襲で徳川家康と秀忠を討ち果たし、大坂の陣の勝者に。果たして彼らは新たな秩序を作ることができるのか?
敗北した徳川勢も何とか巻き返しを図ろうとするが、徳川に臣従したはずの大名達が新たな野心を抱き始める。
文治系藩主は頼りなし?
暴れん坊藩主がまさかの活躍?
参考情報一切なし、全てゼロから切り開く戦国ifストーリーが始まる。
更新は週5~6予定です。
※ノベルアップ+とカクヨムにも掲載しています。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる