真田の傀儡子(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 次の瞬間、障子を開けて甚之丞が姿を現す。その口もとには微笑が浮かんでいた。
「意識をとりもどしたようだな」
 よかった、と彼は近寄ってくる。
 だが、そのせりふが尚勝がただ単に死の淵から生還しただけのことをさしているのではないことは、尚勝にも理解できた。
「甚之丞、寝ておらんでよいのか?」
「今日は調子がよいのだ。それにしても、もしかするとそのまま死んでいたやもしれぬ男に心配されるとはな」
 尚勝の気づかわしげな問いかけに、甚之丞の笑みに苦いものが混じる。
 彼は源蔵や秀勝とならんで、尚勝の褥の脇に腰をおろした。
 それから数刻、彼らは秀勝もまじえて時を忘れて思い出話に花を咲かせた。
 ――その夜、肩の荷がおりたとばかりに甚之丞はこの世を去る。その顔つきは非常におだやかなもので、彼の過ごしてきた過酷な人生など信じられないものだった。

 そして、秀勝は尚勝の仲介により真田家家臣となっている。
 もっとも、本人によれば「おまえを許したわけではない。命を狙うのに都合がいいからだ」ということになるらしい。
 この言葉を、その場に居合わせて耳にした源蔵は、
「ああはいうておるが、あやつ。おまえを山から連れ帰ったとき、死人のほうがいくぶんかはましと思えるような顔色をしておったわ」
 と当人に聞こえるような声で告げて、秀勝ににらまれることとなった。
「徳川の奴輩、こしゃくにも刈田の兵を出したようだ」
 回想をさえぎり、当の本人である源蔵が姿を現す。
「ん、なにを笑っておる?」
 思わず笑みを浮かべた尚勝を見て、源蔵がけげんな表情を浮かべた。
「なんでもない」
 尚勝は首を左右にふってごまかす。
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