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チャプタ―7
チャプタ―7
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――半数ほどの士卒が川を渡り終えた。
それを、市右衛門は手前の岸から眺めている。右京亮の「せめて、若は最後に川を渡らせては」という提言を父が受け入れたのだ。
既に父やおもだった家臣たちは岸の向こう――何事もなく終わってくれたか、と市右衛門は川向こうの、雨に煙って輪郭が曖昧になった渠らの影を見つめながら思った。
● ● ●
柏木と綴の両家の衝突を、やや離れた崖の上から望む者の姿があった。
京の都をそぞろ歩いていそうな狩衣姿の若い、元服を迎えるか迎えないかという年の少年だ。
渠の前、鳥の嘴のように突き出した崖の一部には、五つの小さな山が土を盛って作られている――東西南北それぞれに、東嶽泰山、西嶽華山、南嶽衡山、北嶽恒山、そして中央に中嶽祟山の文字が朱で記された紙片が半分ほど埋め込まれて固定されていた。
少年は盛り土の中の、東嶽泰山の前に佇んでいる。
その手には、片刃の剣(けん)が現われる以前の古風な作りの剣(つるぎ)が握られていた――剣身には、南斗、北斗、青龍、玄武といった陰陽道に縁(えん)の深い記号や絵が刻まれている。その名を護身剣という。
そして、渠は正確にはただ佇立しているのではない。
一定の法則をもって足を動かし歩いては戻るということ――禹歩(うほ)をくり返していた。
さらには、その合間に“呪文”を唱えている。
足と口を動かすだけの動作だ――だが、少年、道明(どうめい)はそれを一心不乱に行っていた。
それを、市右衛門は手前の岸から眺めている。右京亮の「せめて、若は最後に川を渡らせては」という提言を父が受け入れたのだ。
既に父やおもだった家臣たちは岸の向こう――何事もなく終わってくれたか、と市右衛門は川向こうの、雨に煙って輪郭が曖昧になった渠らの影を見つめながら思った。
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柏木と綴の両家の衝突を、やや離れた崖の上から望む者の姿があった。
京の都をそぞろ歩いていそうな狩衣姿の若い、元服を迎えるか迎えないかという年の少年だ。
渠の前、鳥の嘴のように突き出した崖の一部には、五つの小さな山が土を盛って作られている――東西南北それぞれに、東嶽泰山、西嶽華山、南嶽衡山、北嶽恒山、そして中央に中嶽祟山の文字が朱で記された紙片が半分ほど埋め込まれて固定されていた。
少年は盛り土の中の、東嶽泰山の前に佇んでいる。
その手には、片刃の剣(けん)が現われる以前の古風な作りの剣(つるぎ)が握られていた――剣身には、南斗、北斗、青龍、玄武といった陰陽道に縁(えん)の深い記号や絵が刻まれている。その名を護身剣という。
そして、渠は正確にはただ佇立しているのではない。
一定の法則をもって足を動かし歩いては戻るということ――禹歩(うほ)をくり返していた。
さらには、その合間に“呪文”を唱えている。
足と口を動かすだけの動作だ――だが、少年、道明(どうめい)はそれを一心不乱に行っていた。
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