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チャプタ―28

チャプタ―28

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「どうしてくれる!? 貴様らのせいで泰山府君祭は失敗に終わったッ。せっかく、黄泉への道を開けというのに、弟を呼ぶ前に怒涛の勢い出てきおって――」
 顔を真っ赤にして喚きたてているのは、目鼻立ちの整った女人と間違えそうな外見の、市右衛門と変わらないような齢の若者だ。その装(なり)は狩衣姿――両の手に得物は握っていない。
 とりあえず、危険はなさそうだ。
 市右衛門たちの間で瞬時に張り詰めた緊張が、弾ける一歩前から警戒状態へと段階を下げる。
「おぬしが何を申しておるのか、拙者には分からぬ」
 平兵衛が困惑の表情を浮かべて告げた。
「『おぬしが何を申しておるのか、拙者には分からぬ』だとッ、ようもそのような言葉を――」
 例の若者は吊り上げた目でその場の一同を睥睨し――こちらの顔に戸惑いが浮んでいるのを認めたのか、顔つきを変える。
「憶えておらぬのか、貴様ら?」
 渠もまた当惑気味の目をして言葉を重ねた。
「うむ」
「さっぱりだ」
「いかにも」
「左様」
 と市右衛門を除く甦った死人たちが一様に首を縦に振る。
 ――そこで、市右衛門の脳裏に閃くものがあった。
「御前は、もしやこの者共が甦った件にかかわっておるのか?」
「いかにも、そうだ」
 またも怒りが熱を取り戻したらしく、相手は憤然と肯定する。
「そうであったか!」
 突然、平兵衛が大声を上げた。
 目を丸くする市右衛門と若者を前に、渠はさらに言葉を重ねる。
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