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チャプタ―38

チャプタ―38

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   六

 ――足軽たちとの戦いから三日が過ぎた。
 死ぬかと思うた……――薩摩の一宇治(いちうじ)城の城下に宿を取った市右衛門の感想がこれだ。
 なにしろ、日向の地を抜けるまで伊東の兵に散々に追いまわされた。
 間道を通り、時に道なき道を進み、と透波の八九郎がいなければとうに山中で迷子になっていただろう。
 なにも考えることができず、市右衛門は日の高いうちから床の上に横になったまま動かない。疲労で何も考えることができなかった。
 さすがに他の連中も疲れたらしく、渡りをつける、と言って出て行った八九郎以外の面子も同じような有様だ。
 特に、上方の育ちらしい道明の疲弊は酷いものだった。顔色が悪く、宿につくなり卒倒するように眠りに入っている。
 ……が、
「若、島津の殿様がお目通りくださそうでございます」
 八九郎が姿を現すなり声を張り上げたことで、つかの間の平穏は破られた。
「まことでござるか!」
 どこからそんな体力が湧き出してくるのか、平兵衛が飛び起きるなり尋ねる。
 いっそ、年老いた地下に取り付けばよかったというのに――。
 横になった姿勢のまま渠を半眼で見やり、市右衛門はいじけたような気分でそんな思いを抱いた。
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