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チャプター44

チャプタ―44

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 一方の家士も凄みのある顔つきをした男で、一筋縄ではいかない雰囲気を醸していた。手には長巻を模した木製の得物を握っている。
 三間より少し離れた間合いで向かい合った。
 木剣を使う清次郎の側は一歩踏み込む必要があるが、相手の側はその場から斬撃を繰り出せる距離で前者は不利を強いられている。だが、この時代の立ち合いはこういうものだ。太刀と長巻どころか、太刀対弓という仕合さえ行われることがあった。
 清次郎は太刀で左膝を防ぎつつ攻撃の機を狙う山陰(やまかげ)の構えを取る。
 相手の方は上段だ。
「始め!」
 判じ役の肝属兼盛が声を張り上げる。
 防御していない側に家士が猛然と長巻を振るった。
 早(はや)――清次郎は後ろに一歩引いている。流れるような動きだ。 
“風帆の位”だ――風をはらんだ帆かけ舟が水の上を滑るように身体の軸を垂直に立て、かかとを地につけて足を上げないで歩む運歩。
 同時に、剣尖が頭上へと持ち上がっている。
 が、敵もさるもの、長巻を手元へと既に返している。
 即座に先ほどとは反対側を下段への一撃が襲った――清次郎はやはり静かに後退して避ける。
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