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チャプタ―143

チャプタ―143

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   第三章

   一

 慶長五年(一六〇〇)、兵庫頭と手勢五〇〇は京に在った。
 ――そのなかには、市右衛門たちの姿もある。
 日の本は風雲急を告げていた。治部少輔(じぶのしょうゆう)側と徳川家康方に大名たちが別れ、戦に及ぶ気配を見せているのだ。

 だが、異変は市右衛門たちにも訪れていた。

「若、朝餉はまだでござろうか?」
 怪訝な表情で、平兵衛がたずねてきた。もちろん、その姿は祓魔師(エクソシスト)との戦いの折に乗り換えた透波のものだ。
 ――あの後日、人払いした状態で兵庫頭の御前に呼び出され、市右衛門は説明を求められた。
 誤魔化すのは無理だろう……そうあきらめ、市右衛門は正直にそれまでの経緯を明かした。
 兵庫頭はその言葉を、黙って凝っと聞いていた。
 その表情からは、その内心を推し量ることはできない。市右衛門は、強い緊張をおぼえながらすべてを語り終えた。
 すると、兵庫頭は一言ぽつりと言ったのだ。
「見上げた心意気だ」
「は――?」
 思わず市右衛門は、兵庫頭に対して素っ頓狂な声を上げてしまう。
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