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チャプタ―145

チャプター145

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「いかがしました、若?」
 そんなこちらに、渠が気づかわしげな声で言葉を重ねる。
 平兵衛――冗談の類ではないのだ、そのことを相手の態度から市右衛門は悟った。
「――平兵衛、朝餉は既に済んでおる」
 息苦しさと共に言葉を吐き出す。
「なにを申しております、若? そんな莫迦なことなど――」
「腹がまことに空いておるか、平兵衛?」
 不機嫌な顔の家臣の言葉を遮った。泣きたいような心持ちで。
 ――平兵衛が黙考する。
 いわれた通りだ、そのことに気づいたのか怒りを引っ込めた。代わりに、困惑を面(おもて)に刷く。
「これは、いかなる事由があって……」
 そう言いかけ、平兵衛が首を左右に振った。

 市右衛門は、すぐに道明にこの事実を告げ相談した。

「限界が来ているのだろう」
 道明――「側に居たい」と言って共に戦場に立ちつづける“妻”が、顔をしかめてそう答えた。
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