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チャプタ―21
君へ向かうシナリオ22
しおりを挟む「まあ、第一高校出身なの」
「はい。祖母がどうしても入ってくれ、と懇願までするので。どうも、女子ばかりの中に身を置かせることで女性らしくなるんじゃないか、と思っていたらしくて」
「あら、十分に可愛いのに」
祖母と翔花の会話は予想とは百八十度反対の、穏やかな流れになった。
ちなみに、第一高校というのは熊本の共学の公立高校なのだが、元が女子高だった学校でとある年に数人の男子が入学したものの、女子総出のイジメを受けて辞めるという悲惨な出来事が起こったという背筋の凍る歴史がある。
「いえいえ。お祖母(ばあ)さまこそ、お綺麗で」「もう、お上手ねえ」
翔花に引きずられて祖母までも口調で上品になっているのが僕には気色悪い。
そもそも、翔花はこんなふうにTPOをわきまえた話し方ができたのかと驚かされている。とすると、数々の人間をヒカせてきた虫トークもわざとなのだろうかと勘ぐりたくなった。ただ、翔花と祖母の会話がはなれたテーブルで交わされているように僕には遠くに感じられる。
『そういえば、新しい教授についてわたしたちの研究室に移ってきた人が、分解者についての研究をしてるの』
脳裏に翔花の言葉と、なによりも網膜に焼きついている目の輝きが甦っていた。
イタリアンのレストランの料理を機械的に口に運んでいるが、美味しいのか不味いのかいっさいわからない。味をまったく感じないのだ。
「ご住所はずっといっしょ?」
「いえ、元々は熊本市内に住んでました」
「市内というと、水前寺公園や江津湖があるわね」
「ご存知なんですね」
「この子が小さなころ、娘といっしょに連れて行ったことがあるのよ」
「いいですね」
「でも、大変だったのよ。この子が池に落ちちゃって、もう娘が怒り心頭で」
ねえ、と祖母がこちらに目を向けたのに、僕は一拍遅れて気づいた。
「んん」
「あんた、なにボーっとしてるのよ」
肯定とも否定ともとれるような微妙な声を出した僕に、祖母が思わず地を出して聞いた。
「ここのところ、ちょっと忙しかったから疲れが残ってて」
「男がなさけないことを言ってないの」
とっさに口にした言い訳にも祖母は不満を示す。そこに、
「まあまあ、彼の仕事は大変みたいですし」
翔花が救いの手をさしのべてくれた。
とたん、彼女が同席していることを祖母は思い出し、
「それもそうねー」
と猫をかぶり直した。その豹変ぶりはそれこそ猫の目顔負けだ。
ただ、今日はそんな祖母に対しても特になにも感じない。
それよりも、
『新しい教授についてわたしたちの研究室に移ってきた人が――』
というのことのほうが気になっていた。
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