俺がそれを好きだからといって俺自身がそうなりたいわけじゃないっ！

１章

食料の確保だ

「あ」

　そこそこ高さのある木に赤々とよく熟れたりんご（のようなもの）を見つけた。食えんのか？
　ここは少し家から離れた場所。迷うのは嫌なので家にあった紐をちぎっては木に結び、地面を掘って跡を残す。そしてそう遠くない場所までやってきた。
　適当に木を蹴って実を落とそうとしてみる。落ちない。そもそもこの美少年の体では非力すぎるのか。木に登るのは単純に危険だ。インドアの俺ではもし落下しても受け身が取れない。
　はっ！こういう時の魔法か！……とはいえ何を唱えるべきか……。持ってきた本によさそうな魔法があればいいが。
　ぺらぺらと捲って一ページずつじっくり……読んではいけない。危ない。こんな得体の知れない森でくつろいではいけない。早急に食べ物を確保して、早急に帰らなければならない。
　全くと言っていい程この森から生き物の気配がしないが、もしかしたら気配を消して虎視眈々と俺のことを狙っているかもしれない。恐ろしい。大人しく肉塊になるつもりなんてない。最悪、火で丸焼きにすればいいが……それは俺の身も焼けてしまうかもしれない。

「あ、これとか……風を吹かせてください！」

　唱えたと同時に、まともに立っていられないくらいの暴風が吹き荒れた。

「ぎゃあああああ！！強い強い強い！！ありがとうございました！！！」

そして礼を言うとスンと止んだ。なんだよ、もう少し加減をさせてくれ。
　あたり一面、台風が通過したみたいに荒れている。そしてりんご（のようなもの）も、それ以外にも木の実がたくさん落ちている。どこから飛んできたんだろう。まあいい、ラッキーだと思おう。そしてこれを全部回収して戻る。もしかしたら食べられないものもあるかもしれないからあるだけ持って帰るのだ。