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リュライ

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1


色変えぬ松のごとき王は竜Q国の北の端『竜の顋』と呼ばれる岬に居る

色変えぬ松のごとき王の名はリュウライ

竜Q国王リュウライの供はいま二人

リュウライ王は『竜の顋』の先端に立ち海に対峙している

王は水平線の彼方まで見透かそうとしているのだとゼンセンは思う

「ゼンセン、あの者は
どこから来た? 」

王に問われた者は強靭な筋力と強大な精神力をあわせもつ若者である

竜Q国の若者は概ね気難しく寡黙である

ゼンセンはその気難しさと寡黙さを壺にたっぷり入れて洞窟の奥深くに百年寝かせて熟成させたような男である

若くしてすでにゼンセンは近衛隊の長である



2


城の地下深く牢が並ぶ空間の最も奥の牢

じっとりとした異臭淀む
なれどその牢の内部になぜか爽やかな風が吹いている

不思議なことにスィーナ湖の涼しい風が牢に吹いている

ぴたりと牢の真ん中に座しているのは竜Q王が言うところの「あの者」である

竜Q人ではないことは明らかである
肌が白い、というより青に近い

春の穏やかに晴れた空色の肌をしている男

竜Q人にとっては
そのような肌の男は軟弱であり、疑わしい策略を秘めたおぞましい性格を持つ男に違いないのである

竜Q人の男は土色の健全な肌を誇りにしている 

幼いころより畑や海で働き、その他の時間に武道と兵法を習得する

強大な武の国竜Qの誇りが男達ひとりひとりにしっかりと染み込んでいる

タクトフービはその名のみを竜Q王に明かした

銀色の長い髪を謎の風に靡かせて穏やかな表情のタクトフービ



3


「タクトフービと名乗った あの者はG牙国より来た者と
いたしましょう 」

リュウライ王の問いに答えたのは近衛隊長のゼンセンではなかった

骸骨より細いと形容される痩身の男プムラである

プムラは第三軍師の地位にある

第一と第二軍師はいま東の前線にてそれぞれ戦の指揮を取っている

竜Q国はいま東の二国より攻撃を受けていた

晴天の霹靂のごとき突然の攻撃である

武の大国である竜Q国に挑むほどの国力は東の二国にはない

軽んじていたことは否めない

二国を間に置いて
東には古き大国T舵がある

T舵国はしかし長年に渡り竜Q国と良好な関係にある

正式な条約を交わしてはいないがT舵国が二国を操り竜Q国を攻めさせる理由があるとも思えない

そのようなリュウライ王の思考を読んだようにプムラは

「あの者は南の大国G牙から送り込まれた密偵ということにいたしましょう 

G牙国は近年着々と武力を増大させております 

この機会にG牙を叩いておくに越したことはありません 

タクトフービが真にG牙国の者とは、このプムラにも
思えませぬが…  」






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