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第一章
4記 ミコとベニー
しおりを挟む一週間前・・・・・・。
「まって~・・・。ちょっ・・・。ちょっと、ベニーさん・・・」
夕方。野宿で必要な簡易用マットと毛布、食料に、狩った猪の素材。狩に出かけたのならもちろん一般的な量の荷物になのだが、ミコは召使として、この三日間の狩に出かけるには初心者すぎた。膝に手をつき、息を切らすミコ。その為、ベニーに荷物を少し持ってもらっていたのだが、それでも体力面だけはどうにもできず、持っていた荷物を地面に下ろし、「今日は・・・無理」と言い出した。
「えー?もう休憩?あと半日で街に着くのに~、もうちょっと頑張ろうよ」
彼女はベニー。狩人になりたてで、先行して敵が見つかれば仲間に知らせる、支援型。金色の短髪にミコよりも背は頭一個分高く、体力に自信があり、足が速い。ベニーは旅をしながら狩人をしているのだが、その道中にこの街を見つけ立ち寄った所、猪が繁殖し農作物を荒らしている依頼があった。そこに役所で出会したミコと一緒に、依頼をこなしにやって来ていた。
「いや・・・。ぜぇ・・・。ぜぇ、やっ」
「や?」
「やっぱむりいいいぃぃぃ!!!!」
その夜。近くの岩陰で休む事になり、焚き火をしたベニーが帰りに猪の肉を串焼きのようにして食べていた。だが、ミコはすでに慣れないことの連続で疲労が溜まり、うつらうつらと睡魔に襲われていた。その様子を見てベニーが「ふふっ」と笑った。
「ミコちゃん、もう寝ていいわよ。お疲れ」
ミコは既に敷いていた簡易用マットに横になりながら「はい~」と一言だけいい、すぐに寝てしまった。その様子をベニーは「仕方ないな~」と小声で言いつつ毛布をかけてあげた。
深夜。あれから少し経ち、見張を交代するため起こそうとした時、一つの影が少し遠い位置から駆け抜けていくのが見えた。それを見たベニーは暗くて分からずにいたが、狩人の感で焚き火の火を消し様子を窺った。
(大きな体・・・四本足・・・あれは、マ獣!!)
通り過ぎては行ったが、街の方に走っていくのが見えた。嫌な予感がしたが、ミコがいては何も出来ないと思い、閃光弾を空に向かって打とうとした。だが、このままではミコを巻き込んでしまう。ベニーはミコを揺すり起こした。
「起きて・・・。起きてミコちゃん!」
「・・・んあ・・・・・・なんすか」
起きた。気持ちよく爆睡していたのを無理やり起こされたミコは少し不満げだった。だが、次の一言で意識が変わる。
「マ獣よ」
「っ!」
「悪いわね、寝てる暇はなさそうよ。さぁ、準備して」
マ獣を追いかけてた先はセレヌスだった。マ獣はギートス平原でも木々が生い茂っている所に身を隠すようにして、止まった。ベニー達は見晴らしのいい高い場所にうつ伏せで隠れ、離れた位置からマ獣の様子を窺っていた。マ獣の位置からセレヌスまでは、まだ距離がある。しかし、このまま観ているだけだったら確実に街は被害に遭い、住民は恐怖に溺れるだろう。たった一匹のだったとしてもセレヌスは治安のいい地域らしく、その為か戦える狩人はほとんど来ない。
マ獣を初めて見たミコは少し怯えていた。さっきまで爆睡していたのもあり、あまり眠れてない、急に叩き起こされたのだ。現状を把握するのに少し時間がかかる為、危機感が薄くなっている。その為か、ミコは今とても戦える状態ではないという事もベニーから見て明らかだった。それと同時に、マ獣が現れた事も疑問だった。
「おかしいわね」
「・・・なにがですか?」
「いえ・・・こんな夜中にマ獣が彷徨くなんて・・・・・・マ獣はね、昼に活動する事が多いのよ。もちろん夜行性もいるみたいだけど・・・でも何が目的なのかしら」
「どういう・・・事ですか?」
「街を見ているだけで、動かないのよ・・・気味悪いわ」
マ獣はゆっくりと街の方へ歩き出した。今マ獣を行かせれば、多くの被害や混乱が巻き起こる。そうなってしまったら、取り返しのつかない事にもなりかねない。だからと言って、追い返すことが出来たとしても、ここに街があると分かった以上、昼になったら襲ってくるかもしれない。
「くっ!ミコちゃん、今から動けるかしら」
「えっ!?」
ミコはベニーが喋る度に敏感に反応してしまっていた。それは新鮮で緊迫した状況。ミコにとっては全てが刺激的だった。その為、状況が理解できずにいる。
ベニーの正義感と自信が前のめりにさせる。支援型の彼女に出来るのは数限られているが、召使が入ればもしかしたら追い払えるかもしれない。そう思ってしまったベニーは自分の価値観だけで動いていた。
「いくよ。ミコちゃん!ついてきて!」
そう聞いたミコだったが、マ獣とは戦ったこともなく、見たのも初めてだった為に不安いっぱいな顔をし、何も言えず、聞き返すことしかできないでいた。ベニーは立ち上がってマ獣を追いかけようとした。
「へ!?・・・行くって・・・どこにですか!?」
ミコは弱く怯えた様子で立ち上がりながら聞いた。ベニーについて行かなければいけないのは分かっている。でも、足が震えてしまい動けずにいた。その様子を見たベニーは・・・
(この子をこのまま連れてったら確実に殺される。やっぱり私一人で行くべきか・・・相手はおそらく中型のマ獣、一人で行くべきか・・・)
悩んでいる時間はなかった。ベニーもけして経験が浅いわけではない。狩人になるまでにいろんな人達と共に旅をして経験を積んできていた。それが、結果的に今に繋がっている。だが、タイミングや状況が悪いのは確かだ。
「私・・・結構運が良い方なんだけどな・・・」
「え?」
今から仲間を呼んでもらいに行くのにも時間はかかる。そこから敵を引き連れて、自分の所まで連れて来てもらうのに一体どれだけかかるのか、瞬時には考えられなかった。ただ、マ獣をなんとかしなければ。その気持ちだけが彼女を動かしていた。
(マ獣をこのまま行かすくらいなら自分一人で戦って、仲間を呼んできてもらう方が得策かもしれないわね)
そう思ったベニーは、ミコの両肩を不安にさせないよう優しく両手で掴んだ。
「いい?ミコちゃん。・・・あまり時間がないの。だから、一回だけ言うわ。それをこの先のセレヌスにある役所まで伝えに行ってくれる?地元なら何処にあるかはわかるわよね?」
「は・・・はい・・・でもベニーさん・・・は・・・?」
不安な顔をするミコにベニーは精一杯の笑顔を見せ、不安にさせないようにした。
「私なら心配ないわ!あんな奴らなんかたくさん狩ってきたんだから!」
肩から両手を離し、ゆっくり振り返った。不安な表情は見せれなかった。それを見せてしまえば、ミコは動けないだろう。強い自分だけを見せ、振り返った。
「だから・・・待ってるからさ!・・・頼んだよ!」
「ベニーさ・・・」
ベニーはマ獣に向かって走った。肩から掛けてるホルスターから閃光弾の入ったハンドグレネードランチャーを取り出し、射程距離まで入った所で止まり、マ獣に向けて撃った。瞬く間に閃光弾の光は真夜中を照らす。ベニーも光を直に喰らわないよう、顔を腕で隠した。その光に反応したマ獣が街に向かう足を止め、ベニーの方を向く。光で目を閉じ後退りしたが、マ獣はベニーを見つけると、二本足で立ち上がり荒れ狂うような咆哮をする。
「グォォオオオオッ!!!」
ベニーは目を開くと暗闇で見えなかったマ獣の姿が露わになる。その姿は遠くで見ていた姿よりも圧倒的に大きく、動物として見るなら熊のようだ。
「・・・うそ・・・・・・でしょ・・・」
人の倍はあるその大きさにベニーは驚きを隠せないでいたが、後ろにはミコがいる。今戦えるのは自分しかいない。そう思ったベニーは怖い感情を走る力に変えた。
「さぁ!こっちよ!」
ベニーは街にマ獣が行かないよう、自分が囮になり、街とは反対方向に走り出し、それに反応してマ獣もベニーを追いかけた。
しかし、それを見ていたミコは、まだ怖気付いていた。頭ではわかっている、今行かなければベニーが危ないという事も。
「・・・っ!」
(何怖気付いてんのあーち!!・・・ベニーさんがここまでしてんのに・・・・・・動けあーち!!)
自分がこのままでは、ベニーの行動が無駄になってしまうと思うと。段々とミコの視界が涙でにじむ。ミコは自分が情けなく感じてしまっていた。ベニーから託された街に戻り役所に行き応援の狩人を呼ぶ。ミコもまた、覚悟を決めた。
「・・・・・・っ!!」
顔つきが変わり、少しの勇気を出したミコは、急ぎセレヌスの役所まで走った。
ベニーは一定の距離に近づいたマ獣に閃光弾を浴びせ、足止めをしながらギートス平原を走り続け、とある深林へそのまま入った。駆け抜けて行った先に大きな大木があり、そこに隠れ一旦状況を整理しようとした。走る最中、泥に足を取られ体勢が崩れ掛けた。なんとか持ち直し大木の影に背中合わせで隠れ、息を落ち着かせながらしゃがんだ。少し経った後に、覗き見ると喉を唸らせたマ獣が、泥についた足跡の匂いを嗅いでいた。その様子を見たベニーは見つからないように、大木の陰に隠れる。
(しまった・・・さっき足を取られた場所だ・・・・・・どうする・・・今のままじゃ見つかるのも時間の問題。このままじゃ、助けを呼ぼうにもミコちゃんが役所についてるのかもわからない・・・もっと作戦考えておけばよかった・・・)
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・っはぁ・・・」
ベニーは自分の不甲斐なさや無責任さに自己嫌悪していた。
(以前は仲間がいた、だから・・・気ままな狩人をしていたけど・・・やっぱり・・・)
目を瞑る、当時の仲間達の笑顔、共に戦った記憶。そして、ミコとの少ない期間だったが旅の記憶とその楽しそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。正義感という歯車が単独で回り過ぎてしまった為に感じ取っている、浅はかさ。今は、自分を責めるしか出来ないでいた。
「・・・はぁ・・・・・・っ・・・・・・はぁ・・・」
(だめだな私・・・・・・)
大型のマ獣を誘導し、心臓が破裂しそうなくらい鼓動する。落ち着かせる為に、手のひらを胸に当て、深呼吸する。たった一人で、あの大型のマ獣を相手にしようと思っていた訳ではない。でも、あの時はそれしかなかった。
ほんの少しだけだが落ち着かせる。もう一度、状況を確認しようと覗き見た時、マ獣はこちらに気付いたのか、見つけたかのような反応を見せ、顔を向けた。その瞬間に隠れたベニーだったが、緊張感で抑えていた恐怖という感情が、蘇ってくる。
死んでしまうのではないか、そう思えば思う程に冷静な判断が出来なくなっていく。自分は誘導をしていたのではない。既に、森に入ってからは追い詰められていたのではないか。そう思うまでに。
足が震え、抑える様に足を抱え込む。マ獣が一歩ずつ確実に近づいてくる。
(・・・諦めて・・・たまるもんですか)
諦めない、死にたくない。その気持ちだけが、頼りだった。
その時、手を叩く音が聞こえ、その音はニ回鳴り響いた。大型のマ獣はその音に反応し、動きが止まった。
(・・・なに・・・今の・・・・・・?)
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