異世界旅行は命がけですがよろしいですか?―バウガルドの酒場冒険譚

永礼 経

文字の大きさ
12 / 44
見習い冒険者よ生き延びろ

第11話 先輩冒険者と出会うのも楽しみの一つだよね

しおりを挟む

 テーブルの上にはまだ『バウガルドの酒場』が置いてある。箱はずらしてあけてある。
 これは『ダイシイ』ではお決まりの状態だ。その机は使用中で、ダイバーが現在バウガルドへ行っていることを表している。


チリリ――ン――。

 という音は、『ダイシイ』の玄関の扉についている、ベルの音だ。風鈴といったほうがよいか。 
 
「よお、ケイコちゃん。今日もかわいいね」
いま玄関から入ってきたばかりの男の人がケイコ君に声をかける。年齢は40半ば、背はそんなに高くないが、体つきはがっちりしている。結構鍛えられている感じだ。

「あ、ゲンゾウさん。それ、あまりうれしくないですよ? ほかのお店でやってませんよね?」
ケイコ君が率直に気持ちを伝える。

「あれ? そうなの? こないだいった店だったら、喜んでくれたんだけどなぁ――」

「ゲンゾウさん、それどんなお店です? たいていそういうお店はいわゆるリップサービスというやつですよ? 真に受けてどうするんですか」

「は、ははは。ちょ、ちょっとしたシャレだよ。まいったなぁ。ケイコちゃんにはかなわないな」

「――で、今日はどうするんですか?」
ケイコ君はややきつめの口調で押し込む。

「ごめんって。もう言いません。機嫌直してください!」
ゲンゾウさんは直立不動の態勢から90度近く腰を折ってケイコ君に頭を下げる。

「ふふ、わかればいいんです。今日もバウガルドでいいんですよね。店長、バウガルド旅行1名様です~」
ケイコ君の圧勝だ。って、勝ち負けの問題でもないか。

「ん? もう誰かバウガルド向こうに行ってるのかい?」
ゲンゾウさんがテーブルの上に開け放しの『バウガルドの酒場』に気付いて声をかけてきた。

「あ、ああ、高校生の男の子二人ですね。一時間ぐらい前に行ったので、そろそろダイブから10時間ぐらいじゃないですかね、どうなんでしょ? 多分今日はまだしばらくいると思うんですけど――」
ケイコ君がそのテーブルのマモル君とケンジ君について答えた。

「そうか、バウガルドは今何時ごろかな、店長――?」

 私は手元の早見表を見る。それを見れば向こうの現在時刻がわかる便利な表だ。

「えっと――、今14時30分なんで、向こう時間は、午後19時ごろですね」
私は手元の早見表を見て答える。

「そうか、クエやって報酬もらってってやってれば、ちょうど戻ってくるぐらいの時間だけど、どうだろ? 帰還してくるかな――」
とはゲンゾウさん。
「どうでしょうね、でも彼ら今日が初クエだって言ってましたから、宿泊はしないと思うんですよね」
これはケイコ君だ。

 どうして宿泊しないかというと、単純な話だ。所持金が乏しいうちは、向こうで宿泊するよりも、帰還して、休憩した方がお金がかからないからだ。帰還して再ダイブすれば、体力も完全回復してる状態に戻る。その方が時間的にも金銭的にも効率がいいのは明らかだからだ。
 
「ん~、もう少し待ってみるか。今日が初クエというなら、初めは余程無茶するやつらじゃない限り、お使いクエか単純労働クエから始めてるだろうから、戻ってきたら、声かけてみるかな――」
ゲンゾウさんはそう言って、テーブルの席に着いた。

「ゲンゾウさんも冒険者やってましたよね? 今クラスなんでしたっけ?」
ケイコ君が質問する。

「俺はまだまだだよ。やっとシルバーまであと少しってところだよ」

「ほとんどでそこまで上げるの大変だったでしょ? すごいですね」

「へへ、なかなか他の人と足並みが合わないからね、仕方ないよ。向こうで傭兵雇ってもいいけど、それだと実入りが少ないしね、結局ちびちび町周辺のクエから初めて、ぼちぼちやってる。それでも充分楽しいからな――」

 『バウガルドの酒場』の面白いところは、これが基本的には旅行だというところだ。
 向こうでの経験はそのまま体に反映される。つまり、クエストをこなしてゆくことで、実際に体が鍛えられていくということだ。それなのに、向こうで受けたダメージはこちらに持ち越して帰還しなくていい。戻ったときに命さえあれば完全回復状態で帰還できる。
 要は、『死ななければ、長い時間生きられる』ということになるわけだ。

 このシステムはうまく使えば、ある意味、寿命が延びていることと同義の意味を持つことになる。
 このことに気付いている人はまだまだ少ないが――。

 などと、話をしている時だった。ゲンゾウさんの隣のテーブルに置いてあった『バウガルドの酒場』の箱から発光したかと思うと、そのテーブルの椅子に二つの人型の光が現れる。

「お? 帰ってきやがったな――」
「ですね」


 光は間もなく、実態を帯びた人型となり、マモルとケンジは無事に帰還してきた。

「おかえりなさいませ~。おつかれさまです!」
ケイコ君が元気よく迎えの言葉をかける。

「ああ~。ケイコさん、ただいまぁ~。めっちゃ疲れましたわ~。初クエ、無事完了っす!」
「なんか、ケイコさんの声聞いたら、ほっとしちゃいますね」

「でしょでしょ? お姉さんに惚れるなよ? 少年ども」
ケイコ君は相変わらず場をなごますのがうまい。

「おう、お疲れさん! 初クエは何やったんだい?」
ゲンゾウさんが無遠慮に聞く。こういうところは年の功というやつだろう。

「あ、えっと。収穫作業です……芋の――」
マモルが少し恥ずかしげに答える。

「お? まじかぁ! 俺もやったぜ、あれ。昼飯の前に親父さんからもらったキュウリがうまいのなんのって、お前らも食ったか?」
ゲンゾウさんも経験者だったようだ。

「あ、いえ、僕たちはトマトでした。でもめっちゃうまかったんで感動しました! あんなに旨いトマト多分もう忘れないです!」
ケンジがやや興奮気味に答える。

「まじかぁ~。トマトもうまそうだなぁ~。また暇があったらやってみるかな~」
ゲンゾウさんもそのトマトが気になったようだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...