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ファンタジー好き女子高生の一人旅
第33話 怖いのは当たり前、恥ずかしいことじゃない
しおりを挟む翌々年、桜が謳歌し始めたころ。
南野麻衣は、大阪から東京へ出てきていた。
大学は麻衣が通っていた私立高校の上位校への進学が決まっていたのだが、その道は選ばなかった。
父母にはどうして系列校へ行かないんだとうるさく説得されたが、麻衣が受験希望校を伝えると、それならばもし合格したら下宿させてやると約束を取り付けた。
正直両親はまさか合格するとは思っていなかったのだろう。
さすがに系列校に進学するよりは圧倒的な知名度を誇る大学の名前を出されれば、両親も合格したら、という条件を提示しないわけにはいかなかったようだ。
ともあれ、目的は達した。
麻衣は当初の目的通り、「東京の」大学に入学し、「東京に」住むことになったのだ。
そうしてようやく今日からたった一人での新生活が始まったのだ。昨日までは母親が一緒に部屋に住んでいたのだが、ある程度生活のリズムも安定してきたし、入用のものも大方そろったということで、先ほど昼過ぎに東京駅まで見送りに行ってきたところだった。
「ああ~~~。やっと、やっとひとりになったぁ――!」
麻衣は思いっきり伸びをした。
この日を私は待っていたのだ。
一人になれば行きたいところに行けるというものだ。
さすがに母親が部屋にいるのに、放っておいて一人で遊びに出かけるわけにもいかず、先週引っ越してきてからはずっと昨日まで、新しい生活のための準備や買い出しに追われていたのだ。
一週間、いや、大阪の本町商店街の「ダイシイ」に最後に行ってからはなんだかんだ言って2週間ほどはバウガルドにダイブしていない。
「さあいくぞ! ここからなら30分もかからないからね」
目的地は一つ。
ボードゲームカフェ「ダイシイ」東京羽原支店――。
そうだ、あの人がそこからダイブしているはずなのだ。
麻衣はその足で地下鉄の駅へ向かった。
******
「ダイシイ」羽原支店のビルの前まで来ると、麻衣は急に不安になってきた。
大阪の本町支店のエントランスはもう何の抵抗もなくパスできるというのに、同じチェーンのお店とはいっても、このお店に来るのは初めてなのだ。
初めて本町支店の扉を開けたときはなんというか好奇心の塊で、若さもあって怖いもの知らずだったが、あの時から比べると麻衣も2年ほど年を重ねて少々大人になっている。
(ここまで来てなにをビビってるの? 麻衣、しっかりしなさい。あの人に会いに来たんでしょ?)
そう自分に言い聞かせるのだが、なかなか足が前に進まない。
あれだけバウガルドで散々危険な目にあったり、苦しい状況を潜り抜けてきたというのに、こんな、命の危険も何もない場所へ足を踏み入れることが怖いなんて――。
麻衣は自分の情けなさに自然と涙があふれてきた。
(いやだ――。こんなところに突っ立って、涙してるのって、どう見てもおかしな女じゃないの――)
やっぱり、帰ろうか――。
また日を改めたら、気持ちも前向きになるかもしれない。
そうだ、今日は気乗りがしないんだ。また違う日に来れば今度はきっと――。
そう思って、踵を返し、地下鉄の駅の方へと戻ろうとした時だった。
「おい、おまえ! また、逃げるつもりなのか?」
そんな声がした。
その声は、少ししゃがれた、やたら元気な声――。
「え――?」
「おまえ、初めてバウガルドに来た時もそうやって帰ろうとしてただろ? おぼえてるぜ?」
麻衣は背中から聞こえてくる声に聞き覚えがあった。でも、今は振り向きたくない、こんな顔を見られるのは嫌だ――。
せっかく精一杯おめかししてきたのに、涙で化粧もボロボロだ――。
「――んで? なんで、そうやって知らない子にでも気やすく声をかけれるんですか――?」
「ああ? ああ、すまん、確かにこっちで会うのは初めてだったな。でもおまえ、マイだろ? なんか初めて会った時と様子がほとんど同じだったんで思い出しちまったぜ?」
「――――。答えに、答えになってません、よ?」
「ああ、そうだな。話せばちょっと長くなるんだ、だから、あっちでゆっくり話そうぜ?」
「あっち?」
「あっちっていやあ、一つしかねえだろ? 俺たちはダイバーなんだからよ?」
麻衣は、しばらく答えが返せなかったが、ようやく落ち着いてきた。化粧はボロボロで、おめかしはもう見る影もない。でも、そんなことはあっちの世界じゃ当たり前だった。
真っ黒にすすけた顔に、全身切り傷だらけの体、ぼさぼさに乱れた髪――。でも、この人はそんなところは見ていないのだ。
そうだ、私はダイバーなのだ。
「そ、そうね。私はダイバーだったわね――」
「ああ、『閃光』のマイ、それがお前だろ? さあ、いくぞ?」
麻衣は意を決して踵を返し、思いっきりの笑顔でこう返した。
「『竜撃』キョウヤ――、初めまして、これからもよろしくお願いします――」
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