391 / 407
第391話 黒い船
しおりを挟む数刻後――。
夜は完全に更けてしまって海上は真っ暗だ。ただ、今日は月が青い。なるほど、満月か――。
キールたちもこれまでに海上を捜索してきたが、場所がこんな海上で、しかも、満月の日にしか荷物を受け渡ししないとなると、発見するのは容易ではないのもうなづける。
あの男の言うように、海上に浮かぶ黒塗りの船を見つけたときは、さすがに正確な場所がわからなければ発見が難しいのを痛感した。
キールとワイアット、それに衛兵隊から数名、キールの船の乗組員も数名が乗り合わせ、3艘のボウトはゆっくりとその黒い船に接近した。
船の形状はまさしくエルルート製の大型帆船で、いわゆる大陸間巡行用の様式だった。
接舷すると、縄を渡し、ボウトを船から離れないように固定する。そうしておいて積み荷を受け渡しするために(実際はやらないが)、キールとワイアット、衛兵隊の一人が船上に乗り込んだ。もちろん、服装は変えてある。
船に乗り込んだ瞬間、キールは幻覚魔法を発動し、荷受け役の者たちを術中に取り込んだ。荷受け役に配置されていた6人ほどのエルルートはその場に頽れて、ぼーっと放心状態になっている。
「――ったく、一瞬かよ。相変わらずとんでもねぇ奴だな」
などと軽口をたたくワイアットだが、キールは、
「いまのでさすがに魔法感知に引っ掛かる。すぐに船内の連中が上がってくるぞ? さっさと準備をするんだな――」
と、ワイアットに向けて言い放った。
「ここからやっと俺の出番ってわけだ。――よっと! さあ、やろうか!」
ワイアットは自分が元居たボウトから放り投げられた剣を空中で掴むと、それを腰のひもにねじ込んだ。そしてすらりと剣を抜き放つ。
甲板上の異常を察して駆け出してきた最初の数名は船内から甲板に頭を出すなり、首が落ちた。
相変わらずの早業だ。
剣の腕だけ見れば、あの『疾風』を上回っているのではと思わせる。
だがそこからはさすがにそう簡単には行かない。なにせ、相手はエルルートなのだ。
つまり、『守護精霊がいる』。
こちらの陣容は、キールとワイアット他、衛兵隊員4名、キール配下のエルルート5名の計12人だ。
まずはキール配下の一人が『守護精霊』を具現化する。
彼の『守護精霊』は、実体のない黒い霧だ。その霧で船の甲板上を覆いつくした。これで、視界が制限される。相手の方が多い時は、各個撃破していくのが上策だ。時間はかかるが、それが狙いでもある。
次に、もう一人の『守護精霊』も具現化した。彼の『守護精霊』は氷の巨人だ。体長約2.5メートルほどの大きさの氷でできた『錬成生物』である。
コイツが一体いることで、相手の注意が集中することになるだろう。
視界が悪い中、ひと際大きな『錬成生物』に甲板上を暴れまわられれば、どうしたって無視できない。
残りの者たちは霧に紛れて敵を無力化してゆけばいい――。
相手の中には『戦闘系守護精霊』を宿しているものは多くなかったようで、一番のハイライトは、『土魔人』の出現だったが、こちらの『氷魔人』と数合結んだ挙句、バラバラに破壊されてしまった。
もちろんその間にもワイアットの剣によって、主人の方は打ち取られてしまっている。
おおかた甲板上が片付いた頃、船に「どん!」 「がくん!」という衝突音と衝撃とが走った。
「うお――!?」
ワイアットの声が響いたが、キールは無視して目の前のエルルート一人を氷漬けにした。
数瞬後、船の甲板上に幾重ものロープが投げ込まれてくる。
「ワイアット! ロープを適当な場所に結びつけるんだ!」
キールの指示に、あらかじめ作戦を伝え聞いているワイアットが大声で返す。
「――ああ! わかってる!」
「ミューゼル! この船を拿捕する! 艦橋を制圧してくれ!」
キールは乗り込んできた自分の配下の一人、副長のミューゼルに指示を送る。ミューゼルは軽く手を上げて応じると、数名を連れて船の舵を占拠すべく艦橋の方へ走り去っていった。
「僕たちは船長室だ」
「いよいよボス戦だな?」
「殺すんじゃないぞ?」
「わかってるよ――殺しゃしないって」
そういう会話のあと、二人は船長室の方へと向かった。
船長室はそれなりの広さがあるが、さすがに剣を振り回すほどの広さはない。が、それは「こちら」だけの事情である。相手が船長室から出てこなかった理由はそこに在ったのだ。
「せまいな――」
「当たり前だろう? 船の中だぞ?」
「いや、大陸間巡行船なんだからもうちょっと大きいのをイメージしてたからな」
「この大きさも、発見されにくいようにするためのものなのだろう。実際のところは船はかなり丈夫だし、この大きさでも充分にエルレアと行き来することはできる。大陸間巡行に必要なのは、正確な位置の把握と、余裕のある食料、それから、船員の練度だけだ。それさえあれば、さっき漕いできたボウトでだって理屈上は可能だからな――」
などと会話をしている目の前で、一人のエルルートの男が幅広の曲刀を構えていた。
「お前ら、俺を舐めてるのか? 人の部屋でくちゃくちゃしゃべりやがって――」
と、おそらく船長だろう男がそう言った。
「舐めるも何も――。そんな格好で、何を言ってももう遅いんだよな。お前は気付いてなかったかもしれないけど、「もう」終わってるんだよ」
パチン――と、指を鳴らす音が響いた。
キールの指の音だ。
次の瞬間、船長は甲板のマストにロープで括り付けられている状態になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情され、異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第2巻発売中です!】
逞しく成長したリューク、そしてジーナ、ユフィオ、キスティーが大活躍します!
皆様どうぞよろしくお願いいたします。
【書籍第3巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。アニスもレムも超カワで、表紙もカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【2024年10月23日コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる