お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経

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第391話 黒い船

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 数刻後――。
 夜は完全に更けてしまって海上は真っ暗だ。ただ、今日は月が青い。なるほど、満月か――。

 キールたちもこれまでに海上を捜索してきたが、場所がこんな海上で、しかも、満月の日にしか荷物を受け渡ししないとなると、発見するのは容易ではないのもうなづける。

 あの男の言うように、海上に浮かぶ黒塗りの船を見つけたときは、さすがに正確な場所がわからなければ発見が難しいのを痛感した。

 キールとワイアット、それに衛兵隊から数名、キールの船の乗組員も数名が乗り合わせ、3艘のボウトはゆっくりとその黒い船に接近した。
 船の形状はまさしくエルルート製の大型帆船で、いわゆる大陸間巡行用の様式だった。

 接舷すると、縄を渡し、ボウトを船から離れないように固定する。そうしておいて積み荷を受け渡しするために(実際はやらないが)、キールとワイアット、衛兵隊の一人が船上に乗り込んだ。もちろん、服装は変えてある。

 船に乗り込んだ瞬間、キールは幻覚魔法を発動し、荷受け役の者たちを術中に取り込んだ。荷受け役に配置されていた6人ほどのエルルートはその場にくずおれて、ぼーっと放心状態になっている。

「――ったく、一瞬かよ。相変わらずとんでもねぇ奴だな」

 などと軽口かるくちをたたくワイアットだが、キールは、

「いまのでさすがに魔法感知に引っ掛かる。すぐに船内の連中が上がってくるぞ? さっさと準備をするんだな――」

と、ワイアットに向けて言い放った。

「ここからやっと俺の出番ってわけだ。――よっと! さあ、やろうか!」

 ワイアットは自分が元居たボウトから放り投げられた剣を空中で掴むと、それを腰のひもにねじ込んだ。そしてすらりと剣を抜き放つ。

 甲板上の異常を察して駆け出してきた最初の数名は船内から甲板に頭を出すなり、首が落ちた。
 相変わらずの早業だ。
 剣の腕だけ見れば、あの『疾風リシャール』を上回っているのではと思わせる。

 だがそこからはさすがにそう簡単には行かない。なにせ、相手はエルルートなのだ。
 つまり、『守護精霊がいる』。

 こちらの陣容は、キールとワイアット他、衛兵隊員4名、キール配下のエルルート5名の計12人だ。

 まずはキール配下の一人が『守護精霊』を具現化する。
 彼の『守護精霊』は、実体のない黒い霧だ。その霧で船の甲板上を覆いつくした。これで、視界が制限される。相手の方が多い時は、各個撃破していくのが上策だ。時間はかかるが、それが狙いでもある。

 次に、もう一人の『守護精霊』も具現化した。彼の『守護精霊』は氷の巨人だ。体長約2.5メートルほどの大きさの氷でできた『錬成生物ゴーレム』である。
 コイツが一体いることで、相手の注意が集中することになるだろう。

 視界が悪い中、ひと際大きな『錬成生物ゴーレム』に甲板上を暴れまわられれば、どうしたって無視できない。

 残りの者たちは霧に紛れて敵を無力化してゆけばいい――。

 相手の中には『戦闘系守護精霊』を宿しているものは多くなかったようで、一番のハイライトは、『土魔人』の出現だったが、こちらの『氷魔人』と数合結んだ挙句、バラバラに破壊されてしまった。
 もちろんその間にもワイアットの剣によって、主人の方は打ち取られてしまっている。

 おおかた甲板上が片付いた頃、船に「どん!」 「がくん!」という衝突音と衝撃とが走った。

「うお――!?」
ワイアットの声が響いたが、キールは無視して目の前のエルルート一人を氷漬けにした。

 数瞬後、船の甲板上に幾重ものロープが投げ込まれてくる。

「ワイアット! ロープを適当な場所に結びつけるんだ!」

 キールの指示に、あらかじめ作戦を伝え聞いているワイアットが大声で返す。

「――ああ! わかってる!」

「ミューゼル! この船を拿捕する! 艦橋を制圧してくれ!」 

 キールは乗り込んできた自分の配下の一人、副長のミューゼルに指示を送る。ミューゼルは軽く手を上げて応じると、数名を連れて船の舵を占拠すべく艦橋の方へ走り去っていった。

「僕たちは船長室だ」
「いよいよボス戦だな?」
「殺すんじゃないぞ?」
「わかってるよ――殺しゃしないって」

 そういう会話のあと、二人は船長室の方へと向かった。


 船長室はそれなりの広さがあるが、さすがに剣を振り回すほどの広さはない。が、それは「こちら」だけの事情である。相手が船長室から出てこなかった理由はそこに在ったのだ。

「せまいな――」
「当たり前だろう? 船の中だぞ?」
「いや、大陸間巡行船なんだからもうちょっと大きいのをイメージしてたからな」
「この大きさも、発見されにくいようにするためのものなのだろう。実際のところは船はかなり丈夫だし、この大きさでも充分にエルレアと行き来することはできる。大陸間巡行に必要なのは、正確な位置の把握と、余裕のある食料、それから、船員の練度だけだ。それさえあれば、さっき漕いできたボウトでだって理屈上は可能だからな――」

 などと会話をしている目の前で、一人のエルルートの男が幅広の曲刀シミターを構えていた。 

「お前ら、俺を舐めてるのか? 人の部屋でくちゃくちゃしゃべりやがって――」

と、おそらく船長だろう男がそう言った。

「舐めるも何も――。そんな格好で、何を言ってももう遅いんだよな。お前は気付いてなかったかもしれないけど、「もう」終わってるんだよ」

 パチン――と、指を鳴らす音が響いた。
 キールの指の音だ。

 次の瞬間、船長は甲板のマストにロープでくくり付けられている状態になっていた。
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