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第398話 ニデリックの師※
しおりを挟むニデリックは前々からヘラルドカッツの国家魔術院とは「繋がり」を持ちたいと考えていた。
ニデリック自身、わかかりし頃にこのヘラルドカッツ国家魔術院に出向していた時期があったのだが、その後、メストリルに戻ってからは、「公的な」理由からヘラルドカッツ国家魔術院とは距離を置いていたのだ。
ヘラルドカッツ国家魔術院は世界最高峰の国家魔術院と謳われているが、それは、抱えている魔術師の人数と、カインズベルク大図書館の所蔵魔術書の蔵書数から来るもので、『最高峰の魔術師』が在籍しているわけではない。
現在のこの世界はエルルート族との邂逅により、海の向こうにも世界が広がっていることが明らかにされたため、今となっては、「三大魔術師」も最高峰と呼べるかわからないが、つい先日までは、この「三大魔術師」が紛れもなく世界最高峰の魔術師であった、と言っても過言ではない。
そして、この「三大魔術師」はそのいずれもヘラルドカッツに所属せず、小国の魔術院の院長に就任している。
ある意味これは、「三大魔術師」たちの聡明な判断によるものと言えた。
もし、彼ら「三大魔術師」のうち一人でもヘラルドカッツに在籍していれば、おそらくのところ、「均衡」が保たれなかったと思われる。
この「均衡」とは、世界の経済の「均衡」ではなく、世界の軍事力の「均衡」を指しているのは言うまでもないだろう。
そもそも魔術師は戦闘要員であり、諜報要員である。
今でこそ、現ヘラルドカッツ国王カールス・フォン・ヘラルドカッツェが提唱した「自由経済思想」が根付き始め、各国間で戦闘行動をとることは無くなっているが、つい数十年前までは、国家同士が相争っていた戦乱の時代でもあったのだ。
そして十数年前――。
ほぼ同時期に、「三大魔術師」が生まれた。
それまで伝説級であった錬成「4」魔術師が同世代に3人も生まれるという「異常事態」になったのだ。
この若き傑出した才能を発見した国、メストリルとシェーランネルの2国は、世界最高峰の国家魔術院ヘラルドカッツへ出向させ、研鑽を深めさせた。
しかしこの「出向」には二つ条件が付いていたのだ。
それは、「誰一人としてヘラルドカッツに残さないこと」、そして、「三大魔術師は別々の国家魔術院に属すること」であった。
当時のヘラルドカッツ国家魔術院院長ジェレミア・バウランは聡明で素晴らしい人格者であった。彼は、カールス国王を支え、「自由経済主義」を推進することに尽力を惜しまなかった。そして、それは「魔術師の世界」にも変革を与えるだろうことを予期していた。
だが、「魔術師の世界」の変革は、すぐにはもたらされない。それほどに「魔術師の世界」の根が深かった。
仮に、このヘラルドカッツに超強力な魔術師が誕生したとしよう。
そうなればおそらく、このヘラルドカッツに「力」が集中しすぎてしまう。そうでなくともこのヘラルドカッツにはカインズベルク大図書館があるのだ。それだけでも充分に「強大な力」だと言える。
そこで、この『出向』にあたり、上記の二つの条件を付したのだった。
この聡明なる院長のもとで、三人の超級魔術師は更なる高みへと昇華することになる。
かつて、師であるジェレミア様は言ったことがある。
『お前たち三大魔術師は小国で世界の趨勢を見よ。そして、己らの手腕を磨け。いずれ、この「魔術師の世界」にも、この平らかに変革を果たした世界のように、安寧な時代をもたらすために、何が必要か、どうすればよいか、それを探し求めて生きよ――』
と。
ニデリックは、その師の言葉を胸に、今こそその時ではないかと思い始めている。
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