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第219話 エルルートの好奇心
しおりを挟むネインリヒはああ言っていたが、ハルがこうもあっさりと負けを認めてくるなど、ジルメーヌにしてみれば非常に興味深いことだった。
ハルはなかなかに見どころのある精霊術師の器を持っている。それはもちろん彼女の守護精霊『リーチ』の力の恩恵でもあるのだが、それよりも彼女の素質の値が一段抜けているとジルメーヌはそう見ていた。
そうしてその才能ゆえ、彼女を打ち負かせるほどの同年代のエルルート族はそうそう居ない。結果として、学園の中では浮いてしまったため、ハルの両親がジルメーヌの元へ直々に個人教授を願い出てきたといういきさつがある。
彼女の年齢は115歳だ。
エルルート族にとっては、115歳と言えばまだまだ子供のうちである。
ちなみに、ジルメーヌの年齢は――。おっと、思わず零してしまいそうだったが、レディの年齢の話をするのは無粋と言うもの。ここは敢えて伏せさせていただこう。ただ、何も言わないのも不親切に過ぎると言うものだろうから、目安だけ記しておく。エルルート族の寿命は人間のそれの約10倍というところだ。
それに、成長速度は人間のそれより若干遅く、老い始めるのも随分と遅い。つまり、青年期の期間が人間よりも割合的に長いという事だ。
彼女の見た目が20代前半のようだとすでに述べているところからおおかたで察していただいておいて構わない。
おそらくこの物語中に、彼女の年齢が問題になるような場面は出てこないだろう。それほどにエルルート族の寿命は長いのだ。
そのハルが負けを認めたのだ。よほど爽快な負け方だったのだろうか、もしくは、その男、キール・ヴァイスにそれほどの魅力があるのか。
――やはり、見ておきたい。
エルルート族は生来、好奇心の旺盛な種族である。しかも、ジルメーヌのそれはおそらく一族一と言っても過言ではない程だ。なにせ、一人で海を渡りレントの国へ辿り着き、『冒険者』として生きていた過去があるほどだ。
リヒャエル坊やを初めて見たときもなかなかに面白き男と思ったことをふと思い出して、ジルメーヌはつい可笑しくなって微笑みを浮かべた。
(あの坊やの時もそうじゃったが、やはりレントのものたちは面白いのう。惜しむらくはその寿命の儚さよ。わたしたちと共に過ごせる時間はあまりに短い)
ジルメーヌは、英雄王パーティの魔術師として過ごしたあの時間は、もう二度と戻らないだろうと思っていた。しかし、もしかしたらあのような心躍り懸命に生きた毎日を、また味わうことができるかもしれぬと希望を抱くほどに、今、胸のうちに微かな温かさを感じている程だ。
(キール・ヴァイス――。やはり、放っては置けないようじゃ、私の心がそれを欲しておる――。明日にでもリヒャエルに申し出てみようかの)
そうして、期待に胸を膨らませつつ眠りについた。
******
キール――。キール・ヴァイス――。
あんなにワクワクしたのは初めてだった。リーチが止めてなければ、骨折していた可能性すらあるだって? しかも、ボクは触れられたことにすら気付いてなかった。
あの子、20歳だと言っていた。さすがにボクの本当の年齢を明かすことは出来なくて、おもわず15歳と言ってしまったけど、師匠から聞いている限り、だいたいレントの基準に換算すればそのぐらいだから、まあ、違和感を与えるほどではなかっただろう。
曲がりなりにも100年以上生きているボクに、魔法戦で勝ってしまうようなレントがいるなんて思っても見なかったよ。
師匠の話は本当だった――。
師匠はレントの中にはとても面白いやつがいると言っていた。師匠は昔レントと一緒に冒険をしたそうだ。今日会ったあのおじさんたち――といっても僕よりは年下なんだけど――もなかなかに面白そうな人たちだったけど、あの子、キール・ヴァイスは特別だ。
ああ、また会いたいなぁ――。今度はどうやって戦うか、そう考えるともう、興奮してなかなか寝付けないよ。
それに――。
胸を触られたのに、なんだかあまり悪い気がしない。どちらかと言えば、そこにまだあの子の手のひらの温度を感じられるぐらいはっきりと感触が残っている。
不思議な感覚だなぁ――。
ちょっと、こんな気持ちは経験がない。
はっきりって、顔立ちや体格の美しさを比べれば、レント族のそれはエルルート族のそれに遠く及ばない。
それは女も男もそうだ。
エルルート族の男は長身で痩身、しかししっかりと鍛えられた身体の筋肉の造形と、色白で切れ長の目、金色の瞳にスリムな輪郭――、どれをとってもレント族にはなかなか見られない特徴だ。
なのに、キールにはそれらを凌駕する圧倒的な魅力がある。
なんなのだろう? また会いたい――。その気持ちがどんどん膨れ上がって抑えきれない程になっている。
――直前で、気が付いて、術式発動をやめて、正解だったよ――、でも、ちょっと、頭が痛かったなぁ――。
目を瞑ると、そう言ったあの時のキールの顔が浮かんでくる。
キールはそう言ってふっと笑ったんだ。
ボクは気を失ったキールから離れられなかった。
(放っておいてもよかったんだけど――)
と言ったのは大ウソだ。
どうしても話がしたくなったのだ。でも、起こすことは出来なかった。寝顔があまりにも、「可愛かった」から――。
(かわいい? いやいやいや――、もう考えるのはよそう、なんだか変な気分だ――)
そう心に決めて、イハルーラはぎゅっと目を瞑って寝ることに集中した。
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