素人作家、「自作世界」で覚醒する。

永礼 経

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第109話 早起きルイジェン

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 聖歴1387年2月2日早朝、ベイリール――。

 ルイジェンは、昨日から自分に付きまとっている男の存在に気が付いていた。おそらくは、大神殿の一員、母が寄こした者だろう。

 ルイジェンは、夜が明けるとすぐに宿を出て、ひとり、ベイリールの港通りにまで出かけることにした。宿の前を張り込んでいるその者も付いてくるだろう。

 港通りに出る頃には、自分の後ろをついてくる人物の気配を完全に感じ取っていたルイジェンは、いきなり駆けだすと、路地の隙間に体を滑り込ませる。

 そしてそこで待ち伏せること数秒――。
 たたたと駆け寄る足音、そして、路地の角を曲がって来た男――。

 その男とルイジェンは鉢合わせになる。
 「あっ――!」と、短い喚声を上げたのはその男だ。


「ご苦労だな? 母の手のものか?」
「ル、ルイジェンさま――、お、お母上がご心配なさっています……」

「ふん、心配なんて――。力づくで家に縛り付けようなんてするあの人がするはずないだろう?」
「そ、そんなことはありません。お母上は――」

「おい――、これ以上俺についてくるなら容赦はしないぞ? シルヴェリアに戻って母に伝えろ。俺は帰らないってな……」
「くっ、分かりました。さすがに『クインジェムの蒼龍』を相手にしようとは思いません――」

「お前、俺を揶揄っているのか?」
「とんでもない。ルイジェンさま、道中お気をつけなさいますよう。それでは私はここで失礼いたします」

 男はそう言うと、いま入って来た路地の入口の方へそのまま立ち去ってしまった。
 ルイジェンは気配に気を向けたが、本当にそのまま去ってしまったようで、その後、男の気配を感じることはなかった。 

(念のため、が付かないよう工夫をしておくか。幾らか時間稼ぎにはなるだろうしな――)

 下腹部の刻印の更新期限までそれほど時間はない。期限が過ぎれば全く動きが取れない状態に陥ってしまう以上、それまでにはいずれにしても母の元に戻らざるを得ないのだが、今度戻ったら最後、もう二度とユーヒとは会えないかもしれない。

(もう少しだけ――)

 次の目的地、オーヴェル要塞の地下の大墳墓は、それほど脅威の迷宮ではない。
 この大墳墓も、一応冒険者ギルドが設定する「探索迷宮」の一つである。

 普通であれば、その中を探索し、目的の『世界の柱』を見つけ出し、ユーヒが触れればそれでエリシアさまからの依頼は終わる――。

 エリシアさまと実際に出会い、その「声」を聴き、ユーヒとの会話を一部始終聞いていたルイジェンは、ユーヒ・ナメカワという少年が、アルバート・テルドールやケイティス・リファレントと同様の「英雄」であると知った。

 そして、何の因果か、その「英雄」と関りを持ってしまったのだ。
 
(――だとすれば、俺は、「英雄」のであり、なのだ……)

 これは、「運命」である――。

 思えば初めのころから、このユーヒという男には不思議な縁《えにし》を感じていた。
 ユーヒに剣術を指南し、ここまで「案内役」をやってきたのも、恐らくはエリシアさまの導きによるものなのかもしれない。いや、恐らくそうなのだ。


(だから、俺はユーヒと共に行かなければならないんだ――)

 ルイジェンは、下腹部にそっと左手の手のひらを押し当てる。この刻印の更新期限まではまだ少しある。だから、ここで時間を取られている場合じゃない。

 残された時間を少しでも多く、ユーヒの隣で過ごしたい――。 

(――ん? なんだろうな、この感情は……。ユーヒのことを思うと、なんだか変な気分になるな)

 ルイジェンは首を左右に振ると、そっと下腹部から手を放す。

 さあ、もう少しだ。

 この「短い旅」ももうすぐ終わる――。

 そう思った時、やはりさっきと同じような変な気分がぶり返す。なんだろう、胸が締め付けられるような、苦しいような感覚。

 ルイジェンは、再び首を振って気を引き締めると、宿に戻るべく歩を進めた。



******



「あ、おかえり、ルイ。もう起きてたんだ? 先に朝ごはんを食べてるよ?」

 ユーヒは少し驚きながら、ルイジェンに声を掛けた。てっきりまだ部屋で寝ているものとばかり思っていたルイジェンが、宿屋の玄関口の方から入って来たからだ。

「あら、どうしたの? 今朝はやけに早いのですね?」
と、ユーヒの隣のサフィアもルイジェンに声を掛ける。

「はぁ~。お前らのその恰好――。全く同じ格好をして同じようなことを言うな」

 ルイジェンは結い上げたポニーテールの髪に手をやりながらそう言った。

 ユーヒはそう言われてサフィアの方を見る。サフィアも同じタイミングでこっちを見返した。

 サフィアは、朝食のサンドロールを右手で支えながら口に押し込んでいる状態だ。左手はミルクのカップに指を通している――。
 ユーヒが今の自分の恰好を見返すと、サフィアと全く同じ格好をしていることに気が付いた。

「あ――」
「あら――」

「はぁ~。お前ら、かよ――」
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