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第3章 ポンコツしかできないこと
30話 兄の行方
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現在、私達はジバジデオ王国王都ジョウイにあるそこそこ良い民宿に身分を偽って滞在しています。
「お嬢様。今日は良い茶葉を買えましたのでこちらをどうぞ」
エレナが私の前に温かい紅茶を置き、私はその紅茶を口に含む。
バロトローメスと別れてジバジデオ王国の王都にたどり着くまで丸一日。王都に滞在して三日。つまりグレイ様の生誕祭まであと百十二日。
「なんでこんなくだらないカウントダウンしているのかしら」
ふいにグレイ様のお言葉を思い出します。楽しみにしているの? でしたっけ? 全く、そんな訳ないじゃないですか。
しかし、本当に残りわずかですのよね。このまま本当に生誕祭を迎えてしまいそうで怖いわ。
「お嬢様、何故眉間にしわを? 紅茶が口に合いませんでしたか? それともグレイ様の思惑通り結婚させられそうなことが妙に気にくわないのですか?」
「え? 何その完全回答。あなた最近怖いわよエレナ」
エレナの後ろで窓の外をずっと眺めているジェスカ。
私のすぐ隣りでエレナの言葉を聞いては嬉しそうに笑うグレイ様。何が嬉しいのですか?
そして屋根から屋根へ飛び回り、お兄様の捜索をしてくださっているエミリアさんが戻られましたわ。ドМってすごい。
「お姉様! エリオット様は見つかりませんでしたが……」
「見つかりませんでしたが?」
「オルガ様に捕捉されました!!」
「つまり?」
「時期にこちらに訪れるかと」
そうですか。お義姉様。屋根と屋根を飛び交う珍獣を発見し、捕捉しそして追尾されてしまいましたか。
貴族令嬢って身体能力必須なんですか? エレナもそこそこ動けますし、え? まさか私だけ?
運動できなさそうなレティシア様とルイーセ様に思いをはせながら、お義姉様が迫っているという事実に目を背けました。
「姫さん。現れたぜ」
「そう。もう通しちゃいなさい。そのえっとその……今から急いで逃げようとするとどうなると思います?」
私がそう言いますと、皆がにこっとしながら一言ずつ答えてくださりましたわ。
「ルーが転ぶね」
「お嬢様が怪我します」
「お姉様が私のせいで転びます」
「姫さんが可哀そうな目にあう」
皆の答えを聞いた私はゆっくりと紅茶を口に含み、ふぅと一息ついてからこちらも全力の笑顔でお返事しましたわ。
「全員正解。そして窓から飛び降りなさい」
本当に窓から飛び降りた珍獣とお義姉様が部屋に入室してきました。
「やあ僕のルクレシア。逃げるとは良い度胸だね」
「わかってないわお義姉様。そんな感じで迫られたら逃げます」
「ええ!?」
お義姉様は大変驚かれていますが、そこで驚かれたことにこちらも驚き返しても良いのでしょうか? 良いですね。ええ!?
お義姉様が私をぎゅーっと抱きしめて中々話してくださる気配が感じられません。お義姉様も割と私のこと大好きですよね。何か気に入られることをしたかしら?
「さてと、そんなことよりこの国に僕のエリオットが囚われているんだっけ?」
そうです。現在、囚われているのは私の兄であり、お義姉様の婚約者であるエリオットお兄様。
私もかなり心配していますが、やはりオルガお義姉様も心配でしょうがないみたいですね。
「助けに行くつもりだけど。危ないことをするな。そう君を叱っておいて言うのもおかしいかもしれない。でも、お願いだ。どうか僕に協力して欲しい!」
お義姉様が私に向かって頭を下げています。お願いですか。そうですか。
「お義姉様。勿論です。しかし、この後私たちはデークルーガ帝国にも密入国するつもりです。お義姉様のお力も貸していただけますでしょうか?」
お義姉様は私の提案に苦い顔をされましたが、それでもお兄様を助けたいという気持ちも強かった様子でした。
「分かった。この国でも、デークルーガ帝国でも君を護る。僕は騎士じゃない。家族として君を護る。いいかな?」
日数はかなり超過してしまいましたが、お義姉様の説得? に成功しましたわ。
「そうそう、そういえば一人騎士を連れ歩いていたんだ。ちょっと呼んでくるね」
「え、ええ?」
騎士を連れてきた? 誰かしら? ヨハンネスだと少々面倒なのですけど。
マリアかメルヒオール様でしたらご安心ですよね。他に騎士の知り合いはいないこともありませんが、こういきなりタイミングの悪い方とかひょっこりとかありませんよね?
ふいに現れることになった騎士に恐る恐る確認しますと、お見かけしたことがあるくらいの良く知らない女性のような騎士がいらっしゃいましたわ。どなたかしら?
「第四騎士団副団長。オーロフ・フランスワだ。弟が世話になってるじゃねーか」
ものすごい可愛らしい声で、随分と雄々しい殿方のような喋り方をする方ね。
ん? 弟? フランスワ? え? まさかこの方、フランスワ家の人間? 大体ヨハンネスに兄がいるなんて……そういえばあのダンゴムシ自己紹介の時に次男って言っていたわね。
「お義姉様。少々宜しいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
私はオーロフに聞こえない様にお義姉様に耳打ちしましたわ。
「女王アンジェリカはフランスワ家の人間を殺したがっています。戦争に不干渉の条件としてフランスワの人間を斬らせろと言ってきたほどです」
「あちゃー、タイミング最悪だね。バレないようにしてもらう他ないね」
お義姉様は一応、オーロフにそういう風に声をかけ、フランスワ姓を名乗らない様にして頂くことになりましたわ。
ひとまずこちらの戦力を再確認しましょう。どこで覚えたのかわからないけど、実戦経験のあるグレイ様。
東洋の武器と武術を使い、機転の利くジェスカ。
よくわからないけど、ケンポォって奴でとにかくお強いオルガお義姉様。
第四騎士団副団長にしてヨハンネスの兄。見た目ほぼ女性のオーロフ。実力は知らないわ。
珍獣。
非戦闘要員のエレナ。エレナは馬術が使える上に、何かと器用ですから私よりはできることが多いわ。
そして何かと余計な動きの多い私。
総合的に見てバランスの取れたメンバーね。完璧よ。
もう少し私のマイナスを埋める要員が必要かもとか、そういうのは思っていないわ。絶対よ。
「ルー、安心して。ここにいるみんなは必ず君を護るよ」
「いえ、確かに皆さまとの繋がりは無駄に濃く感じますが」
さすがに今しがた出会ったばかりのオーロフはそういうのは……、不思議と感じますけど。何故かしら? ヨハンネスのお兄様だからでしょうか? いえ、それ以前かしら? まあいいわ。
「まあ、エリオットも救出すればまず間違いなく君の無事は保証できるね」
「ですがそのお兄様の居場所がまだ」
まだわかっていないのです。
「まだだったのかい? 僕はもう突き止めたよ。だから君たちに接触したんだ」
お義姉様が驚いていますが、こちらの方が驚きです。屋根から屋根へ飛び交い、屋敷という屋敷。地下牢まで侵入したエミリアさんがわからなかったとなると、王都で残されている場所は王宮のみ。
ただし、王宮のどこかまでもわかっていない様子です。あるいは王都でない可能性もありました。ですが、お義姉様はもう突き止めていたそうです。
「珍獣は猛獣に劣るってことですね」
「ルクレシア? どういう意味かな?」
お義姉様、ちょっと感が鋭くなくて? まあ、発言したタイミングの問題ですよね。私が悪いです。
「エリオットは今、猿園に幽閉されている」
「猿園?」
私にはよくわかりませんでしたが、エミリアさんとジェスカ、それからグレイ様が感づいた様子です。
「グレイ様? 猿園とは何なのでしょうか?」
「猿園……それはねルー。デークルーガ帝国の王宮にある女王の愛玩奴隷を飼育している中庭のことさ」
「愛玩……奴隷?」
私は、手に持ったカップを落とし、紅茶は口に含まれることはなく床のシミになりましたわ。
「お嬢様。今日は良い茶葉を買えましたのでこちらをどうぞ」
エレナが私の前に温かい紅茶を置き、私はその紅茶を口に含む。
バロトローメスと別れてジバジデオ王国の王都にたどり着くまで丸一日。王都に滞在して三日。つまりグレイ様の生誕祭まであと百十二日。
「なんでこんなくだらないカウントダウンしているのかしら」
ふいにグレイ様のお言葉を思い出します。楽しみにしているの? でしたっけ? 全く、そんな訳ないじゃないですか。
しかし、本当に残りわずかですのよね。このまま本当に生誕祭を迎えてしまいそうで怖いわ。
「お嬢様、何故眉間にしわを? 紅茶が口に合いませんでしたか? それともグレイ様の思惑通り結婚させられそうなことが妙に気にくわないのですか?」
「え? 何その完全回答。あなた最近怖いわよエレナ」
エレナの後ろで窓の外をずっと眺めているジェスカ。
私のすぐ隣りでエレナの言葉を聞いては嬉しそうに笑うグレイ様。何が嬉しいのですか?
そして屋根から屋根へ飛び回り、お兄様の捜索をしてくださっているエミリアさんが戻られましたわ。ドМってすごい。
「お姉様! エリオット様は見つかりませんでしたが……」
「見つかりませんでしたが?」
「オルガ様に捕捉されました!!」
「つまり?」
「時期にこちらに訪れるかと」
そうですか。お義姉様。屋根と屋根を飛び交う珍獣を発見し、捕捉しそして追尾されてしまいましたか。
貴族令嬢って身体能力必須なんですか? エレナもそこそこ動けますし、え? まさか私だけ?
運動できなさそうなレティシア様とルイーセ様に思いをはせながら、お義姉様が迫っているという事実に目を背けました。
「姫さん。現れたぜ」
「そう。もう通しちゃいなさい。そのえっとその……今から急いで逃げようとするとどうなると思います?」
私がそう言いますと、皆がにこっとしながら一言ずつ答えてくださりましたわ。
「ルーが転ぶね」
「お嬢様が怪我します」
「お姉様が私のせいで転びます」
「姫さんが可哀そうな目にあう」
皆の答えを聞いた私はゆっくりと紅茶を口に含み、ふぅと一息ついてからこちらも全力の笑顔でお返事しましたわ。
「全員正解。そして窓から飛び降りなさい」
本当に窓から飛び降りた珍獣とお義姉様が部屋に入室してきました。
「やあ僕のルクレシア。逃げるとは良い度胸だね」
「わかってないわお義姉様。そんな感じで迫られたら逃げます」
「ええ!?」
お義姉様は大変驚かれていますが、そこで驚かれたことにこちらも驚き返しても良いのでしょうか? 良いですね。ええ!?
お義姉様が私をぎゅーっと抱きしめて中々話してくださる気配が感じられません。お義姉様も割と私のこと大好きですよね。何か気に入られることをしたかしら?
「さてと、そんなことよりこの国に僕のエリオットが囚われているんだっけ?」
そうです。現在、囚われているのは私の兄であり、お義姉様の婚約者であるエリオットお兄様。
私もかなり心配していますが、やはりオルガお義姉様も心配でしょうがないみたいですね。
「助けに行くつもりだけど。危ないことをするな。そう君を叱っておいて言うのもおかしいかもしれない。でも、お願いだ。どうか僕に協力して欲しい!」
お義姉様が私に向かって頭を下げています。お願いですか。そうですか。
「お義姉様。勿論です。しかし、この後私たちはデークルーガ帝国にも密入国するつもりです。お義姉様のお力も貸していただけますでしょうか?」
お義姉様は私の提案に苦い顔をされましたが、それでもお兄様を助けたいという気持ちも強かった様子でした。
「分かった。この国でも、デークルーガ帝国でも君を護る。僕は騎士じゃない。家族として君を護る。いいかな?」
日数はかなり超過してしまいましたが、お義姉様の説得? に成功しましたわ。
「そうそう、そういえば一人騎士を連れ歩いていたんだ。ちょっと呼んでくるね」
「え、ええ?」
騎士を連れてきた? 誰かしら? ヨハンネスだと少々面倒なのですけど。
マリアかメルヒオール様でしたらご安心ですよね。他に騎士の知り合いはいないこともありませんが、こういきなりタイミングの悪い方とかひょっこりとかありませんよね?
ふいに現れることになった騎士に恐る恐る確認しますと、お見かけしたことがあるくらいの良く知らない女性のような騎士がいらっしゃいましたわ。どなたかしら?
「第四騎士団副団長。オーロフ・フランスワだ。弟が世話になってるじゃねーか」
ものすごい可愛らしい声で、随分と雄々しい殿方のような喋り方をする方ね。
ん? 弟? フランスワ? え? まさかこの方、フランスワ家の人間? 大体ヨハンネスに兄がいるなんて……そういえばあのダンゴムシ自己紹介の時に次男って言っていたわね。
「お義姉様。少々宜しいでしょうか?」
「ん? なんだい?」
私はオーロフに聞こえない様にお義姉様に耳打ちしましたわ。
「女王アンジェリカはフランスワ家の人間を殺したがっています。戦争に不干渉の条件としてフランスワの人間を斬らせろと言ってきたほどです」
「あちゃー、タイミング最悪だね。バレないようにしてもらう他ないね」
お義姉様は一応、オーロフにそういう風に声をかけ、フランスワ姓を名乗らない様にして頂くことになりましたわ。
ひとまずこちらの戦力を再確認しましょう。どこで覚えたのかわからないけど、実戦経験のあるグレイ様。
東洋の武器と武術を使い、機転の利くジェスカ。
よくわからないけど、ケンポォって奴でとにかくお強いオルガお義姉様。
第四騎士団副団長にしてヨハンネスの兄。見た目ほぼ女性のオーロフ。実力は知らないわ。
珍獣。
非戦闘要員のエレナ。エレナは馬術が使える上に、何かと器用ですから私よりはできることが多いわ。
そして何かと余計な動きの多い私。
総合的に見てバランスの取れたメンバーね。完璧よ。
もう少し私のマイナスを埋める要員が必要かもとか、そういうのは思っていないわ。絶対よ。
「ルー、安心して。ここにいるみんなは必ず君を護るよ」
「いえ、確かに皆さまとの繋がりは無駄に濃く感じますが」
さすがに今しがた出会ったばかりのオーロフはそういうのは……、不思議と感じますけど。何故かしら? ヨハンネスのお兄様だからでしょうか? いえ、それ以前かしら? まあいいわ。
「まあ、エリオットも救出すればまず間違いなく君の無事は保証できるね」
「ですがそのお兄様の居場所がまだ」
まだわかっていないのです。
「まだだったのかい? 僕はもう突き止めたよ。だから君たちに接触したんだ」
お義姉様が驚いていますが、こちらの方が驚きです。屋根から屋根へ飛び交い、屋敷という屋敷。地下牢まで侵入したエミリアさんがわからなかったとなると、王都で残されている場所は王宮のみ。
ただし、王宮のどこかまでもわかっていない様子です。あるいは王都でない可能性もありました。ですが、お義姉様はもう突き止めていたそうです。
「珍獣は猛獣に劣るってことですね」
「ルクレシア? どういう意味かな?」
お義姉様、ちょっと感が鋭くなくて? まあ、発言したタイミングの問題ですよね。私が悪いです。
「エリオットは今、猿園に幽閉されている」
「猿園?」
私にはよくわかりませんでしたが、エミリアさんとジェスカ、それからグレイ様が感づいた様子です。
「グレイ様? 猿園とは何なのでしょうか?」
「猿園……それはねルー。デークルーガ帝国の王宮にある女王の愛玩奴隷を飼育している中庭のことさ」
「愛玩……奴隷?」
私は、手に持ったカップを落とし、紅茶は口に含まれることはなく床のシミになりましたわ。
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