付喪ライダー:付喪神の力と共に闘う轢過非日常生活

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

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第1台目:◯旧道編

少年とバイクとこの世界

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 『森阿(もりあ)長与(ながよ)』には相棒がいた。
お金はないが唯一持っている宝物だ。
それはツアラーと呼ばれる種類のバイク。青色のバイクである。

「ヒャッハッーイ!!  今夜も最高だな相棒!!」

そして、今宵も彼は相棒と共に夜の町を駆け抜ける。ある人のもとへと向かうために……。



 長与が向かったのは隣町にある大きなビル。
そこで長与はとある人物と待ち合わせをしているのだ。

「おーい、ナガヨーン」

会社から出るなりすぐに長与に手を振りながら、1日業務の疲れも忘れたような元気で駆け寄ってくるスーツ姿の1人の女性。
長与の同居人であり、4才年上のお姉さん『白巳(しろみ)桐子(とうこ)』である。



 夜の道路をバイクで2人乗りをしながら帰宅しようとする2人。
もちろん長与が運転で桐子が後ろに座る。

「今日も助かったよ。ナガヨーン。
会議と資料作りが長引いちゃってさ。ちょっと待った?」

「ああ、待ちましたよ。いつもより3時間。
いったい何の仕事をしてるんだか」

「それについては内緒だってば。君は私のためにアッシーになってくれれば良いの~」

「アッシーって……いつの言葉ですか。まったく」

実の所を言うと、彼らは家族ではない。
ましてや恋人同士でも友達同士でもない。
長与が桐子の送り迎えと家事を行う代わりに、桐子が夕食代と風呂と寝床を提供してくれるという契約。
彼らは現在この“契約”だけの繋がり。
最初はただの人という関係だった。
“拾った者”と“拾われた者”という関係なのである。



 いつもならば長与はこの道路を左に左折する。
しかし、今日の長与は進路を直進に決めて走り出した。家の方角とは違う。
その事に疑問を抱いた桐子はからかうついでに尋ねてみることにした。

「おや?  ナガヨーン?
今日は家の方向と違うよ。迷子にでもなったの?
家に帰らないと私のオムライス食えないよ~?」

「…………」

「おいおい、こんな可愛い声を聞いて黙ってるのはどういう理由かなナガヨーン?
くすぐっちゃうよ?」

「……人が悩んでる時にくすぐろうとするのやめろよ。しかも運転中!!」

「わぁお、反抗的。でもナガヨーンが悪いじゃないか。私たちはそういう関係でもないでしょ?」

「馬鹿ッ…………違うよ桐子さん。桐子さん、もうすぐ誕生日だろ?
でも、明日から出張だって聞いたからよ。その……一緒に来てほしい場所があるんだ」

「…………そう。わかった。私もふざけすぎたわ。ナガヨーンのためなら何処へでも」

なんだか心暖まるような良い気分になった桐子は長与の考えに喜びを感じながらも、期待して彼の誕生日プレゼントを待ち望むことにしたのであった。



こうして長与は桐子をとあるお店に連れてきた。飲食店だ。
彼らはそこで誕生日感満載のメニューを頼み、それをお祝いしながら食す。
そして、その帰り際。
とうとう我慢できなくなった桐子は笑う。
それは彼女としても予想外の場所だったからだ。

「アハハハハハ!!
やっぱりナガヨーンの考えだ。こんなことだろうと思いましたよ私はね」

「…………」

「てっきり、真面目さとか展開的にも高級なレストランかと思ったら、普通の飲食店って。
あかん、私の誕生日なのに腹痛いわ」

「くっ、しょうがないだろ。俺は住民票も戸籍も消されてるからバイトできないんだ」

「アハハハ。悔しがらないでよ。私は嬉しいんだから。
高級感は無くても気持ちがこもってる。私は金より気持ちだからね。まぁ人間は中身より外見派だけど。
さて、帰ろう。ついでにケーキでも買いに行きましょ」

なんだか悔しがる長与を宥めるようにして彼の肩を叩くと桐子は先にバイクに座る。
その後を追うように長与もバイクに乗ってエンジンをかけた。



 時刻は夜の10時。
長与は白巳宅へと帰るためにバイクを運転する。
その道中には海の崖沿いの道路がある。通称:◯旧道。
この道路を進まなければ、町には帰れない。
もちろんこの道を通らなければケーキ屋さんにも寄ることができない。

「ねぇ、ナガヨーン?」

「なに?」

「今日も月が綺麗ね」

「俺もそう思うわ。今日の月はいつもより綺麗だ」

海の向こうに夜空に輝く満月が見える。

「ねぇ……ナガヨーン?
あなた思春期だけど恋人とかいないの?」

「ん?  なに?」

「いや、だから保護者として私はね。心配なのさ」

「保護者だぁ?  俺はあなたの事を保護者なんて思ったことねぇっすよ。恋人だってできたことないし」

「そうか出会いがないもんね。ナガヨーンはロリコンだもんね」

「そうかもです!!」

「認めるのか認めないのかハッキリしてよ~。てか、数日前まではニュースキャスターさんが好きだって……」

「俺は世界中の女性を好きになる可能性のある男ですよ。タイプは女性です」

「なにそれ。怖ッ!?」

「そのマジトーンで引くのやめてくれません?」

「なにそれ。格好ッよ!?」

「その小バカで冗談混じったのやめてくれません?
で?  なんでしたっけ話って」

「…………いやもし  」

桐子がなにかを言いかけたその時である。

「───あぶねぇ!!」

長与の目の前に瞬間的に人の姿が……。
長与は前方に目を見開いてとっさにバイクを横転させた。




 ヘルメットをしていたし、車通りも少なかったので2人は重傷を負うこともなく道路に転がる。

「(なんでこんな道に一瞬で人が……?)」

長与は気を保ちながらゆっくりと立ち上がり、周囲を見る。
周囲には誰もいない。

「誰もいない!?」

長与のバイクは側にある。横転してはいるが壊れてはいない。
だが、桐子の姿がない。周囲を見渡しても桐子の姿が見当たらない。

「桐子さん?  桐子さん!?」

まさか海に落ちたのだろうか?
長与はバイクをその場に置き去りにして、海の方へと急いで駆け寄ってみる。
しかし、その途中で長与は声をかけられた。

「汝の者はここぞ」

その声の方向を振り向く長与。
長与の視線の先には桐子。
そして、なんと桐子は宙に吊るされるように捕まっていた。

「は?」

目の前の光景が信じられない。
長与の目の前には5mほどの大きさの化物。
体が蜘蛛で前の方に人間の体が着いている。

「我は『◯旧道蜘蛛』。先の人は我が人形ぞ。我は雌であるが女子を好む。雌女子は至高。入る雄は絶滅せよ」

そう言って化物は自身の脚でバイクを粉々に踏み潰す。
そして、その瓦礫を長与の足元に向かって蹴った。

「は?」

かつてバイクだったものが長与の足下に転がっている。
長与には訳がわからない。何が起こっているのかがわからない。
突然の展開。突然の化物。これが現実なのか幻なのかさえも分からない。
だが、これだけは分かる。

「…………桐子さんを。返せよ!!」

勝ち目も作戦もない。長与は走った。
捕らえられている桐子を助けるために化物に向かっていった。
けれど……。
───ブスッ、ブスッ、ドス!!

「えっ?」

長与の体を何度も何度も、化物の持っていた巨大な針が突き刺してくる。長与の肉体を貫通するくらい何度も何度も……。

「雄は我が人形に相応しくないわ。我が人形劇にはな」

出血多量で道路に倒れる長与。
消えていきそうな意識の中で長与は桐子の顔を見た。
薄れていく視界の中で彼は最後その顔を見た。
そして気づいた時には……。
──ドボンッ!!
長与とバイクは化物の腕によって宙を舞いながら、海に落下。

長与とバイクは海の底へと沈んでいくのであった。






──────────────────────
 20XX年。
我が国にはいまだに悪鬼羅刹・魑魅魍魎が蔓延っている。
そこで人類はテクノロジーの結晶【物性人型移植技術】通称:【付喪人】を繰り出し、人ならざる者と日夜闘っているのである。
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