【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園1年生編

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「ラサーニュ、ラブレー。今週の土曜に…皇宮まで来てもらえないだろうか?迎えは寄越す。
 そして私の個人的な用事なので、服装も特に畏まらなくていい」

「……分かりました」


 ルシアン殿下はそう言い、僕達に招待状を渡してきた。昨日ラディ兄様と話したお陰か、すんなり受け入れることが出来た。
 ………ルシアン殿下、今腹に包帯でも巻いているんだろうか…ぬふ。

 しっかし放課後帰ろうとしたら、呼ばれて連れて来られたのは屋上。いつまでここ使うのさ…。


「…ここの鍵はもう返す。だがその前に…一度ラサーニュを連れて来たいと思っていてな」

「…何故僕を?」

「其方、以前私が屋上を使用していると言った時…興味あり気な顔をしていたじゃないか」

「…………」


 バレてたか…。だってさあ、屋上って学園モノの定番じゃん!?行きたいと思うじゃん!
 前世では学校に通ってないから憧れてたんだよ!!でもここでも鍵閉まってたしい…!








『姉ちゃん漫画の読みすぎだ。現実じゃ屋上なんて開放されてないぞ』

『ええ!?いやそれは、あんたが小学生だからでしょ!?高校になればそりゃどこもかしこも開放され…』

『てない。中学も高校も完全に鍵掛かってるって隣の家の兄ちゃんが言ってたぞ』

『そんなあ…』

『病院の屋上なら行けるじゃん。行こうよ、オレ肩貸すから』

『もうあの景色は飽きたー…でもまあいっか。行こう!』







「…セレス、どうした…?」

「………はっ!?」


 あれ…?なんか意識飛んでた。

 懐かしい…出来事を思い出していたみたい…。




 僕は歩き出し、屋上の柵に触れる。ああ…良い眺め。下の方にはサークル活動する生徒達。あ、ジスランもいる…。
 すると殿下とエリゼも僕の横に並んだ。

「私は…高い所が好きなんだ」

「ああ…なんとかと煙は高い所が好き…っていてててて!」

「それで言ったら其方も馬鹿だからな」

 僕馬鹿とは言ってないじゃん!!
 ひー、思っきしほっぺ引っ張られたあ!エリゼも「今のはお前が悪い」なんて言うし。


 そんなやり取りをして、屋上を後にする。そして殿下と別れ…僕とエリゼは、そのまま医務室に向かうことに…いむしつ…!


「どうした?」

「い、や。なんでも」

 落ち着け僕、平常心だ…!大丈夫、エリゼもいるし!それに意識したら負けな気がするし!



 だが先生は医務室にはいなかった。今日のメモはなんだろな~?

『旅に出ます。探さないでください』ですって…。2人で確認した後、そっと戻す。
 そしてガチャガチャと勝手に棚を漁り、何か飲もうという話に。するとカップを選んでいたエリゼが、とある物を見つけた。

「なんだこのマグカップ?」

「ん?ああそれ、専用マグカップ!
 ペンギンが僕、海模様がルネちゃん、シンプルな紺色が先生の」

「ボクのは!?」

 いやあ…ご自分で用意してくださーい。
 と言ったら、「買ってくる!!!」と出て行った。えー…僕達ここに何しに来たのさ…?
 最近は、医務室が溜まり場みたいになっちゃってんだよね。用も無く足を運んでしまう。


 さて…エリゼが帰って来るまで…寝るか!ああフカフカ。おやすみなさーい…。





 ※





「……ん?誰か来てんのか?
 って、またお前か…」


 エリゼが飛び出した数分後。オーバン・ゲルシェは医務室に戻って来た。そしてベッドで眠るセレスタンを見つけ、特大のため息をついたのだ。


 この医務室にあまり生徒が来ない理由は、必要無いから。
 特に貴族女性は人前でこんな暢気にグースカ眠るはずもなく、体調不良ならすぐに家に帰っている。
 あとはたまに怪我した生徒が来ても、手当を受けてすぐに戻って行く。
 なのでこのベッドも半分お飾り状態なのだが…。


 この世界には魔術があるが、治癒に関しては適性が無いと使えない。
 適性持ちは少数で、この学園においては現時点で公式に認定されているのはエリゼと魔術教師1名のみ。実はセレスタンも適性持ちだが…本人が魔術にあまり興味が無いため、自覚していない。


 このゲルシェも適性は無く、怪我人は普通に薬や道具で処置してさっさと生徒を帰している。
 生徒のほうも用事が済めば居座る必要が無いのだが…いつの頃からか、このセレスタンは医務室に入り浸るようになっていた。



「…そういや、いつからコイツここを溜まり場にしてんだ?
 初めて…ラブレーとサボりに来てからか?」


 ゲルシェはセレスタンの眠るベッドに腰掛け、寝顔を観察した。血色のいい、健康的な寝顔だ。

 彼女は入学当初から、よく寝不足と疲労で倒れていた。そしてバジルやジスランに抱えられて医務室にやって来ていたのだ。
 話を聞いてみれば、明け方まで勉強してただとか夜中に剣を振ってたとか。なんだか生き急いでいるみたいだな…とゲルシェは感じていた。


 彼は事務仕事の傍ら、よく飲食をしている。普段は生徒に振る舞ったりしないが…セレスタンの顔色があまりに悪かったのが気になり、オレンジジュースを用意して待っていたことがある。
 そして予想通りセレスタンは運ばれて来た。本来ここまで倒れてると、親が出て来るものだが…伯爵は一切関与しなかった。
 何度も知らせを送っているにも拘らず、だ。


『…ほれ、コレ飲んでけ』
『…?』


 そして目を覚ましたセレスタンに、ジュースを差し出した。
 彼女は悩んだ後おずおずと受け取り、一口飲んだ。そして「美味しい…」と呟く。
 顔は隠されて見えないが、微笑んでいるようだった。


 それ以来ゲルシェは、セレスタンに飲み物を一杯飲ませてから帰すのが日課になった。




「貴族の子供があんくらいで喜ぶとは思わなかったな…。ラブレーだったら文句付けそうだしな。
 最初は遠慮がちだったが…最近じゃあ自分から「あれ飲みたい」とかリクエストしたり、茶菓子持ってくるようになりやがって。
 …まあ、良い傾向だよな」



 以前は青い顔で死んだように眠るセレスタンに冷や冷やしていたが…今の彼女は良い夢でも見ているのだろうか、微笑んでいる。
 ゲルシェはそんな彼女の頬に手を当て…引っ張った。


「……ふひゅー…?」

「こんのガキ…もう昨日の事忘れてんのか?
 危機感って言葉知らねえのか?本当に襲われねえと懲りないのか?しないけど。
 コイツにゃ淑女教育が必要だな…ヴィヴィエ嬢に言っとくか」

 彼は心配で彼に忠告をしているというのに…全く聞かない。本当に…何か起きてからじゃ遅いというのに。
 眉を顰めるセレスタンの顔を見ると、少しだけ溜飲が下がる。そして手を離し、赤くなった頬を撫でた。


 暫く顔を見た後、席に戻る。



 たったったったった…ガチャ


「待たせたな!これがボクのカップだ!!猫だぞ…ってゲルシェ先生、短い旅だったな!なんだその締まりのない顔は!」

「お前…騒がしいやっちゃな…」


 すぐに、マイカップを購入したエリゼが戻って来た。そしてセレスタンが眠っているというので、ゲルシェと2人でティータイムに。



「なあラブレー。お前…先生の目の届かない所は、お前がラサーニュ姉を守ってやれよ」

「ふっ、言われるまでもないさ!というか、寮の部屋は安全だ。精霊達がいるからな。
 あの時…だって、ボクに悪意や害意があれば彼らはボクに襲い掛かってきていただろうな」

「そうか」


 ゲルシェは、バレたのがこのエリゼで良かったのかもしれない、と思っている。

 ジスランは駄目だ、彼は演技が出来ないので…すぐ周囲に伝わる。
 パスカルはその点は大丈夫だろうが…逆に過保護になりすぎて、これまた不審になってしまいそうだ。

 だから…セレスタンが女の子だと知っても態度を一切変えないエリゼは、きっと信用出来る。そう考えていた。



「そういえば…ラサーニュ妹には、本当の事を言ったほうが良いんじゃないのか?
 ま、姉本人が嫌がるなら無理強いしないが」

 ゲルシェがそう提案する。やはり家族に味方がいるのは非常に心強いからだ。
 あのお兄様大好きなシャルロットならば、拒絶することもあるまいと思ってだ。

 だがエリゼは渋い顔をした。

「いや…シャルロットは…危険だ」

「……なんで?」

 何が危険なのだろう。ゲルシェの問い掛けに、エリゼは遠い目をした。


「以前…ルネ嬢が軽い感じで聞いたことがあるらしい。「セレスちゃんは本当に可愛いですわね。…もしもお兄様でなくお姉様だったら…どうでしたか?」と。
 そしたら…」




『お姉様…ですって?何それ最高じゃない。もしそうなら…今まで出来なかったあんな事やこんな事まで出来るんでしょう!?
 ドレスの貸し借りをしたり、一緒のベッドで眠ったり…一緒にお風呂に入ってしまったり!?それ以上の事も…!!?

 ああでも…そうしたら今まで以上にお姉様に悪い虫が付いてしまうわ!
 まずジスランから消さないと。彼は昔からお姉様をいやらしい目で見ていたから…。一時は収まってたのに、最近また同じ目をしているのよ…!
 エリゼは性に関してはまだまだお子様だけれど…お姉様からの信頼も厚いし、やっぱり危険だわ。
 そしてパスカル様。時々お姉様を、愛おしい目で見つめているの。その目を潰す。
 あとゲルシェ先生は要注意だわ。彼は良識ある大人だからお姉様を相手にするとは思えないけど…お姉様のほうは分からない。最悪私がお姉様を掻っ攫う。

 他の殿方は…遠くから見ているだけなら何もしないわ。近づいて来たら切り落とすけど。
 あ、でも…あの方、ナハト様。あの方は信頼出来るわ。なんというか、絶対大丈夫っていう確信があるのよね。自分でもよく分からないのだけど…』




「…と、言っていたらしい…」

「なる、ほど…」


 つまり危険とは。周りの男の命の危機という事か…と納得する。
 そして何故自分もカウントされているのか、ランドールはそこまで信頼されているのか…言いたい事は沢山あるが飲み込んだ。


 今度は2人揃ってセレスタンに目を向ける。この少女を何がなんでも守らねば…彼女本人だけでなく、多数の尊い犠牲が生まれる、と…決意を新たにするのであった。


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