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学園1年生編
とある養護教諭の優雅な1日
しおりを挟むここグランツ皇国の貴族の子が通う学園、アカデミー。
そのアカデミーにて養護教諭として働くオーバン・ゲルシェ。今日はそんな彼の1日を見てみよう。
朝。職員会議を終えた彼は、早速医務室にやって来た。
そして最近使い始めた紺色のマグカップにコーヒーを淹れ、いつもの席に座る。
「そろそろ剣術大会か…医療体制整えとかねーと」
近日行われる学園の一大イベント、剣術大会。
この大会は、皇帝夫妻や各騎士団長も見学にやって来るほど注目されている。
学年が上がるにつれてレベルも上がり、毎年怪我人が絶えない。骨折などの重症人にのみ、魔術教師のクレール・バルバストルが治癒魔術を使用する。
しかし治癒魔術は魔力の消費が激しいので、捻挫程度までなら普通の処置しかしないのだ。
この日の彼は、大会に向けて計画を立てたり備品の確認、発注に勤しんでいる。サボる事も多い彼だが、一応ちゃんと働いているのである。
「先生、転んでしまって…」
「先生、指を切ってしまいましたの」
「ちょっと具合悪くて…」
普段セレスタンばかり入り浸っている印象だが、他の生徒も少なからずやって来る。
「ほい、これで良し」
「あー、包丁か。少し沁みるぞ」
「熱があるな…少しここで寝るか、もしくは担任には連絡しておくから帰りなさい」
そして彼の治療を受けた生徒は、すぐに出て行く。理由もなく長居などしないのだ。
「えーと。ワインド男爵の息子、体育の授業で転倒膝を擦りむく。
ザック伯爵家の娘、調理実習で軽く指を…」
ゲルシェは医務室を利用した生徒の情報を記しておく。いずれ纏めてそれぞれの家に送るのだ。
「せんせー。ジスランが顔面にボール喰らって鼻血噴いた!」
「出た…って酷いなこりゃ。平気か?」
「大丈夫だ…」
静かな医務室にペンの音のみ響いていたのだが…お騒がせ少女・セレスタンが顔面血塗れのジスランを連れてやって来た。
彼は体育の授業で、セレスタンの放ったテニスボールを顔面に受けたらしい。
「……よし、鼻は折れたりしてねえな。コレで冷やしながら押さえてろ。
ところで…お前は何やってんだ?」
「付き添いですが?」
ゲルシェはちゃっかり布団に潜り込むセレスタンに声を掛けた。
そして手を突っ込み引き摺り出し、医務室の外に放り投げる。
「少しくらいいいじゃんかー!!」
「健康な奴は授業に戻れ、阿呆!」
事情によってはサボりを容認する事もあるが、基本的にはちゃんと追い返しているのである。
「そんで、なんでわざわざ顔面でリターンしたんだお前?」
「それが……いや、なんでも…」
「…言いたくねえんならそれでも良いが、同じ事繰り返すようなら指導が必要になんぞ」
ゲルシェは養護教諭らしく、生徒の指導もきちんとこなす。また来られたら面倒だから。
目を泳がせていたジスランは、ゲルシェのほうを見ずに途切れながら答えた。
「その……セレスが打った時、服が、捲れて…。
腹が、白い肌が見えて……。目が、離せなかった…んだ…」
「…………………そうか」
こんな風に、生徒の恋愛相談もお手の物である。
しかし好きな子の腹部をチラッと見ただけで動けなくなるなら、エリゼのように全部見てしまったらどうなるんだろうか。ゲルシェはそんな好奇心が僅かに疼いたが…。
ジスランがぶっ倒れるだけならいいが、最悪理性を失ってセレスタンに襲い掛かる可能性もある。
そうなったら精霊が止めてくれるとしても…互いに深く傷が残るだろう。それは駄目だ、という結論に至った。
「(コイツ以前、もう男でもいいかなとか言ってたよな……。
本当は女の子だって知ったらどうなるんだ?でも…うーん…)」
勝手に生徒の個人情報を漏らすことはしない。例え相手が親しい友人であろうと家族であろうと。
今回はかなり特殊なケースで、本来なら速やかに学園に報告すべきなのだが。
「(とはいえ、このまま苦悩し続けるのもキツいよなあ…)
…やっぱ、相手が男っつーのがネックか」
「当然だ。もしセレスが女性だったら、俺は初めて会ったあの日に婚約を申し込んでいたさ…」
「そうか…(これも縁ってことか?もしもラサーニュ姉が最初から偽ってなかったら、今頃バカップルになってたりしてな)」
本当に、人生ってままならねえなあ。
ゲルシェはそう思った。
そして昼。職員用の食堂もあるが、ゲルシェは大抵医務室で食べる。
生徒が来るかもしれないから…ではなく、食欲が薄いのとあまり人混みが好きではないから。
簡単に昼食を済ませ、休憩をする。
よっこらせとベッドに横になろうとしたが…聞き覚えのある足音が近付いて来るので、椅子に座った。
…たったったったったっ、ガチャ!
「ゲルシェ先生、失礼するぞ!!!」
「おう…出やがったな…」
足音の正体は、お騒がせ少年・エリゼである。
医務室に入るなり、猫の絵が描かれたマグカップを棚から取り出しゲルシェに差し出した。
「なんかくれ!」
「へーへー…」
彼は面倒くさいと思いつつも、きちんと紅茶を淹れてやる。ついでに自分の分も。
カップを受け取ったエリゼは、ダイニングセットの椅子に座り真面目な顔になった。
ゲルシェもダイニングの椅子に座り、エリゼの言葉を待つ。
「今日、セレス来ただろ?何か…言ってたか?」
「いんや、何も」
「そうか…。実は、ルシアン殿下にセレスの事がバレた」
ブフォッ!!と紅茶を吹き出すゲルシェ。まさか、また見られたのか…!?と心配になったのだ。
「どうやら彼は、ルネ嬢と同じく自力で辿り着いたようだ。
詳細は省くが、ボクとセレスは土曜に皇宮に行ったんだ。そこでルシアンと友人になり、その場で彼本人から告げられた」
「ごほっ、げほ…そ、そう、か」
「しかも彼は、セレスに「皇子妃にならないか?」と言ってな…」
「んぶ…っ!!」
ゲルシェは折角呼吸が整ったというのに、また咽せた。
その後エリゼから色々話を聞き、午後の授業が始まるため彼は去って行った。
「はあ…モテるな、ラサーニュ姉」
今度こそベッドに横になり、そんな事を呟く。まあルシアンは恋愛感情はなさそうだったが…人の心など、どう転ぶか分からない。
ふと窓の外に目をやると、5年生の体育の時間のようで、ジャージ姿のルキウスとランドールが見えた。
2人は競うように走り…走り…準備運動の一環のランニングなのに、走りまくり…授業時間の半分を全力疾走し続け、どちらもぶっ倒れた。
「…………」
ゲルシェは起き上がる。そして脱水、疲労の症状に対する準備をし始めた。
5分後。
クラスメイトに連れられてルキウスとランドールがやって来たのであった。
午後の授業も終わる時間。
いつもなら終業時間の18時まで、度々医務室を留守にしたり、のんびり書類仕事をこなしている。現在何をしているかと言うと。
「さて、どうすっかな。親父は今年に入ってもう30回くらい危篤になってるしー…今日は兄貴に危篤になってもらうか?」
メモのネタを考えていた。最終的に『天気が良いので少々海を見に行ってきます』と書いた。
ちなみに首都から海まで行くのに、馬を飛ばしても丸1日は掛かるのである。
そんなメモを机に置き、医務室を後にする。
そして喫煙所で一服。トイレに行ったり茶葉を仕入れたり、菓子を購入したりする。
「そういや、ラサーニュ姉この茶好きだったか。切れそうだし買っとくかあ。
あー、これたまにしか入荷しねえやつじゃん。よっしゃまとめ買いしとこう」
学園の売店は、結構なんでも揃っているのである。
欲しい物が買えてご機嫌な彼は、足取り軽く医務室に戻る。
だがノブに手をかけようとした時…中から複数の話し声が聞こえてきた。この声は…。
ガチャ
「お前ら、なんか用か?怪我か病気か?」
「あ!!ちょっとゲルシェ先生、なんで私のマグカップが無いのでしょうか!?」
やはり、シャルロットだ。よく見るとセレスタン、ルネ、バジル、ルシアンも椅子に座っている。
セレスタンとルネは恐らく、ルシアン絡みの事だろう。だがシャルロットとバジルは分からない。
とりあえず、話を聞く事に。
「そのカップはなー…」
「聞いています、それぞれ準備した物でしょう?ならなんで私には声をかけてくれなかったのかしら!?」
俺に聞くな。その言葉を彼は飲み込んだ。
「ラサーニュ妹やリオは、あまり医務室に来ないだろうが」
「そうですが、私も欲しいんです!バジル、買いに行くわよ。ついでにジスランの分も買っておこうかしら」
「はい…では少々失礼します…」
「いってら」
2人を見送った後、買ってきた物を整理しながら話しかけた。
「で、なんの用だ?殿下にバレた件か?」
「その通りですわ」
「いやあ、昼間はジスランもいたから言う機会が無くて…」
「よろしく頼む」
予想通りすぎてゲルシェはため息をつく。まあ今回はセレスタンの落ち度と言うより、ルシアンの勘が鋭すぎた結果だろう、と頭を抱えた。
そっちのほうがタチが悪い。どんなに気を付けてもバレるんじゃ、それこそ他人と一切の交流を断つしかないのだから。
そう思ってセレスタンも当初は他人と深く関わろうとしなかった。
だが優花が混じり自由に生きる事を決意した結果、今この状況になっているのだが。
そんな事、ゲルシェは知る訳がない。
「ロッティ達は、僕達が医務室に遊びに行くって言ったらついて来ちゃったの」
「でも今後、本当にどうしようかしら…」
「ふうむ、よければ私に詳しい話を聞かせてもらえないか?」
全員に買ってきたばかりの茶を提供し、ゲルシェも座る。
いつシャルロット達が戻ってくるか分からないので、皆でルシアンに手短に説明した。
話を終える頃、ルシアンは苦い表情を浮かべる。その顔を見て、やっぱ同じ事思うんだなー…とゲルシェは考えていた。
「あ、そうだ…ヴィヴィエ嬢、ラサーニュ姉に淑女教育してやってくれ。
男の前で無防備に寝顔晒したりすんじゃねえ、ってな」
「セレスちゃん……分かりましたわ!!」
「ええ!?いいよう、僕…」
「何を言ってるんだ。全部終わったら、其方は伯爵令嬢になるんだろう?」
「う…いや、その……」
3人は、言葉に詰まるセレスタンを不思議そうに見つめた。当然、伯爵令嬢として生きていくと思っているからだ。
まさか地位とか全て捨てて、サバイバル生活も悪くない、と考えているなど想像もつかないのだ。
何せ伯爵の不正云々については、セレスタン・シャルロット・バジル・エリゼだけの秘密だ。彼らは自分達も罰せられると思っているから…今までと同じではいられない、と覚悟を決めている。
「ま、まあ今はいいじゃない!それより今後の対策でしょ!?
淑女教育なんて受けて女の子っぽくなっちゃったら、もっと危険じゃん!」
それは確かに一理ある。
「なら…何かあったらすぐに精霊を呼べ。
契約してれば、名前を呼ぶだけで何処にいても現れるだろう?
学園内は精霊禁止って言っても、非常時に呼ぶくらいなんの問題も無い」
この間、俺に襲われた時のように。とは言わなかった。
「そ、そっか。でも僕の精霊、戦闘向き少ないんだよね…誰か、強い子と契約しようかな?」
戦う前提なのか……彼女以外の全員がそう思った。
暫く後話し合いは終了し、雑談を始めたのでゲルシェは仕事に戻る。
「でもルシアン様がこんなにも素直になられるなんて。流石セレスちゃん!とエリゼ様ですわ」
「いやあ…僕は大した事してないよう」
「いや。私を叱ってくれたセレスと、なんでもズバズバ言ってくれるエリゼのお陰だ」
「そ、う?うーん?」
子供達の会話を聞きながら…ゲルシェは医務室全体を見渡した。
今年の春から今までの間に、2回も破壊された扉。
シンプルだったベッド周辺は高級感溢れる逸品に変わり、何故かミニキッチンまで増設された。同時に立派なダイニングセットまで…。
何より……己が使う分しか無かったはずの食器類が、一気に増えた。茶葉の種類も、自分は飲まないジュースもあるし、菓子のストックも大量だ。
彼が学園に勤めて約10年が経つ。これまで…こんなにも騒がしい年はあっただろうか?
しかも全ての元凶で中心にいるセレスタンはまだ1年生。
ならば少なくとも、あと4年は振り回される事になる。
そんな未来を…
「(それも楽しいかもしれないなんて…思う日が来るとはな)」
彼は元来、人と関わるのが苦手だ。
だからこそ仕事はきちんとこなしつつも、たまにサボって息抜きをしている。だがいつからか…逆にサボりに来られるようになってしまった。
最初は面倒だ、厄介な子供だと思っていたのに。段々と放っておけない、と思うようになり。
いつの間にか…父親のように慕われるようになってしまった。
そんな関係も…悪くない、と今は思っている。
彼はこっそり微笑みながら、カップに口をつけて紅茶を飲む。
どうせセレスタン達が卒業したら、また静かな日々が訪れる。それまでは…長い人生、騒がしい時間も必要だよな、と考えながら子供達の姿を眺めた。
「そういえば僕、最近胸が苦しくて…。
あ、甘酸っぱいやつじゃないよ、物理で。サラシでぺったんこに潰すのにも限界が近いかなー…。
このままどんどん大きくなっちゃったらどうしよう?」
「「ごフォッッッ!!!」」
「セレスちゃんっ!殿方の前で、はしたなくてよ!!」
「あ。ごめん…」
「ゴホッ、ゴフッ!」
「ガハッ、ハア…!!」
セレスタンがいきなりそんな事を言うもんだから、男2人は盛大に咽せた。
やはり彼女には早急に淑女教育が必要だ…!本人以外、強く思った。
「でも、確かに問題ですわ。潰しすぎて形が悪くなっても困りますし。
ちょっとセレスちゃん、こちらへ」
「え、うん」
そのままルネはセレスタンの手を引き、ベッドの上に移動してカーテンを閉める。
そして…
パサ…シュル、シュル…
「まあ!コレを潰すの苦しいでしょう?」
「うん…でもコルセットだって苦しいんでしょう?」
「コルセットは普段から付けている訳ではありませんもの。公の場に正装で出る時くらい、特にこの制服時は楽なものですわ。
それにしても…」
「ひゃっ!?ル、ルネちゃん!?」
「ふふ…柔らかい…」
「やぁ…っ!ど、どこ触って…んっ、ひあ…」
「…って、男性用の下着なんですの!?」
「なんで下脱がすのおー!!」
「「よそでやりなさい!!!」」
ガタッ!ガタン、バタバタ…ガチャ!!
ゲルシェとルシアンは堪らず外に飛び出した。そして廊下に座り込み扉に背を預け、深呼吸。
「……いい歳して子供に興奮するのは如何なものかと思うが?」
「してねーーーよ!!!お前こそ今夜眠れなくなんぞ!!」
ルシアンは、ははっと笑いながら立ち上がる。
「私はこれで失礼しよう。カップを買いに行かなくては。エリゼについて来てもらおうかな…」
「お前も入り浸る気かい…」
「いいじゃないか、ではまた。叔父上」
「おー…」
ルシアンの背中を見送り、ゲルシェはいつ中に戻ろうか悩んでいた。
そこへ…マグカップを購入したシャルロット達が戻って来てしまう。
「先生、何故廊下にいらっしゃるの?しかも座り込んで」
「げ…!ちょ、ちょっと待て!!」
ゲルシェは扉を薄く開け、声を掛けた。
「おい、ラサーニュ妹戻って来たぞ!!入っていいのか!?」(小声)
「ちょ、ちょっとお待ちになって!すぐ…!」
「先生…?何をしているのかしら…?」
背後からドスの効いた声が降ってきて…ゲルシェは肩を跳ねさせた。
「中に…何が?お兄様とルネとルシアン殿下…?」
「ちがっ、待て待て、落ち着け…!!」
急いで扉を閉めようとしたが、シャルロットがすかさず指を滑り込ませ、閉められなくなってしまった。
そして淑女とは思えぬ力で扉を引く。
「なんでもねーって!!リオ、手伝え!!お前のお嬢様なんとかしろ!!」
「お嬢様、落ち着いてください!!
これはもう、坊ちゃんかジスラン様でないと…!」
「落ち着いてるわよ?私はただ、中に入りたいだけだもの。何かおかしくて?」
扉が、生徒会室と同じ素材の重厚な扉が、ミシミシと嫌な音を立てている。
「お前っ、何回扉壊す気だー!!?」
「…ええ、本日はルシアン殿下と昼食を共にさせていただきました。
以前の彼とは違い、落ち着いていらっしゃって穏やかになられたようですね」
「はい、全部ラサーニュ君とラブレー君のお陰なんですよ」
「そうでしたか…。俺は2人と違い、殿下の表面しか見ていませんでした。
俺如きが彼を評価し、跳ね除けた事…申し訳ございませんでした」
「いいんですよ、頭を上げてください。
あの子の内面を見ようとしなかったのは、僕も同じなんですから」
その頃ルクトルとパスカルが、少し離れた所で立ち話をしていた。
パスカルは以前ルシアンの友人になって欲しいという話を蹴っていたのだが。今の彼を見て…自分は間違っていた、と己を恥じて反省していた。
そして同時に、2人の友人を心から尊敬している。自分では、ルシアンを変える事など出来なかっただろうから。
「よかったら、今度皆で皇宮に…おや?」
「どうかなさいましたか?」
「何か…聞こえません?」
パスカルも耳を澄ませると、近くで何か言い争う声が聞こえてきた。
2人は顔を見合わせ、声のするほうに向かう。
「何事ですか…って、これは…?」
「何があったんだ…?」
現場に駆けつけた2人が見た物とは。
「扉は…死守したぜ…」
全開になった医務室の扉にもたれかかり、真っ白に燃え尽きているゲルシェ。
「…………」
廊下にうつ伏せに倒れているバジル。そして…
「なあんだ、ルネが鼻血を出しちゃっただけなのね。それでお兄様が看病していたの」
「そうですわ。恥ずかしいので…先生とルシアン殿下には外に出ていただきましたの」
「うん…はは…」
ふふふと笑い合うシャルロットとルネ。そして苦笑いのセレスタン。
なんとか誤魔化す事に成功したらしい。
まるで状況が理解出来ないルクトルとパスカル。とりあえず、廊下で瀕死の2人を介抱する事に。
「ん?なんだこの箱」
「これは…マグカップ、です…」
パスカルがバジルの横に落ちている物に気付き、拾い上げる。バジルがなんとか言葉を発した。
「坊っちゃん達が…医務室で使用する、専用のマグカップを所持してまして…。
お嬢様も欲しい、との事で…お嬢様と、ジスラン様と、僕のカップを…買ってきたのです…がくり」
「死んだ…とりあえず、ベッドに運ぶか…」
パスカルはバジルを、ルクトルがゲルシェをベッドに乗せた。
「マグカップか…俺も持って来ようかな。ルクトル殿下はいかがですか?」
「んー…僕は遠慮しておきますね。君達で、お揃いにするといいかと思います」
「そうですか」
次の日。医務室の棚に…シロクマ、イルカ、亀、パンダ、夜空模様のマグカップが増えているのであった。
「全然優雅じゃねえな俺の1日…」
応援ありがとうございます!
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