【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園1年生編

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 ふう…なんとか落ち着いた…。


 僕はまた応接間に通され、ソファーの上で膝を抱えて座る。
 泣きすぎて顔が腫れてしまったので、お姉さんに癒やしてもらった。



「そろそろ機嫌を直してもらえんか…?」

「ふーんだ」

 さっきから魔術師の皆さんは、美味しそうなお菓子や可愛い魔生物(魔術で創った生物)で僕のご機嫌取りをしてくる。
 でも直してやんない。お菓子はありがたくいただきますが。魔生物は愛でさせていただきますが。

 …新しい魔術を試したい気持ちは分かる。でもわざわざ危険な方法を取る必要無いじゃん!!
 もう知らんったら知らん!!お祖父ちゃんになんかあって、エリゼが泣く事になったら恨んでやる!!!


「もう、ですから普段から無茶な実験はおよしくださいと言ってますのに」

「面目ない…」

 テランス様はさっきまでの大声はどこへやら、すっかり萎んでらっしゃる。
 そしてこのお姉さん、名前をララさん。ララさんは魔術師団の中でも、指折りの常識人!
 パッと見真面目なリーマン風のブラン様ですら、上官を躊躇いなく抹殺しようとする集団の中でな…。

 だがまあ…いつまでも子供のように拗ねるのはやめよう。
 ハッキリ言って、アレがここの日常。常識なんだ。そこに僕みたいな部外者が、「やめなさい!」なんて言う資格は無い。
 でもせめて、僕がいる時はしないで欲しいなあ!!


「もう…それで、もう僕に聞きたい事はありませんか?」

「!うむ、協力感謝する!!」

 勢い戻った…もう少し不機嫌なフリしときゃよかった…。エリゼも苦労してんだな。

 今は3時半、兄様のお仕事は5時まで。まだ時間あるな、ルシアンの部屋に行こっかな?
 そろそろここを出ようと思っていたら、ブラン様が控えめに声を掛けてきた。もう怒ってないってば。


「もしもラサーニュ君さえ良ければ、仕事としていくつかヘルメットに魔術を掛けてくれないか?
 工事現場の事故、災害時の二次災害。それらを防ぐ為、作業員の安全の為に…どうかな?」

 仕事?仕事か…僕の魔術が仕事になる日が来るとは、思いもせなんだ。
 ……手に職をつけるのはいいかもしれない。それが誰かの助けになるのなら尚更。

 それに彼らの反応からして、最初から僕にそう頼もうとしてたのかもしれないし。


「分かりました。お受けします」

「!ありがとう、魔力を吸われてしまうと思うから、無理をしない範囲でお願いします」

 おおう、オッケーした途端に沢山のヘルメットが運ばれてくるう!気分は内職だな。
 よし!頑張るぞ!!こうして僕は祈りを込めながら、黙々とヘルメットに『安全第一』と書き続けるのであった。





 カラン

「………あれ」

 50個ほど書いたところで…僕はペンを落としてしまった。拾おうにも…身体に力が入らず、僕はソファーに倒れる。

「セレスタン君!これは、魔力切れだな!!!」

「あちゃー…ペース配分を、誤りましたかね…。ごめんなさい」

 テランス様は「謝らんでいい!!」と言って僕を抱っこしてくれた。なんかこの力が入らない感覚、剣術大会でジスランと勝負した後に似てるな…。

 そして今日はここまでという事で、僕は抱えられたまま魔術師棟を後にする。
 皆さんに「また来てね!」と言葉をもらったが、次は無茶な実験はやめてね。


「いやあ、エリゼに君のような友人が出来て、儂は嬉しいぞ!!!
 いつでも遊びに来なさい、歓迎しよう!!」

「はは…こちらこそ、彼と友人になれて良かったです」

 テランス様は僕を抱えているとは思えないほどの勢いでずんずん進む。…って、どこに向かってんだコレ?ねえ、ちょっと?
 てっきりルシアンの部屋に行くと思ってたのに…彼はそのまま、僕が来た事のない場所に向かっている。もしかして、ラディ兄様がいる所かな?




 そしてとある部屋の前で止まった。
 僕を抱っこしていないほうの手でゴゴゴン!!とノックを乱暴にし、返事も聞かずに扉を開ける。ノックの意味よ。

「失礼します!!!」

「…………ラブレー、ノックの意味を知ってるか?」

「中に誰かいるか確認の為でしょう!!!」

「うん、返事を聞かなかったら意味ないね」

「いらっしゃるのは分かってましたので!!!!」

 すんごいゴリ押しですこと。って今の声……。


「へっ、陛下!!?わああ、降ろしてください!!」

「何を言う!!まだ魔力切れで身体を動かせないだろう!!?」

「ああ…だから抱っこしてるのか…」

 ひえええ!よりによって陛下の執務室に来るとは!!僕が陛下を見下ろすなんてえ!
 僕は情けなくも、このままで挨拶した…。


「おや…その子がセレスタン君、ですか?」

「おお宰相殿!!そうです、我が孫の友人であり精霊姫のセレスタン君です!!」

 精霊姫は言わんでいい!!………ん?宰相様?
 陛下のお側にいる、銀髪の男性は…ラディ兄様のお父様!!?ちょ、挨拶しないと!!

「おーろーしーてー!」

「だーめーだー!!!」

「おやまあ…ふふ」

 ええい、テランス様と無駄な争いをしている場合じゃない!!
 しかし宰相様、笑うとますます兄様にそっくり…イケおじですね。


「ええっと。初めまして、セレスタン・ラサーニュと申します。
 いつもご子息、ランドール様には大変お世話になっております!!」

「ご丁寧にどうもありがとう。私はクィンシー・ナハト。ご存知の通り、宰相を務めさせていただいているよ。
 君の話は息子からよく聞いている。ラディ兄様と呼び慕ってくれているようだね。今後も仲良くしてくれると嬉しいな」

「えへへ…はい、もちろんです!こちらこそお願いします!!」

 いやん、どんな話をしているのかしら?変な事言ってなきゃいいが…。
 もっとゆっくりお話ししたいのだが、テランス様はここに用があるのだろう。そっちを済ませてもらわねば。


「そうだった!!!陛下、ご報告がございます!!!!」

「うん、聞こえてるから。もう少し声を落としてくれ」

「はい!!!こちらをご覧ください!!!!(低音)」

「うん……暫く口を開かんでくれ……」

 陛下も苦労してるなあ。お祖父さんや、声を低くするんじゃなくて大きさを下げろと言っとるんじゃ。
 紙を受け取った陛下は、その場で目を通す。そして感心したような声をあげた。


「そうか、やはり…。
 ありがとう、ラサーニュ君。君のお陰で1人の命が救われた、彼も家族もとても感謝していたよ。
 しかも更に精度の高い効果も発揮するとは」

「勿体ないお言葉です」

 あの紙には実験結果も書いてあるのだろう。陛下にお褒めいただいたぞ!
 そしてそのまま宰相様に紙を渡した。すると宰相様は…最後にクスッと笑った?


「君、泣いちゃったの?魔術師は変人の集まりだからねえ」

「何書いてんですかーーー!!!?」

「全て書いておいたぞ!!!」

 そこまで書くんじゃないわ!!!僕は渾身の力を振り絞り、テランス様の頬を両側に引っ張ってやった。硬い!!!
 ああもう、兄様のお父様からの評価があ!!泣き虫な子供だと思われてしまう!!その通りですが。



 その後なんとか切り替えて…僕の仕事についての話に移行した。
 お給料貰えるって、やったね!!いくらかな?ヘルメット1つで、銀貨1枚くらいくれたら嬉しいなあ。

「そうだな…今は1つ、金貨5枚でどうだ?」

「おばーーーーー!!!!??」

 陛下の言葉に、僕は変な声を出してしまった。
 高いよ高すぎる!!!50個書いたから…金貨250枚!!?嘘だろ庶民の平均年収軽く超えてるよ!?

「やっぱり少なかったかな?」

「多すぎますよ!!?」

 何言ってんのこの人!?なんでテランス様も宰相様もなんも言わんの!?


「セレスタン君。むしろこれは少なすぎる報酬だよ。
 本当は金貨10枚でもおかしくない。陛下が少な目に提示しているのは、君がそうやって遠慮してしまうと思っての事だろう。
 労働には、正当な対価を貰うべきだ。君の仕事はそれだけの価値があると言う事なんだよ。
 だから…250枚は今受け取って、残りは君が大人になったら支払おう」

 う……!宰相様に、そう言われては…。
 そりゃね、あれを被っていたお陰で命が助かったとなれば。命なんて金貨何千枚積んでも買えない物なんだから…。


「……分かりました、有り難く頂戴致します!」

 僕が自分の評価を下げては駄目だ。それは、命を軽んじるのと同義だから。
 お金はいくらあってもいいんだし、有り難く受け取ろう。

 お給料はまた新たに僕の口座を作り、そこに振り込んでいただく。
 ……これは、僕が自分で稼いだお金。これなら…。

「そろそろ息子の仕事も終わるだろう。ラブレー殿、そのまま彼を送ってやってくれないか?」

「かしこまりました!!!それでは、失礼致します!!!」

 最後まで騒がしいお祖父ちゃんだ…もう一度2人に挨拶し、陛下の執務室を後にした。




 ※※※




「ラディ兄様!」

「セレス。来ているのは聞いていたが、総団長殿と一緒にいたのか」

「うん!」

 やっと会えた!魔力切れで動けない事を説明してから、テランス様は僕を兄様に手渡し「これからも孫をよろしく!!!」と言って去って行った。やっと静かになった…。


「それで、今日はどうしたんだ?」

「僕はねえ、兄様に言わなきゃいけない事があるんだよ!」

「ん?なんだ?」

 兄様は僕を横抱きにしながら廊下を歩く。
 文官とか皇宮で働く人の休憩所があるらしいので、そこを目指しているらしい。


 到着し椅子に並んで座り、やっと落ち着いたので僕の話を聞いてもらおうか。
 他にも休んでる人はいるから、聞かれないよう小声でね。

「兄様…あんまり僕にお金使っちゃ駄目だよ!」

「え、なんで?」

 なんでじゃないよ!あの眼鏡いっぱい買って貰った日だけじゃなく、兄様はちょくちょく僕に物をくれる。
 でも…そのお金は、バルバストル先生に使って!!!


「あのね…兄様…バルバストル先生の事好きなんでしょう?」

「ごふっ!!!」

 お、クリティカルヒット!咽せた兄様は、少し咳き込んでから落ち着いた。


「だ、誰に聞いた…?」

「本人から。先生、この間僕が怪我したでしょ?その事について心配してくれてたんだ。
 それで何故か恋バナが始まりまして。それで先生は、僕の姉様になるんでしょう!?」

 経緯は正直に話せないので、少し変えて説明した。僕は目を輝かせ、兄様に詰め寄る。ああ、早くルゥ姉様と呼びたい!
 頑張れ兄様、口説き落とせ!!!

「そうか…いずれお前には話すつもりだったが。知られちゃったか」

 兄様は苦笑しながら僕の頭を撫でた。その顔はちょっとだけ…辛そう。

「やっぱり…子供だからって相手にしてもらえないの、キツいよね…」

「うん…そうなんだよな…」

 はあ…僕達は、揃ってため息をつく。



 兄様を素直に受け入れられない先生の気持ちも分かる。
 今までの経験だけでなく…年の差、教師と教え子という立場。それに先生は言ってなかったけど…兄様は女性に人気だから、きっと先生は妬み嫉みを買うだろう。

 それと同時に、兄様の気持ちもよく分かる。
 例えば…僕がゲルシェ先生の事を好きだとして。僕が卒業したら結婚してください!!と言ったとしよう。
 するとゲルシェ先生は「先生を社会的に殺す気か?」とか言いそう。こっちは本気なのに!
 そうでなくとも「お前はまだ若いんだから、他に目を向けろ」とか、「今のお前はただ、年上の男に憧れているだけだ」とか言うだろう。

 でも実際にそういう人が多いから、バルバストル先生も兄様を信用しきれない訳で。
 どうすれば兄様の本気、伝わるのかなあ…。


「ねえ兄様…どうして先生の事を好きになったのか…聞いてもいーい?」

「ん…そうだな…長くなりそうだから、明日の放課後時間をくれるか?」

「うん」

 明日の約束をして、今日は解散。
 兄様は宰相様と一緒の馬車で帰るそうなので、皇宮でお別れした。
 そして僕はエリゼと一緒に帰るのだ。



「エリゼ…君、苦労してたんだねえ…」

「なんだ急に?その憐れみの視線をやめい」

「あう」

 べしっと頭を叩かれる。いやあ、強烈なお祖父ちゃんだよねって話さ。
 そしてついでに、ヘルメットの話も彼にする。エリゼもルシアンから少し聞いていたようで、詳細を求めてきた。


「………なるほど。それで精霊様、心当たりというのをお聞きしても?」

「そうだね、ヨミ。エリゼは信用出来るからいいでしょ?」

 ヨミが僕達の言葉に姿を現す。それにしても…エリゼがヨミに敬語を使う姿はなんか違和感あるなあ。今の彼を見ていると、以前フェニックスに命令しようとしていたとは思えん。
 とまあ、そんなエリゼの成長は置いといて。ヨミは少し考えてから口を開いた。

「本当に、心当たりだけど。
 多分…フェニックスの力じゃないかな」

「「フェニックス?」」

「シャーリィは、フェニックスの刻印をその身に宿しているでしょ。
 契約はぼく達精霊が人間に力を貸すけど…刻印は、力の一部を人間に譲渡する事が出来る。
 加護、と言えば分かりやすいかな」

 加護?フェニックスの…力?


「あいつはぼくと対極で…ぼくは万物の命を奪う。あいつは万物に命を与える。とは言え、完全に死んだ生物を生き返らせるとかは無理だけど。
 でも死ぬ直前、刹那の瞬間に癒しを与える事は出来る。心臓を貫かれた瞬間に癒やせば、それは人間からすれば蘇生となんら変わらないでしょ。
 だからあいつが与える命ってのは…人形に命を吹き込むとか、そういう事。
 もしくは…例えばエリゼが死んだとして。その死体に…新しい命を吹き込む事は可能。もちろんそれは、エリゼの姿をした全くの別人だけど。

 で…流石にシャーリィが同じ事は出来ない。でも、今日見せた魔術。あれは…なんて言えばいいのかな。
 シャーリィの魔力を…力を持つ言葉、言霊としてその効果を付与した…かな?」


 うーん?分かるような、分からないような…。
 でもなんとなくは伝わった!!多分。


「つまり…セレスの『魔力』をフェニックスの力で『命』に変換。それを言葉に与えて『言霊』として…文字に起こし。対象、今回はヘルメットに付与した。という事ですか?」

「あ、そんな感じ」

 おお、なるほど!でもなんで漢語限定なんだろう?
 実は今日、グランツ語でも試した。ヘルメットにグランツ語で安全第一と書いたのだが、なんの力も宿っていなかったのだ。

「うーん。それに関してはシャーリィにしか分からないんじゃないかな?」


 ………なるほど。多分、四字熟語だからだな…。でもそれを2人に説明するのは難しい…。


「は…はは、は…」

「「?」」

 結局僕は、曖昧に笑う事しか出来ないのでした。



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