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序章

新しい1歩

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「……はっ!?」


勢いよく上体を起こす…私、ベッドに寝てた?
ううんそれより。今のは…眞凛の記憶…?


「眞凛…眞凛!!返事して、眞凛!!?」


返事が無い。
洞窟には…私の声が響くばかり。


眞凛…?なんで、私が身体に戻ってるの?
最後に嫌われたかったって何!?やだ、置いていかないで…!!


靴も履かずに飛び出し、肺いっぱいに空気を吸い…


「…眞凛!!!いや…いかないでえええっ!!!!」


驚いた鳥が飛び立つも…やはり返事は無い。
やだ…やだあ…!


「あああ……ああああああああぁぁっ!!!」



眞凛…私の、お姉ちゃん。
お願い戻ってきて、なんでもするから。
私の身体なんてあげるから。1人に…しないで…!!



昨日まで笑い合っていたじゃない。
これからも…続くと思ってたのに。なんで…なんでえ…!!


「ばか…お姉ちゃんの、ばかぁ…!!酷いよう、妹を置いてけぼりにするなんて。
やだ…ひとりぼっちは…やだ…!」


父親に捨てられた時でさえ、こんなに悲しくなかった。
まるで…お母様がいなくなった時のよう。

いや…お母様は私も覚悟ができていた。
お姉ちゃん…もう…会えないの?
うぅ……あああああ…!!



溢れる涙と叫びは止められず。喉が枯れてしまうまで、泣き続けた。






空が茜色に染まる。もう…動かなきゃ。

私は生きているんだから。
どうやら眞凛の知ってるゲームによると…私は悪役になって必ず死ぬらしい。


「…げほっ。それこそ、ばかみたい。私…あんな人達の為に、死ぬ気ないし」

妹…名前も初めて知ったけど。ルージュが学校でモテモテでハーレムを築こうと、どうでもいいわ。


「ボックス」

眞凛の記憶と経験は全て、私の中にある。
わ…日本語も読めるようになってる。
メニューを下に進めると、あった。ギャラリー…。



「…うわっ!寝顔~…半目じゃん!」

スク水姿まで残してる!あ、ゼッケンに『せれすと』って書いてあったのか!
木の上で昼寝しようとして、落っこちて鼻血出した時の!
あれも、これも!変な瞬間ばかり……でも。

「どれも…私だけ。眞凛はいない…」

仕方ないけど。悲しい…よ…。

ギャラリーを閉じようとしたら……あ…っ!!



そこには…1枚だけ。
引っ越しが完了して…笑顔で自撮りする眞凛の姿が…!


「…眞凛。すぐには切り替えられないけど。
私…頑張ってみる。あなたの事、絶対に忘れない。

さようなら…お姉ちゃん」



 ぽつ…


空を見上げると、何かが顔に当たる。雨…?

最初はしとしと…段々と強くなり、チクリと肌を刺激する。
手を空に突き上げ…指の隙間から灰色の雲を見つめる。



…ねえ眞凛。あなたが雨を好きな理由、知っちゃった。

まだお兄さんと妹さんと…仲良し兄妹だった幼い日に。
お揃いで買ってもらった傘を差して、並んで歩いたんだよね。

大きな声で歌いながら、長靴でバシャバシャ水溜まりに入り。
傘を振り回すものだから、みんな全身ずぶ濡れになっちゃって。
そんな貴女達を優しい目で見つめていたご両親。



それが…すっごく楽しかったんだよね。
だからこそ、心の底から家族を嫌いになれなかった…。



「…そうだ。私はもう、ティアニーじゃない。新しいファミリーネームにしよう」


私と眞凛を繋ぐ名前。雨を見ていたらふと思いついた。


「レイン…ブルー。私は今日からセレスト・レインブルーだ」


ね、眞凛。素敵だと思わない?

両手を広げて、全身で雨を受け止める。
どれだけ呼び掛けても、眞凛はもういない。

だけどこれから…雨が降る度、あなたを思い出す。



 こら、風邪引くよ?早く家に戻って、タオルで拭きなさーい!


「えっ!!?」

今何か…。
気のせい、か。
でもそうだね、風邪を引いちゃう。急いで戻り…もう1度、眠りについた。



眞凛の夢は、見なかった。







1人になって数日。やっぱり…寂しいよ。
私って寂しがりだったんだ、初めて気付いた。

「何かペット…犬とか飼いたいなあ」

でも…いつか旅に出たいとも思ってる。綺麗な景色、美味しい現地のご飯。あらよだれが…。
だとすると現実的じゃない。
じゃあ…もう森暮らしはやめる?町に家を買ってみようかな。


「マリンがめっっっちゃ課金したお陰で…資金有り余ってるしね。
てか…上限超えたお金は、ゲーム内での銀行に預けてるはず」

『お金』に…あったキャッシュカード!読めなくて気付かなかったけど。

王都の銀行だと思うけど…お金入ってるのかな?
カードの名義は…あ、書いてないや。使えるかな…いつか王都に行ったら確認しよう。



「仮に無一文になっても、武器とか高値で売れそうだし」

そういえば、回復アイテムを開いた事なかった。
ふむ…怪我が治るポーション。魔力回復のマナポーション。状態異常回復の聖水…それぞれ2000以上ある…。
そうか、ガチャ産じゃないアイテムは999の上限無いのか。普通に買ったらいくらかな…後で薬屋行ってみよう。

物理無効とかの消費アイテムもその他にある。もちろん数千…わあ。私って控えめに言って最強?


「…うわっ、エリクサー!?万病やどんな怪我も癒す奇跡の薬…!なんで100個あんの!?」

ゲームでも入手法限られてなかった!?
あ…眞凛はイベントとか、全制覇してたなぁ~…!
そして一切使わなかった。バリバリのラストエリクサー症候群じゃん、私も使えないよコレ…。


特にエリクサーは、人に知られない方がいいね。
大金を積まれても困るし…争いの火種になりかねない。

ああ、考えすぎて疲れてきた。
ちょっとお昼寝してから…町に行こう…ぐう。




…眞凛。私…頑張るからね。

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