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第2章

新居

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「お帰りなさいませ、お嬢様!」

「ただいま、シャディ」

はい、私のメイドさんシャディも健在です!
新居は公爵家が用意してくれて、使用人と騎士もブロウランから数人来ている。

「お帰り、娘よ」

「ただいま、カルジェナイト様」

当然この人もいますとも。玄関まで出迎えてくれたので、軽くハグして挨拶だ。
ちなみに私のお部屋、大きなお風呂が付いてます!これでカルジェナイト様のお世話もしやすいし、一緒に浴槽も余裕で入れるのだ。



「お前…やっぱりドラゴン様と一緒に風呂入ってるのか…!?」

ご飯はエルムと私、2人で食べるのが基本。他の皆は使用人だから仕方ないけどね。
夕飯時、彼は頬を膨らませて拗ねている?

「まあ入りますけど…去年からは水着着てますよ」

シャディとシオウに「だめ!」って言われたのでな。
まず私がカルジェナイト様の全身を洗って、一緒にお湯に浸かって。カルジェナイト様が出て行ってから、シャディが水着を脱いだ私を洗ってくれるのが流れ。

「そ…そうか」

エルムは明らかにホッとした表情。



…私、この婚約はずっと…色々な要素が絡み合った、政略的なものだと思ってたんだけど。エリクサーとか、私の魔力量とか、ドラゴンの巫女とか…。
もしかして彼の好意は、演技じゃないの?という考えが年々強くなる。

でも、私は…ずっと弟としてしか見てないのに…。格好いいな~とは思うけど、それはオースティン様とかも同じだし。
本人に「私の事好きですか?」なんて言えるわけもなく。1人悶々とした毎日を過ごしている。




「ふう…」

「どうした?娘よ。其方の愛らしい顔を曇らせる原因はなんだ?」

「あ、なんでもありません!」

大きい浴槽で、カルジェナイト様の膝に乗りリラックスしてたのだが。エルムの事を考えていたら、無意識にため息が出てしまったようだ。
どうにかカルジェナイト様の気を逸らす事に成功。もう上がってもらおう。


「ではドラゴン様、こちらに」

「うむ」

カルジェナイト様の体を拭くのは、別のメイド(※モニカ、21歳既婚者)の仕事。

「あっ、ねえ。こないだクリスティーナ様から贈られた香油が…」

「……っ!!!?」

あ。バスルームを出て行ったモニカを追い掛け、扉を開けると。エルムが…ソファーに座ってた。
彼は私の婚約者だし、水着くらい見られてもなんら問題無い。その証拠にシャディもモニカも何も言わないし。
そんな彼は一瞬で茹でだこになった。しかし私から目を逸らす事はせず、ガン見しとる。そういやこのビキニ、エルムの好感度が上がるやつだった。


『運命乙女』では、必ず攻略対象との水着デートイベントがあるんだけど。キャラクターによって、好みの水着を着ると好感度に影響するんだわ。
自分で言うのもなんだけど、ゲームのルージュより私の方が胸大きいしスタイルいいと思うんだわ。だからか…ゲームより若干エロい気がする。

エルムはこのボーダービキニ。
シオウは確か…ハイレグだったな。
オブシディアンくんはフリル付きビキニ。
オースティン様は…スク水です。このボディにスク水は犯罪臭半端ない。

ボックスにはマイクロビキニとかあるけど、絶対ぇ着ねえぞ。ちなみにそれは全員の好感度が上がります。男ってやつはよ…。
…攻略対象じゃないけど。アガット様やグレンヴィル卿、P・C先生はどんな水着が好きなのかな~?なんちゃって!


「香油…こちらですね?」

「ありがとう、モニカ。
…エールムー。この水着…どうですか?」

ちょっと揶揄ったろう。扉を全開にし、両腕を頭の後ろに回してグラビア的なセクシーポーズを決めてみた。どやぁ。
するとエルムは俯き…頭から煙を出して…。


「……に…にあう…」

と、蚊の鳴くような声で言い。おずおずと…部屋を出て行った。何しに来たんだ。




ふー。さっぱり…ん?ソファーのテーブルに、大きい封筒が…彼はこれ持って来たのかな?
ソファーに腰掛けて水を飲み、封筒の中身を取り出す。これは…。

「あしながおじさん計画についてか…」

あれから数年、活動はずっと続けてきた。すると困窮している団体が結構あって、思った以上に長引いているんだよね。
やはり不正もあって、国に報告したり。そんで報奨金貰って…ふむふむ。捜査官の書いた報告書を読み漁る。


「……ん?匿名なのに、私があしながおじさんだって噂になってるって!?」

なんで!?私はお金と口を出してるだけだから、絶対にバレる事は無いと思ってたのに!?

そんで報告書の最後に、捜査団体を…ギルドとして立ち上げてはどうかと提案が。
そうすれば、正式に国中から依頼を受けて問題を解決して、必要ならまた寄付をすればいい、と。まあそれ以外の事件に携わる事も増えるだろうが。


う~ん…今まで通り、人任せでいいなら…やる価値はある。初期費用は問題無い、白金貨は200枚くらいしか減ってないし。
運営も、雇用も信頼できる人にお願いして。諜報部隊、実務部隊、事務員…本格的に…やるか!

「名前どうしよう?FBI…なんつって!でもイニシャルって格好いいかも?」

仮として、私のイニシャル…CRギルド。
シンボルは…ドラゴン、カルジェナイト様!



そんな風にアイデアを書き殴り、清書して…翌日エルムに渡す。


「…ああ、よさそうだな。お前が望むなら、公爵家で設立してもいいんじゃないか?もちろん代表者はセレストだが」

「え…いいのですか?」

「当然だ。俺から父上に通しておく」

「ありがとうございます!」

よっしゃ!公爵家なら王室の信頼も厚いし、色々便宜を図れる。
…ただお金を使いたいだけだったのに…なんか話が飛んでるような?まあいいか!!!(ヤケ)

さーて、そんじゃ朝ごは…ん?

「…………あっ」

あ?エルムが私をじっと見てた。…まさか?昨夜の事思い出してる?
可愛い~。近所のおねーさんにときめいちゃう男の子って感じ?ニヤニヤニヤ。
ダイニングには今…私達とシャディとモニカしかいない。うふふ…どれ、ボックスから…


「エ・ル・ム♡私実は…こ~んなの持ってるんですけど~」

「ぼふぁっっっ!!?」ガタッ!どしん!!

イヤーン。私が手に持って広げているのは…マイクロビキニのトップス♡
エルムは盛大に噴き出し、椅子から転げ落ちた…ちょっと大丈夫!!?


「お、お嬢様ー!!なんてモノ持ってるんですかっ!!」

「坊っちゃんを揶揄っちゃいけません!」

慌てる2人を制して、私はヤ◯チャしやがって…なポーズで倒れるエルムの横に座り込み、肩を揺らした。

「ごめんなさい!あの、反応が見たくて…つい…」

「…………………」

彼は無言で起き上がり…私の持つ、ビキニを掴んだ?


「……俺が着て欲しいって言ったら、着るんだな?」

「え………まじ…?」

「マジも何も、大マジだ。着・る・ん・だ・な???」

エルムは…赤通り越して紫色の顔で、呼吸を荒くして。
ブチ切れた表情で…私を睨む。口角は上がり、悪人面で私に迫る。

「そのつもりで、俺に見せたんだよな?」

「…………か、からか…」

「婚約者で、に興味津々な年頃の男相手にな?」

「……………………」



やばい、やり過ぎた。
助けて…メイドの2人に顔を向けると、気まずそうに逸らされた。

「……自業自得ですよ~…」

というシャディに、モニカはうんうん同調している。

「お前が、これを着たら。俺がどんな反応するか…見たいんだよな?お望み通り見せてやるぜ」

「……………ごめんなさい…」

これはもう、謝罪一択。
あの、本当に…「わわっ!はしたないぞ!…(チラッ)」くらいのリアクションを予想してたんです。マジで。


「今夜…楽しみにしてるからな…?」

エルムはビキニから手を離し、ゆらりと立ち上がり。朝食の途中なのに…ダイニングを出て行ってしまった。私はまだ、床に座り込んだまま…。


「シャ…シャディ…モニカ…」

「……今夜は気合入れて、お嬢様を磨かないとね~?」

「そうね~?もしかしたら朝まで……かもだしぃ~?」

なんて恐ろしい事を言うんだ。わ、私…エルムに食われる?
食わ……はっっっ!!そうだ、私には頼もしい味方がいるじゃんか!!



 どたたたたた… バタンッ!!!


「カルジェナイト様ーーーっ!!!」

「ぬおっ?」

助けて私のドラゴン様!鼻ちょうちん出してる場合じゃないよっ!!!
彼がいるのは、屋根が全面ガラス窓で日当たりのいい部屋。普段ここを自室として、のんびり過ごしている。

「かくかくしかじかなんです!!!」

「む…?伴侶なのだろう、いいではないか」

「よくありませんが!?寝ないで、おーきーてー!!」

「くぅ…」

寝た!!!!た、頼りになんねえこのトカゲ…!!
あっ、そうだ!!私にはまだ魔法がある!!!



エルムはすでに玄関で私を待っており、黒い笑顔を向けてきた。少し、歩いて…通行人の少ない瞬間を待つ。
よし…目撃者はシャルル卿とシオウのみ。今こそ、エルムに『書き換えるリライト』を…!


「………………」

「んっ?」

エルムが…無言で自分の髪をかき上げ、普段隠れている耳を露わにさせた。
そこには…他者からの魔法を無効化する魔導具、対魔のイヤリングが……



詰んだ。



それからも無言で私達は歩く。昨日は4人でわいわい雑談していたので…騎士2人は首を傾げている…。


学校に着き、シオウが別れ際…「喧嘩でもした?」と私に耳打ちしてきた。
が、私が答えるより先に、エルムが私の腕を掴んでスタスタ歩き出す。

「行ってくる」

「行ってきます…」

「「行ってらっしゃ~い…?」」


ああ…どう足掻こうと刻一刻と、夜に近付くのだ。



教室に着き、クラスメイトと挨拶。今日は少しでもエルムと離れたい…女子が集まっている、前の方の席に合流した。エルムは1番後ろに行った。

「あら?今日はブロウラン様の隣でなくていいんですか?」

アイリスは笑いながらそう言ったが。
私の次の言葉に、全員固まる事になる。


「私…今夜。エルムに…マイクロビキニを着て見せる事になった…」

「「「え……」」」

3人娘は…じわじわと顔を赤く染めて。涼しい顔のエルムをチラッと見て、絶望している私を見て。
ソワソワして…私の背中を軽く叩いて。

「「「…ファイト!」」」

と言いおった。他人事だと思ってぇ…!特にオリビア、小声で「明日結果教えて」じゃないよっ!!


「ちゃんと処理してる…?」
「やっぱり、大人の階段を登ってしまうのですか!?」
「水着見せるだけだもん…」
「いやマイクロってほぼ裸じゃん」
「ブロウラン様も、男性ですし…ね?」
「セレスト明日休みじゃね?」
「初めて、なのよね?」
「やば…」
「…………うぅ…」

最前列で、女子4人並んで座るが…私は机に突っ伏している。てか3人が超小声で好き勝手言ってる。
誰か時間止めてくんねえかな…。


「なあエルム、セレスト具合悪いのか?」

「いや?ただ…」

「ただ?」

「…………さあな?」

「なんだよー」

という会話が後ろから聞こえる。ちくしょう…。


 フッ…


「ん?」

私の前方、教壇に…風が吹いている?クラスメイトも全員気付き、注目が集まる。
これはテレポーターかな…誰かが転移して来る。全く先生め、歩いて来いよな~という空気が教室中に広がったが。


 シュンッ!

「…よし成功。おはよう諸君、遅刻はいないな?」


 …………………。


一瞬の、静寂。現れたのは、予想通りP・C先生…だと思うんだけど。


「じゃあ……ありゃっ」

「「「「きゃああああああぁぁっ!!!」」」」

次に、私達4人の悲鳴が空間を裂いた。だって、だって…!



この人全裸なんだもん!!!もうやだ、今日は厄日だあぁ!!!


「「「「いーやァーーーーーー!!!」」」」
「「変態だーーーっ!!!」」
「何やってんすか先生!!?」
「誰かーーー!服、体操着出して!」
「おい女子遠ざけろ!!」

「まあ落ち着け女子よ」

パニックになる私達!なんで先生は冷静なの、前隠せよ!!!ジャスミンなんかは床に転がっちゃったよ!私はというと…。

「おいこの変態教師!!変なモン見せんなっ!!!」

もうバッチリ見た後だけど、エルムに肩を引かれて…次の瞬間には、彼の腕の中。


「あ…」

その時…ふいに、まだ互いに子供と言える年頃に。何度かこうやって、正面から抱き合った事を思い出した。
ここ数年はそういう触れ合いは無かったけど…。

エルムの長い腕で腰を抱かれ、大きな手が後頭部に添えられ、私は彼の胸板に顔を埋める形になっていた。
エルムは男性だ、と分かっていたはずなのに…今初めて実感した気がする。

今更ながら、私達はもう大人なんだと思い知らされた。



バクバクと、心臓が激しく鼓動する。もう先生の全裸は頭から消滅して、私はただただエルムの温もりを感じていた。

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