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第19話 猫、母、王
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街に向かう馬上ではハクがはしゃいでいた。
彼はシルバの鬣(たてがみ)にしがみついたり私の頭に飛び乗ったりしつつ周囲を眺めている。
『アイリスよ、たった二百年で随分と景色が変わるものであるな!』
『そうだね。でもあっちの山とか変わってないよ。あの山を越えた時は大変だったよね。ドラゴンに出会っちゃって』
『うむ。吾輩の尻尾を焦がした奴だな……おお、なんだなんだ! 大量の人間が来たのである』
『本当だ。多分、北の国との交易品を運んでるんじゃないかな? 人も荷物も凄い量だけど……』
『軽く100人ほどの団体であるな! 商人も昔とは規模が違うのであろうか』
シルバの鬣にしがみ付き尻尾を立てて耳をピコピコ動かす聖獣を見ていると笑ってしまう。
『ん? どうしたのであるか?』
『楽しそうだなって思って。ハクと仲良しのスーザンも居たらもっと楽しいかな?』
『うっ……あの性悪鳥はずっと眠ってるべきなのである! ニャ』
南の聖獣スーザンと西の聖獣ハクはいつも喧嘩していたけど……とても仲が良かった。
他の聖獣達も目覚めているのだろうか。
「お嬢さん、少し良いかな」
「わっ!」
ハクと頭の中で会話したり昔の事を思い出したりでエーゲルさんがいつの間にか並走しているのに全く気が付いていなかった。
「すみません、少しボーッとしてました」
「私こそ急に声をかけて申し訳ないね。街に着いてからの事を話しておきたくて……」
エーゲルさんに言われた内容は微妙に気乗りがしないものだった……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おお、素晴らしいね……正直見違えたよ」
「はあ……そうですか?」
私は髪を編まれてドレスを着せられていた。
ご丁寧に化粧まで施されている。
(王様に会うのにいつもの身なりでは……という理由は判るけど……)
鏡を見せられるとゲンナリしてしまう。
自分で見ても内面との乖離が酷いのだ。
「本当に、エーゲルと違って服の着せ甲斐がある子です。やはり女の子は良いですね。もっと早く言ってくれれば私の物では無く新しい物を用意しましたのに」
私を飾ってくれたエーゲルさんのお母さんが嬉しそうに髪を微調整してくれる。
ドレスは彼女からの借り物で、大きさも殆ど合うのは良かった。
(胸だけは寄せて上げた上に詰め物してやっと着れたけど……ね……ふふ……)
私の密かな敗北感を他所に温かい目で見つめるエーゲルさんのお母さんを見ていると、少し胸が痛くなる。
(お母さんもよく私の髪を編んでくれたな……)
「……表情の忙しい子ね。ほら、陛下にお会いするのだから笑顔でね」
「わぷ……ひゃい」
色々顔に出てしまっていたのか、エーゲルさんのお母さんに鼻を摘まれる。
「では、行こうか。陛下は気さくな方だから楽に構えていれば良いよ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「騎士エーゲル様、賓客アイリス様が参られました」
扉の向こうから応じる声があり、扉が開かれる。
私達は普通使われるという謁見用の広間では無く重要な話し合いをするための別室だという部屋へ通された。
「や、エーゲル。アイリスさん初めまして。2人とも座ってよ」
「はいはい。なんですそれ、美味しそうなお菓子ですね?」
「南の王国から取り寄せた菓子だよ。見た目は真っ黒だし手は汚れるけど中々美味いんだ。ほら」
王様がエーゲルさんの口へお菓子を放り込む。
「んん、甘い。しかしほんのりと香る苦みが良いですね。うちでも作れば女性に人気が出そうです」
モグモグ食べる騎士とそれを嬉しそうに見ていた王様がこちらを見る。
「座ったら?」
「良かったら食べてみてよ、これ」
「あ、はい……」
(……何か私の知っている王様と違うんですけど?)
こうして私の困惑と甘い香りに包まれて王様との謁見が始まった。
彼はシルバの鬣(たてがみ)にしがみついたり私の頭に飛び乗ったりしつつ周囲を眺めている。
『アイリスよ、たった二百年で随分と景色が変わるものであるな!』
『そうだね。でもあっちの山とか変わってないよ。あの山を越えた時は大変だったよね。ドラゴンに出会っちゃって』
『うむ。吾輩の尻尾を焦がした奴だな……おお、なんだなんだ! 大量の人間が来たのである』
『本当だ。多分、北の国との交易品を運んでるんじゃないかな? 人も荷物も凄い量だけど……』
『軽く100人ほどの団体であるな! 商人も昔とは規模が違うのであろうか』
シルバの鬣にしがみ付き尻尾を立てて耳をピコピコ動かす聖獣を見ていると笑ってしまう。
『ん? どうしたのであるか?』
『楽しそうだなって思って。ハクと仲良しのスーザンも居たらもっと楽しいかな?』
『うっ……あの性悪鳥はずっと眠ってるべきなのである! ニャ』
南の聖獣スーザンと西の聖獣ハクはいつも喧嘩していたけど……とても仲が良かった。
他の聖獣達も目覚めているのだろうか。
「お嬢さん、少し良いかな」
「わっ!」
ハクと頭の中で会話したり昔の事を思い出したりでエーゲルさんがいつの間にか並走しているのに全く気が付いていなかった。
「すみません、少しボーッとしてました」
「私こそ急に声をかけて申し訳ないね。街に着いてからの事を話しておきたくて……」
エーゲルさんに言われた内容は微妙に気乗りがしないものだった……。
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「おお、素晴らしいね……正直見違えたよ」
「はあ……そうですか?」
私は髪を編まれてドレスを着せられていた。
ご丁寧に化粧まで施されている。
(王様に会うのにいつもの身なりでは……という理由は判るけど……)
鏡を見せられるとゲンナリしてしまう。
自分で見ても内面との乖離が酷いのだ。
「本当に、エーゲルと違って服の着せ甲斐がある子です。やはり女の子は良いですね。もっと早く言ってくれれば私の物では無く新しい物を用意しましたのに」
私を飾ってくれたエーゲルさんのお母さんが嬉しそうに髪を微調整してくれる。
ドレスは彼女からの借り物で、大きさも殆ど合うのは良かった。
(胸だけは寄せて上げた上に詰め物してやっと着れたけど……ね……ふふ……)
私の密かな敗北感を他所に温かい目で見つめるエーゲルさんのお母さんを見ていると、少し胸が痛くなる。
(お母さんもよく私の髪を編んでくれたな……)
「……表情の忙しい子ね。ほら、陛下にお会いするのだから笑顔でね」
「わぷ……ひゃい」
色々顔に出てしまっていたのか、エーゲルさんのお母さんに鼻を摘まれる。
「では、行こうか。陛下は気さくな方だから楽に構えていれば良いよ」
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「騎士エーゲル様、賓客アイリス様が参られました」
扉の向こうから応じる声があり、扉が開かれる。
私達は普通使われるという謁見用の広間では無く重要な話し合いをするための別室だという部屋へ通された。
「や、エーゲル。アイリスさん初めまして。2人とも座ってよ」
「はいはい。なんですそれ、美味しそうなお菓子ですね?」
「南の王国から取り寄せた菓子だよ。見た目は真っ黒だし手は汚れるけど中々美味いんだ。ほら」
王様がエーゲルさんの口へお菓子を放り込む。
「んん、甘い。しかしほんのりと香る苦みが良いですね。うちでも作れば女性に人気が出そうです」
モグモグ食べる騎士とそれを嬉しそうに見ていた王様がこちらを見る。
「座ったら?」
「良かったら食べてみてよ、これ」
「あ、はい……」
(……何か私の知っている王様と違うんですけど?)
こうして私の困惑と甘い香りに包まれて王様との謁見が始まった。
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