公爵令嬢に婚約破棄されましたが『歌』とチートスキルで無双して見返してやりたいと思います!

花月風流

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鍛冶の国、草原の国

第12話 パン、美味しいんです

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僕は大通りを歩く。歌う場所を決めるためだ。
 噴水のある広場も良いけど、何か違う。ここじゃ無いような気がする。
 ここは候補にして、他も見てみよう。旅人相手じゃ無くて、この街の人に聴いてもらえる場所の方が……

 カーン カーン

 金属を叩く音がする。
 職人さんが仕事をしているのかも知れない。
 僕は音のする方に歩き出す。

 大通りから山へ向かう道では無い横道へ入り進む。旅人の姿はどんどん減って行く。
 道を突き当たったので曲がった瞬間、息を飲んだ。
 大きな広場を囲むように職人たちの工房が並んでいる。通りに面した鍛冶屋とは規模が違う。
 まるで1つの街の中に別の町が入り込んだような……いや、この生命感はまるで1体の巨大な生き物だ。

「……凄い熱気だ」

 僕は誘われるように歩き、広場の真ん中に立つ。歌うなら、賭けるならここが良い。自然とそう思った。

(風向きも丁度良い場所で良かった)

「すーっ……はーっ……」

 聴こえて来る槌の音、交わされる怒号のような言葉。

「~~~~♪」

[神業・魔歌を使用します]

 僕が歌うのは[歌劇・運輸王リベラの回想]の劇中歌。
 貧しい暮らしを続けていたリベラとその妹ラナが、はじめての仕事の報酬でパンを買い2人で分け合う場面で歌われる曲だった。

「~~♪」

 今回[具現]はきっと必要ない。
 僕はパンから受けた美味しさの衝撃と、デューイさんから貰った優しさを……リベラとラナの喜びに重ねて歌うだけで良い。

「~~♪」

 歌い終わると、鍛冶屋の集まる広場は静かになっていた。

パチパチパチパチ

「よぉ、坊主! 良い歌だったな!」
「聴いてるだけでよぉ、この、胸のこの辺がぎゅーっとなる声だったぜ」
「お前がそんな繊細なガラかよ!」

 鍛冶屋達から笑いが起きる。
 その時、風に乗ってパンの焼ける良い匂いが流れてくる。
 どうしてこの匂いは……こんなに人を惹きつけるんだろう。僕までまた食べたくなる。
 [具現]なんて必要ない、本物の魔法だな。

「おい、良い匂いじゃねぇか」
「パンっていうと……大通りのサムの宿屋からか? そんなわけねぇな。あそこは酒以外食えたもんじゃねぇ」
「違いねぇ」

 また笑いが起こる。

「この匂いは、デューイさんのパン屋です! 僕もさっき食べましたが味は最高です。 しかも今なら焼き立てが並んでいますよ!」

 ここぞとばかりに声を張る。

「ああ、路地の店か? 何度か前を通ったが買った事は無かったな」
「そもそも火ばかり使ってるからな。喉が渇きそうなパンは避けていたが……あの歌を聴いてこの匂いじゃたまらんな」

 職人が1人走り出す。

「悪ぃな! 早いもん勝ちだ!」
「あ、てめえふざけんな! おい、この金で買えるだけ買って来い!」
「あいよ! 待てこらー!」
「うちも負けるな! 走れ!」
「任せろ……足なら負けん」

 1人2人駆け出すと、もう止まらなかった。
 買い出し担当にされた職人達が我先にと走って行く。

 これできっと大丈夫だ。
 デューイさんのパンは美味しい。一度でも食べて貰えれば常連さんになってくれる筈だ。

 僕は安心して一息吐く。

 ポン

「ん?」

 肩を叩かれて振り向くと、街の警備係らしい人が立っていた。

「さっき歌を歌っていたのは君だね?」

「えっと、あー、はい」

「素直でよろしい。さ、そのまま素直についてきなさい」

 僕は何故か警備の人に引っ張られて
 どこかに連れていかれるのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

[歌劇・運輸王リベラの回想]
郵便と運輸の王と呼ばれたリベラの自伝が元になり作られた歌劇。
貧しい家に生まれたリベラ。妹が生まれてすぐに父を亡くし、女手ひとつで育ててくれた母もリベラと幼い妹を残して亡くなってしまう。
蓄えは殆ど無く、仕事を探すリベラも子供だからと雇って貰えない。
身寄りの無い2人が生きていくため、リベラは考え「街と街を繋ぐ」事を思いつく。
街を周り仕事を求めるリベラは身なりの良い老女から隣町まで手紙を届ける仕事を貰う。
リベラは仕事をやり遂げ、初めて手にした報酬で小さなパンとミルクを買い、妹と分け合う。
妹の喜ぶ顔を見たリベラは仕事に励む。
実は小さな商会を営んでいた老女からの依頼を含め、リベラは手を抜かず仕事を続けた。
盗賊に囲まれた時も、崖崩れに荷車を壊されても、リベラは諦めず努力を続けた。
手紙や荷駄に留まらず人まで運んでしまう仕事ぶり。
努力が実り、大きな商社を持つまでになったリベラは人々から「運輸王」と呼ばれるようになるのであった。
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