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読み切り 自分の足で世界を回るロイのお話
海上のハーモニー
しおりを挟む「ねえ、エルバン?」
「…………」
「ねえ、ロイ君?」
「…………はい」
「これって、遭難してるよね?」
「……ああ」
「そう……思います」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[一昨日]
「登り……道になると……結構……辛い! ……ふう……歩き旅で少しは鍛えられたと思ったなのにぁ」
額の汗を拭って息を吐く。
僕は籠一杯の野菜を抱えて岩山の道を登っている。
途中で出会った人達と挨拶を交わしていたら思ったより時間がかかってしまった。
「お久しぶりです、エルバンさん!」
「ロイ……! 元気にしていたか?」
「はい、お陰様で。これ、良かったら半分どうぞ」
「美味そうな野菜だな。ありがとう。……野菜の行商でも始めたのか?」
野菜を手に取り首を捻っている。
「それも楽しそうですけど、届け物です。ここに来る途中で以前縁があった村に寄ったんです。鍛冶と草原の国に行くと言ったら、野菜を渡されて……皆で食べて欲しいって。なので、半分ずつ届けようと思って」
「そうか。有り難いな……丁度草原の国行きの荷を出す所だから、半分はリチャード宛に届けるとしよう」
「助かります。実は……結構重くて……」
苦笑する僕にエルバンさんが呆れる。
「鍛え方が足りないな? お前もリチャードも筋肉をつけた方が良いぞ」
エルバンさんの腕が盛り上がる。
……僕の倍はある……いや、3倍かな。
「ふむ。ロイは暫くここに居られるのか?」
「はい、予定の無い旅人の身ですから。自分の足で世界を旅しようと思って……まずここに来たかったんです」
「そうか」
エルバンさんは微笑みながら僕の頭に手を乗せた。
「ならば、今後の旅を無事に過ごせるように少し鍛えてやろう。リチャードと一緒にな」
「え……あの……ありがとうございます」
笑顔が……怖いです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
[昨日]
僕が来たとエルバンさんが連絡をした為、リチャードさんが会いに来てくれた。
……いや、来てしまった。
「やあロイ君、オフェリアで別れて以来だね。元気にしてたかい?」
「リチャードさん、お久しぶりです。……すみません……僕のせいです」
「ん? なに、どうしたの?」
リチャードさんの背後に大きな影が忍び寄る。
罠です! と叫ぶべきだったのかも知れない。
でもここは鍛冶の国。エルバンさんの領域だ。
ここに来てしまった時点で……蜘蛛の巣に絡めとられたようなもので……
ガッ!
「ぐぇ? 何、なになになに?」
「良く来たな、リチャード……一緒に身体を鍛えよう」
「は? 何言ってるのさ。僕はロイ君に会いに……っ! 罠か……汚いぞエルバン!」
「俺はお前達の健康を願っている。友には長生きして欲しいからな……」
「違う! 君はただの筋肉信者だ! ぐぁー! 離せー!」
「すみませんリチャードさん……」
こうして僕達は馬車に乗せられ海辺まで連行された。
「海だね……」
「はい、海ですね……」
僕とリチャードさんは夕陽の映る海面を見ていた。
「さて、行くぞ」
大きな荷物を背負ったエルバンさんが海岸へと歩いて行く。
馬車は街へ帰ってしまった。
……逃げ場は無いようです。
「やりましょう、リチャードさん。エルバンさんは僕達の事を思って連れてきてくれたんです!」
「……はぁ。君は前向きだね。これじゃ僕の方が年下みたいじゃないか……。身長のことじゃないよ?」
僕達もエルバンさんを追って海岸へと降りる。
そこにあったのは手漕ぎで乗れる舟だった。
「さて、2人にはこれを漕いで貰う。舟を漕ぐ為には全身の筋肉を使う。良い運動になるんだ」
なるほど。幼年学校の授業みたいに走らされるのかと思ったけど……これなら少し楽しそうだ。
僕達は舟に乗り込み、エルバンさんにお手本を見せてもらう。
僕とリチャードさんは2人がかりで舟を漕ぐ。
最初は全く進まなかったけど、コツを掴めてからは楽しくなって来た。
その後日が沈み海に月が映った頃、エルバンさんが荷物を開けた。
中から出て来たのは樽が2つと箱だった。
「……月を見ながら食事をするのも悪くないだろう?」
「海の上でですか! 凄い……」
僕にとっては初めての経験だし、それがこのお2人と一緒なのであれば……嬉しく無いわけがない。
降り注ぐような月光の中、僕達はカップを打ち合わせる。
「乾杯!」
中身を飲んだ僕はカップを落としそうになる。
「ゲホッ! これ、お酒ですか!」
「折角の再会だからな……お前が訪ねてきたらここでこうして酒を飲みたかったんだ」
「元はうちで作った酒だからね、味は保証するよ」
確かに、驚きはしたけど飲みやすいお酒だった。……何より気持ちが嬉しくて、中身を飲み干す。
僕達はそのまま……月を見ながら語り合った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そして現在へ。
どうやら僕達は酒盛りをしたまま寝てしまったらしく……目が覚めた時には陸が遠くなっていた。
櫂で漕げば戻れそうな距離ではあるけど、その櫂は寝ている間に流されたようだった。
「泳げば……なんとか戻れるでしょうか?」
僕の言葉にリチャードさんが首を振る。
「この辺さ、たまに肉食の魚が来るから泳ぐのはお勧めしないよ?」
「済まん……俺が酒なんかを持ち込んだせいだ」
エルバンさんが肩を落としている。
(……僕の為に用意してくれたのに……辛い顔をして欲しくない)
「~~♪」
僕は大声で歌う。
歌う曲は[火と土の恵み]……鍛冶の国の国歌だ。
聖オフェリア国で大使館として使われているあの館で誰かが歌っているのを一度だけ聴いた。
「~~♪」
「ロイ、どうしたんだ?」
突然歌い出した僕にエルバンさんが驚いている。
「歌を……岸に届けられたら、誰かが気付いてくれるかも知れないから……僕が歌います!」
僕にだって解ってる。力を無くした僕が歌った所で奇跡を起こせる訳が無い事を。
それでも……友達だと思い、友と呼んでくれる人を落ち込ませたまま何もできないのは嫌だ。
力なんて無くても、心は通じるはずだから。
「~~♪」
歌う僕の肩に手が置かれる。
「お前に聴かせた奴はあまり良い手本じゃ無かったようだな……こう歌うんだ」
「~~♪」
僕の声に、深みのある低音が重なる。
「……やれやれ。歌は優雅さも大事だと思うんだけどな」
「~~♪」
僕達の声に澄んだ高音が重なる。
「~~♪」
3人の声が重なり、広がって行く。
水面が……揺らぐ……
舟が……揺れる……
「いたいた! 帰って来ないと思ったら何やってるんですか? 皆で歌なんて歌って」
声に僕達が振り返ると、僕達が乗る舟の横に船が寄って来ていた。
(そうか、さっきの揺れは船が近付いて来たから……)
「た……助かったぁ!」
リチャードさんがへたり込む。
エルバンさんは安堵の息を吐いて、僕の背中を叩いた。
こうして……僕達は船に移り、陸への生還を果たす事になる。
陸へと向かう船上は、皆の合唱に包まれていた。
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