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第三章 第五部 王宮から吹く風
12 発表まで
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アーダが扉を開け、奥様とベルを室内に誘う。
室内には従者2人の他にダル、ミーヤ、リル、船長のディレンもいて、みなが心配そうな顔をしている。
アランが、いつもの冷静さを失ったように、ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
ベルが黙ったまま奥様の手を取り、しずしずとテーブルに近寄り、奥様をいつもの席に座らせて、その横に自らも腰をかけた。
「ベル、大丈夫?」
アーダが優しくベルの肩に手をかけ、そして奥様の方に目をやる。
「あ、ありがとう、大丈夫です」
やっとのようにそれだけを言う。
「おい、なんかひどい目に合わされてないのか? 一体何があったんだ」
アランがベルの言葉を待ちかねるようにそう聞いた。
「うん、大丈夫、丁寧に扱ってくれて、ちゃんと食事も出してくれたから」
侍女の言葉ではなく、自分の言葉で妹が兄にそう言う。
「奥様は大丈夫なんだな? 嫌がるようなことはされてないのか?」
「うん、それも大丈夫。ちゃんと食事の時も衝立出してくれたし、すごく気を遣ってくれてた」
「そうか」
後は何を聞いて何を話せばいいのか。
「…………」
ルークが仮面に隠すように何かを小さく言った。
「え、なんだ?」
アランがルークの仮面に耳を寄せ、何を言っているかを聞く。
初めて見るルークの話す場面に、アーダが少しばかり驚いたようだ。
少しは話せると聞いてはいたが、アーダの前ではそんな素振りを見せたことがなかった。それでアーダの中ではルークは話せぬ人になっていたからだ。
アランは小さく頷くと、
「それで、結局王宮で何があったんだ? こっちにはまだなんも届いてねえんだよ。もしかして、王様になんかあったのか?」
ベルは何をどう話していいのか少し考えていたが、セルマが「もう外に発表してもよい」と言っていたことから、思い切って話すことにした。
「あの、国王様が皇太子さまにご譲位なさったそうで、皇太子さまが新国王になられました」
「ええっ!」
アーダが大きな声で驚く。
アランたちは言葉もなくじっとしている。
『もしかしたら、王様ってのになんかあったのかも知れねえな。たとえば、王位を追われたとか』
二人の行方を心配して話していた時、ふっとトーヤがそんなことも可能性の一つとして口にしていた。
それだけにアーダほど驚くことはなかったが、それにしても本当にそうなったのか、という驚きはある。
「ベル、それは、あの、本当に?」
「ええ、そうおっしゃっていらっしゃいました。そして新国王という方が、奥様と私を巻き込んだことを申し訳ないと、お部屋にいらっしゃって、お詫びを言ってくださいました」
「そんな、そんなことが……」
アーダが思わず床の上にへたりこむ。
「アーダ!」
ベルが驚いてアーダの手を取るが、
「いえ、あの、いえ、大丈夫です。ちょっと、なんでしょう、体に力が入らなくなってしまって」
そう言って首を振るだけだ。
アランが手を貸してアーダを椅子に座らせてやる。
「アーダさんが知らないってことは、まだ宮からの通達はないんですね」
「ええ、私は何も聞いておりません」
アーダがそう言い、ミーヤも、
「私も何も」
と、困ったように言い、リルも黙って頷いた。
「ただ、さきほど控室に王宮衛士の方がいらっしゃって、エリス様のお迎えに来るように、連れて行くと言われ、付いて行った先が王宮で驚きました」
息が早いアーダに、ベルが思い出したように水を入れたカップを渡す。
「ありがとうございます」
アーダは水をゆっくりと飲み干し、やっと少し落ち着いたようだった。
「それで、なんで王宮へ行くってことになったんだ? 俺はダルさんとルギ隊長のとこにいたんでそこから動けなくなってたんだが、ルークが、ミーヤさんに助けてもらって神殿に様子を見に行ったら誰もいなくなってたらしい」
「うん……」
ベルが、言っていいのかどうかという顔になる。
アランたちはいいだろう。だが、アーダにも話していいのかどうか分からない。
「そこは、まだちょっと話せないかも。言うなと言われてるわけじゃないけど、なんとなくそんな気がする」
「そうか」
アランにもベルが何を気にしているのかが分かった。
もしかして、そのことを聞いてしまったら侍女たちの立場が悪くなるかも知れない、そう言いたいのだろう。
「なんにしても、宮から何か発表があるまで、何も言わない方がいいかも知れないね」
ダルもそう察したように言う。
「はい」
「とりあえず、奥様と一緒にちょっと休んでこい」
「うん、そうする」
ベルは奥様に何か囁くと、手を引いて奥様の寝室へと連れていった。
「アーダさんもお疲れさまでした。少し部屋に戻って休んだらどうです」
「いえ!」
アーダが顔色を変えて慌てたように言う。
「あの、あの、もしもご迷惑でなければ、私もこのままここでいさせてください! 何がなんだか分からなくて、一人で部屋に戻るのが不安なんです……」
正直、色々と話をしたかったのでアーダには部屋へ戻ってほしかったのだが、
「私もリルの様子を見に行っていたのですが、同じ気持ちでここに来たんです」
「ええ、二人だけでは不安で」
ミーヤとリルがそう言い、アーダが残ることに賛成した。
その言葉にアーダが少しだけホッとした顔になった。
室内には従者2人の他にダル、ミーヤ、リル、船長のディレンもいて、みなが心配そうな顔をしている。
アランが、いつもの冷静さを失ったように、ガタリと大きな音を立てて椅子から立ち上がった。
ベルが黙ったまま奥様の手を取り、しずしずとテーブルに近寄り、奥様をいつもの席に座らせて、その横に自らも腰をかけた。
「ベル、大丈夫?」
アーダが優しくベルの肩に手をかけ、そして奥様の方に目をやる。
「あ、ありがとう、大丈夫です」
やっとのようにそれだけを言う。
「おい、なんかひどい目に合わされてないのか? 一体何があったんだ」
アランがベルの言葉を待ちかねるようにそう聞いた。
「うん、大丈夫、丁寧に扱ってくれて、ちゃんと食事も出してくれたから」
侍女の言葉ではなく、自分の言葉で妹が兄にそう言う。
「奥様は大丈夫なんだな? 嫌がるようなことはされてないのか?」
「うん、それも大丈夫。ちゃんと食事の時も衝立出してくれたし、すごく気を遣ってくれてた」
「そうか」
後は何を聞いて何を話せばいいのか。
「…………」
ルークが仮面に隠すように何かを小さく言った。
「え、なんだ?」
アランがルークの仮面に耳を寄せ、何を言っているかを聞く。
初めて見るルークの話す場面に、アーダが少しばかり驚いたようだ。
少しは話せると聞いてはいたが、アーダの前ではそんな素振りを見せたことがなかった。それでアーダの中ではルークは話せぬ人になっていたからだ。
アランは小さく頷くと、
「それで、結局王宮で何があったんだ? こっちにはまだなんも届いてねえんだよ。もしかして、王様になんかあったのか?」
ベルは何をどう話していいのか少し考えていたが、セルマが「もう外に発表してもよい」と言っていたことから、思い切って話すことにした。
「あの、国王様が皇太子さまにご譲位なさったそうで、皇太子さまが新国王になられました」
「ええっ!」
アーダが大きな声で驚く。
アランたちは言葉もなくじっとしている。
『もしかしたら、王様ってのになんかあったのかも知れねえな。たとえば、王位を追われたとか』
二人の行方を心配して話していた時、ふっとトーヤがそんなことも可能性の一つとして口にしていた。
それだけにアーダほど驚くことはなかったが、それにしても本当にそうなったのか、という驚きはある。
「ベル、それは、あの、本当に?」
「ええ、そうおっしゃっていらっしゃいました。そして新国王という方が、奥様と私を巻き込んだことを申し訳ないと、お部屋にいらっしゃって、お詫びを言ってくださいました」
「そんな、そんなことが……」
アーダが思わず床の上にへたりこむ。
「アーダ!」
ベルが驚いてアーダの手を取るが、
「いえ、あの、いえ、大丈夫です。ちょっと、なんでしょう、体に力が入らなくなってしまって」
そう言って首を振るだけだ。
アランが手を貸してアーダを椅子に座らせてやる。
「アーダさんが知らないってことは、まだ宮からの通達はないんですね」
「ええ、私は何も聞いておりません」
アーダがそう言い、ミーヤも、
「私も何も」
と、困ったように言い、リルも黙って頷いた。
「ただ、さきほど控室に王宮衛士の方がいらっしゃって、エリス様のお迎えに来るように、連れて行くと言われ、付いて行った先が王宮で驚きました」
息が早いアーダに、ベルが思い出したように水を入れたカップを渡す。
「ありがとうございます」
アーダは水をゆっくりと飲み干し、やっと少し落ち着いたようだった。
「それで、なんで王宮へ行くってことになったんだ? 俺はダルさんとルギ隊長のとこにいたんでそこから動けなくなってたんだが、ルークが、ミーヤさんに助けてもらって神殿に様子を見に行ったら誰もいなくなってたらしい」
「うん……」
ベルが、言っていいのかどうかという顔になる。
アランたちはいいだろう。だが、アーダにも話していいのかどうか分からない。
「そこは、まだちょっと話せないかも。言うなと言われてるわけじゃないけど、なんとなくそんな気がする」
「そうか」
アランにもベルが何を気にしているのかが分かった。
もしかして、そのことを聞いてしまったら侍女たちの立場が悪くなるかも知れない、そう言いたいのだろう。
「なんにしても、宮から何か発表があるまで、何も言わない方がいいかも知れないね」
ダルもそう察したように言う。
「はい」
「とりあえず、奥様と一緒にちょっと休んでこい」
「うん、そうする」
ベルは奥様に何か囁くと、手を引いて奥様の寝室へと連れていった。
「アーダさんもお疲れさまでした。少し部屋に戻って休んだらどうです」
「いえ!」
アーダが顔色を変えて慌てたように言う。
「あの、あの、もしもご迷惑でなければ、私もこのままここでいさせてください! 何がなんだか分からなくて、一人で部屋に戻るのが不安なんです……」
正直、色々と話をしたかったのでアーダには部屋へ戻ってほしかったのだが、
「私もリルの様子を見に行っていたのですが、同じ気持ちでここに来たんです」
「ええ、二人だけでは不安で」
ミーヤとリルがそう言い、アーダが残ることに賛成した。
その言葉にアーダが少しだけホッとした顔になった。
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