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第一章 第一部 嵐の前触れ
10 取次役の不審
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「ええ、よく覚えております」
もう一度マユリアが心の内を見せぬ口調でそう言った。
「それで、セルマがどうしました」
ルギに視線を送り続きを促す。
「はい。そうして食事係を離れて以降、セルマは一度も食事係関係の場所を訪ねたことはなかったらしいのですが、それがその日、キリエ様が体調を崩された日に侍女たちの控室を訪れ、世間話をして行ったそうです」
「それが何か不審なのですか?」
「はい」
ルギはまた言いにくそうに少し間を置いて続ける。
「侍女たちの話では、セルマは突然やってきて特に中身のない話をしていったということです」
「それでどうしました」
「はい、そのことがおかしい、侍女たちはそう感じたと言うことです」
「意味が分かりません。自分が元いた部署を訪ねて昔なじみと話をする、それがそんなにおかしなことなのですか?」
「はい」
ルギが首肯する。
「セルマはそのようなことをする人間ではない、そのことから皆が不審に感じ、その日の出来事であったとよく記憶をしておりました」
「そのようなこと?」
「はい、ふらりと来て同僚たちと意味なく話をするということです」
「そうですか」
「はい。それで侍女たちは最初、何か叱られるのではないかとひどく恐れてセルマを迎えたところ、ごく普通のこと、人の体を作るのは口からとる食べ物である、これからもしっかり務めるように、それだけ言うと部屋から出ていったということです」
「特におかしいところはないようですが」
マユリアの疑問にルギがまた軽く頭を下げる。
「相手がセルマでなければごく普通の出来事であったでしょう。ですが、さきほどキリエ様もおっしゃっていたように、セルマは自分にも他人にも厳しい。叱責でもなければ来るはずがない、侍女たちはみなそう思ったと」
「そうですか」
マユリアが少しさびしそうにそう言った。
「そしてその夜、キリエ様がご不調になり、また侍女たちは恐れたようです。前日にあのような話をして帰ったばかり、キリエ様のご不調を食事係の不備である、そう言って叱責されるのではないか、場合によっては処罰があるのではないか、そう思って待ち構えていたが、来なかったのでホッとしたと」
「そうですか」
セルマがいかに侍女たちに恐れられているかが分かるエピソードであった。
「それでどうしました」
「はい、そのことから、セルマがキリエ様の口に入る物に何かを入れたのではないか、そのような疑いが」
「お待ちなさい!」
神官長がルギの言葉を止める。
「さっきから聞いていればセルマの人となりを貶めるような発言を続け、それだけではなくまるでセルマがキリエ殿に毒を盛ったかのようなその言いよう! 一体どのような目的でそのようなことを続けるのです!」
「私は単に調べて分かったことを述べているだけです。ご意見があるのなら、全部終わった後で承ります」
ルギはピシャリとそう言うと話を続ける。
「ですが、その時に何か不調になる物を口にされたにしてはあまりにも長い。一度口にしただけでそこまで継続して不調が続くような薬物か何かがあるものかと調べましたが心当たりがございません。もしも、もっと強い毒物であったなら、キリエ様は口にされた途端に命を落とされるか、もしくはもっと重篤になられていたはずです。かといってその程度の不調を起こす薬物なら、一両日もすれば体外に排出され健康を取り戻すはず。そこからいつの間にかキリエ様の部屋に置かれていたピンクの花が怪しいのではないか、そのように話が進みました」
「ピンクの花?」
「はい。キリエ様が意識が朦朧となさっている間に誰かが置いていった鉢花がございました。その花が少しばかり怪しい、そのような話に」
「わたくしも見た覚えがあります」
マユリアが記憶をたどる。
「わたくしがキリエを見舞った折、確かにそのような花を見た記憶があります。ピンク色の小さな花がたくさんついていて、そして良い香りがしていました」
「はい、おそれくはご覧になったその花かと」
ルギがそう言う。
「わたくしはキリエが寝付いたと聞いてすぐに見舞いにまいりました。まだ午前の中程の時刻だったと記憶しています。ということは、その花は前夜から早朝にかけての間に届けられた、そういうことになりますね?」
「はい、おっしゃる通りです。そのような時刻にわざわざ見舞いの品を届ける者があるとは思えません。ですからやはり、あの花はそのような目的で届けられていたと見るのが妥当かと」
「わたくしもあの花の香りを嗅ぎましたが、何も変化はありませんでしたよ」
「ええ、そのぐらいの効能だそうです。あの青い香炉にくべられていた物もやはりその程度、短時間では特に何も影響はないものの、不調の者にはその状態を持続させることができるようです。もしくは健康な者で長時間吸っていると次第に体調を崩していくとか」
「一体誰がそのようなものを」
マユリアが力なく首を振った。
「そのピンクの花が、エリス様がお見舞いに来られた後で香りのない、毒のない物とすり替えられておりました。そこからも何か事情を知っているのではと話を聞きに行ったところ、逃げられました」
もう一度マユリアが心の内を見せぬ口調でそう言った。
「それで、セルマがどうしました」
ルギに視線を送り続きを促す。
「はい。そうして食事係を離れて以降、セルマは一度も食事係関係の場所を訪ねたことはなかったらしいのですが、それがその日、キリエ様が体調を崩された日に侍女たちの控室を訪れ、世間話をして行ったそうです」
「それが何か不審なのですか?」
「はい」
ルギはまた言いにくそうに少し間を置いて続ける。
「侍女たちの話では、セルマは突然やってきて特に中身のない話をしていったということです」
「それでどうしました」
「はい、そのことがおかしい、侍女たちはそう感じたと言うことです」
「意味が分かりません。自分が元いた部署を訪ねて昔なじみと話をする、それがそんなにおかしなことなのですか?」
「はい」
ルギが首肯する。
「セルマはそのようなことをする人間ではない、そのことから皆が不審に感じ、その日の出来事であったとよく記憶をしておりました」
「そのようなこと?」
「はい、ふらりと来て同僚たちと意味なく話をするということです」
「そうですか」
「はい。それで侍女たちは最初、何か叱られるのではないかとひどく恐れてセルマを迎えたところ、ごく普通のこと、人の体を作るのは口からとる食べ物である、これからもしっかり務めるように、それだけ言うと部屋から出ていったということです」
「特におかしいところはないようですが」
マユリアの疑問にルギがまた軽く頭を下げる。
「相手がセルマでなければごく普通の出来事であったでしょう。ですが、さきほどキリエ様もおっしゃっていたように、セルマは自分にも他人にも厳しい。叱責でもなければ来るはずがない、侍女たちはみなそう思ったと」
「そうですか」
マユリアが少しさびしそうにそう言った。
「そしてその夜、キリエ様がご不調になり、また侍女たちは恐れたようです。前日にあのような話をして帰ったばかり、キリエ様のご不調を食事係の不備である、そう言って叱責されるのではないか、場合によっては処罰があるのではないか、そう思って待ち構えていたが、来なかったのでホッとしたと」
「そうですか」
セルマがいかに侍女たちに恐れられているかが分かるエピソードであった。
「それでどうしました」
「はい、そのことから、セルマがキリエ様の口に入る物に何かを入れたのではないか、そのような疑いが」
「お待ちなさい!」
神官長がルギの言葉を止める。
「さっきから聞いていればセルマの人となりを貶めるような発言を続け、それだけではなくまるでセルマがキリエ殿に毒を盛ったかのようなその言いよう! 一体どのような目的でそのようなことを続けるのです!」
「私は単に調べて分かったことを述べているだけです。ご意見があるのなら、全部終わった後で承ります」
ルギはピシャリとそう言うと話を続ける。
「ですが、その時に何か不調になる物を口にされたにしてはあまりにも長い。一度口にしただけでそこまで継続して不調が続くような薬物か何かがあるものかと調べましたが心当たりがございません。もしも、もっと強い毒物であったなら、キリエ様は口にされた途端に命を落とされるか、もしくはもっと重篤になられていたはずです。かといってその程度の不調を起こす薬物なら、一両日もすれば体外に排出され健康を取り戻すはず。そこからいつの間にかキリエ様の部屋に置かれていたピンクの花が怪しいのではないか、そのように話が進みました」
「ピンクの花?」
「はい。キリエ様が意識が朦朧となさっている間に誰かが置いていった鉢花がございました。その花が少しばかり怪しい、そのような話に」
「わたくしも見た覚えがあります」
マユリアが記憶をたどる。
「わたくしがキリエを見舞った折、確かにそのような花を見た記憶があります。ピンク色の小さな花がたくさんついていて、そして良い香りがしていました」
「はい、おそれくはご覧になったその花かと」
ルギがそう言う。
「わたくしはキリエが寝付いたと聞いてすぐに見舞いにまいりました。まだ午前の中程の時刻だったと記憶しています。ということは、その花は前夜から早朝にかけての間に届けられた、そういうことになりますね?」
「はい、おっしゃる通りです。そのような時刻にわざわざ見舞いの品を届ける者があるとは思えません。ですからやはり、あの花はそのような目的で届けられていたと見るのが妥当かと」
「わたくしもあの花の香りを嗅ぎましたが、何も変化はありませんでしたよ」
「ええ、そのぐらいの効能だそうです。あの青い香炉にくべられていた物もやはりその程度、短時間では特に何も影響はないものの、不調の者にはその状態を持続させることができるようです。もしくは健康な者で長時間吸っていると次第に体調を崩していくとか」
「一体誰がそのようなものを」
マユリアが力なく首を振った。
「そのピンクの花が、エリス様がお見舞いに来られた後で香りのない、毒のない物とすり替えられておりました。そこからも何か事情を知っているのではと話を聞きに行ったところ、逃げられました」
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