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第二章 第一部 吹き返す風
21 捕まる
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「おれは?」
「もちろんみんな一緒だ。ラデルさん」
「なんでしょう」
ベルと一緒にラデルも部屋に入ってきていた。
「ここ、任せて申し訳ないですが、俺たちの痕跡を消しておいてください。それから、もしも弟子のことを誰かが聞きにきたら、お使いか何かに出てそのまま戻らないことに」
「分かりました」
「あなたは俺たちのことを何も知らない、アベルと名乗ったガキも本当の身元は知らない。それで通してください」
「はい、その振りをします。ですが、必要なら、大丈夫そうならまた戻ってきてください。連絡も待ってます」
「分かりました。ありがとうございます」
トーヤがベッドから立ち上がって頭を下げて礼を言う。
「あなたには本当に世話になって、そして迷惑をかけました」
「いえ、私も自分のことと同じです」
「それは」
トーヤの目とラデルの目が合う。
「それに、今ではベルさんは私の弟子ですからね。だから弟子のことをよろしく頼みます」
「ありがとうございます、もちろんです」
トーヤがラデルと話している間、珍しいことにアランが座ったままで動かない。
いつもなら打てば響くようなアランが、何を考えているのか動く気配がないのだ。
「おい、アラン、何してんだ」
「俺は残るよ」
「は?」
「といってもここじゃない、リュセルスのどっかふらふらしてる」
「おまえ、何言ってんだ」
「神官長が動かすのは神官だけじゃねえだろ、きっと必要なら衛士やら憲兵も動かす」
「そりゃまあ……」
「その時に誰も見つからなかったらどこどこまでも探すかも知れねえ。もしかしたらあそこにも来るかも知れねえ」
ルギがあそこを知らせない保証は確かにない。
まずないとは思うが、絶対ではない。
何があろうが、あそこは最後の砦として知られないようにしなければならない。
「そんで、どうする気だ」
「適当に逃げ回ってどこかで捕まる」
「兄貴、何言ってんだよ!」
荷造りをしていたベルが驚いて手を止める。
「なんでそんなことすんだよ!」
「俺が捕まって適当にかわすためだよ。シャンタルが捕まるわけにはいかねえだろうが」
「いや、だって、そんな」
「アランの言う通りだ」
トーヤが言うのにベルが驚いて振り返る。
「アラン、すまんな」
「いや、その代わり後ではずんでくれよな」
「もちろんだ」
「何言ってんだよトーヤまで!!」
ベルが手に持っていた荷物を落としてトーヤに詰め寄る。
「兄貴だけ残してくなんて、なんでそんなことしなくちゃいけねえんだよ!」
「アランが言ってた通りだ。俺もその案に乗る」
「ひでえ!」
「いいか、よく聞け」
トーヤがベルの両肩に手を置いてしっかりと顔を見る。
「おまえの兄貴は本当に優秀だ、できるやつだ。そいつがそう言う、そして俺もそれが最善だと思った。だからこれが一番いい方法だ、分かったな?」
「そんな……」
「おまえの兄貴を信じろ」
「…………」
言われても、頭では納得できた気がしても、気持ちが兄を一人置いていく、しかも自分たちを逃がすための言わば囮にすることに納得できない。
「戦の時、一番信用できるやつが殿を務めるってのは知ってるな?」
アランが妹に声をかける。
「だから俺がやるんだよ。乗り切る自信がなけりゃ、自分からこんなことは言わねえ」
「兄貴……」
「今この役目ができるのは俺しかいない。シャンタルに無理なのは言うまでもない、そしておまえは今のところ正体がバレてない。その格好でまだ動いてもらうことが必要になるかも知れんから隠しておかねえとな。トーヤが捕まってみろ、それこそ動きが取れん。何しろ八年前のことがある。どういうことになるか分からんからな」
「…………」
「わかったらおまえもとっとと出る準備しろ」
アランがそう言って、とん、と優しくベルの肩を押した。
「だって、おれ……」
ベルが俯いたまま弱く言う。
「おれ、父さんと母さんが死んでから、兄貴と離れたことなんてないから……」
「ベル」
アランがさすがに自分も顔を歪ませた。
「だって、離れたことなんて……」
ベルが下を向いたまま右手の甲で目をこする。
「ベル」
トーヤも思わずベルの名を口にする。
「離れたことなんてさ……」
ベルがキッと顔を上げ、
「兄貴とトーヤが『そういうお店』に行くのにシャンタルと留守番させられた時以外なかったから!!」
「な!」
「おま!」
「そういうお店?」
最初の2つはアランとトーヤで最後の声はラデルの疑問形だ。
「お、おま、何」
「トーヤが自分が行きたくて兄貴を『そういうお店』に道連れにした時だけだから!!」
「ちょ、おま、やめ!」
アランが戸惑いトーヤが止めるのに、「旅の兄」に扮装していたシャンタルが吹き出す。
「ああ」
そこに来てラデルも意味が分かったようで、思わず表情が崩れる。
「仕事の打ち合わせに行くみたいな顔してそういうおみ、もがっ」
「おまえちっと黙れ!」
トーヤが急いでベルの口を塞ぐ。
「そうか、そんなに離れたことがなかったのか」
ラデルがたまらないというように笑いながらそう言った。
「そうそう、そうなんです、そうい――」
「いいから黙れ! そんで急げ!」
笑い続けるラデルを横に、トーヤがベルを急かして用意を整えさせ、深刻な逃走劇の雰囲気は丸つぶれになってしまった。
「もちろんみんな一緒だ。ラデルさん」
「なんでしょう」
ベルと一緒にラデルも部屋に入ってきていた。
「ここ、任せて申し訳ないですが、俺たちの痕跡を消しておいてください。それから、もしも弟子のことを誰かが聞きにきたら、お使いか何かに出てそのまま戻らないことに」
「分かりました」
「あなたは俺たちのことを何も知らない、アベルと名乗ったガキも本当の身元は知らない。それで通してください」
「はい、その振りをします。ですが、必要なら、大丈夫そうならまた戻ってきてください。連絡も待ってます」
「分かりました。ありがとうございます」
トーヤがベッドから立ち上がって頭を下げて礼を言う。
「あなたには本当に世話になって、そして迷惑をかけました」
「いえ、私も自分のことと同じです」
「それは」
トーヤの目とラデルの目が合う。
「それに、今ではベルさんは私の弟子ですからね。だから弟子のことをよろしく頼みます」
「ありがとうございます、もちろんです」
トーヤがラデルと話している間、珍しいことにアランが座ったままで動かない。
いつもなら打てば響くようなアランが、何を考えているのか動く気配がないのだ。
「おい、アラン、何してんだ」
「俺は残るよ」
「は?」
「といってもここじゃない、リュセルスのどっかふらふらしてる」
「おまえ、何言ってんだ」
「神官長が動かすのは神官だけじゃねえだろ、きっと必要なら衛士やら憲兵も動かす」
「そりゃまあ……」
「その時に誰も見つからなかったらどこどこまでも探すかも知れねえ。もしかしたらあそこにも来るかも知れねえ」
ルギがあそこを知らせない保証は確かにない。
まずないとは思うが、絶対ではない。
何があろうが、あそこは最後の砦として知られないようにしなければならない。
「そんで、どうする気だ」
「適当に逃げ回ってどこかで捕まる」
「兄貴、何言ってんだよ!」
荷造りをしていたベルが驚いて手を止める。
「なんでそんなことすんだよ!」
「俺が捕まって適当にかわすためだよ。シャンタルが捕まるわけにはいかねえだろうが」
「いや、だって、そんな」
「アランの言う通りだ」
トーヤが言うのにベルが驚いて振り返る。
「アラン、すまんな」
「いや、その代わり後ではずんでくれよな」
「もちろんだ」
「何言ってんだよトーヤまで!!」
ベルが手に持っていた荷物を落としてトーヤに詰め寄る。
「兄貴だけ残してくなんて、なんでそんなことしなくちゃいけねえんだよ!」
「アランが言ってた通りだ。俺もその案に乗る」
「ひでえ!」
「いいか、よく聞け」
トーヤがベルの両肩に手を置いてしっかりと顔を見る。
「おまえの兄貴は本当に優秀だ、できるやつだ。そいつがそう言う、そして俺もそれが最善だと思った。だからこれが一番いい方法だ、分かったな?」
「そんな……」
「おまえの兄貴を信じろ」
「…………」
言われても、頭では納得できた気がしても、気持ちが兄を一人置いていく、しかも自分たちを逃がすための言わば囮にすることに納得できない。
「戦の時、一番信用できるやつが殿を務めるってのは知ってるな?」
アランが妹に声をかける。
「だから俺がやるんだよ。乗り切る自信がなけりゃ、自分からこんなことは言わねえ」
「兄貴……」
「今この役目ができるのは俺しかいない。シャンタルに無理なのは言うまでもない、そしておまえは今のところ正体がバレてない。その格好でまだ動いてもらうことが必要になるかも知れんから隠しておかねえとな。トーヤが捕まってみろ、それこそ動きが取れん。何しろ八年前のことがある。どういうことになるか分からんからな」
「…………」
「わかったらおまえもとっとと出る準備しろ」
アランがそう言って、とん、と優しくベルの肩を押した。
「だって、おれ……」
ベルが俯いたまま弱く言う。
「おれ、父さんと母さんが死んでから、兄貴と離れたことなんてないから……」
「ベル」
アランがさすがに自分も顔を歪ませた。
「だって、離れたことなんて……」
ベルが下を向いたまま右手の甲で目をこする。
「ベル」
トーヤも思わずベルの名を口にする。
「離れたことなんてさ……」
ベルがキッと顔を上げ、
「兄貴とトーヤが『そういうお店』に行くのにシャンタルと留守番させられた時以外なかったから!!」
「な!」
「おま!」
「そういうお店?」
最初の2つはアランとトーヤで最後の声はラデルの疑問形だ。
「お、おま、何」
「トーヤが自分が行きたくて兄貴を『そういうお店』に道連れにした時だけだから!!」
「ちょ、おま、やめ!」
アランが戸惑いトーヤが止めるのに、「旅の兄」に扮装していたシャンタルが吹き出す。
「ああ」
そこに来てラデルも意味が分かったようで、思わず表情が崩れる。
「仕事の打ち合わせに行くみたいな顔してそういうおみ、もがっ」
「おまえちっと黙れ!」
トーヤが急いでベルの口を塞ぐ。
「そうか、そんなに離れたことがなかったのか」
ラデルがたまらないというように笑いながらそう言った。
「そうそう、そうなんです、そうい――」
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