黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第二章 第二部 揺れる故郷

11 変わらぬ人々

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 何も変わることがない人たちだった。
 何があろうともトーヤをあの時のまま、ここが故郷だと言ってくれたままの人たちだった。

 巻き込んでしまうことに対しての申し訳無さはもちろんある。
 本当なら、何も知らず、静かにここで暮らしていくだろう人たちにどんな思いをさせるのか、そう思うと胸が苦しくなる。

 だが、それでも、やはりうれしさが勝ってしまうことを、トーヤは人間というのはなんと身勝手なもんだと思いながらも素直に受け入れた。

 色々考えることはあるものの、気楽になったところで、本当にかいつまんでの流れだけをトーヤは話すことにした。

「つまり俺の役割ってのは、湖に沈められたこいつを連れ出して、そして次の交代に間に合うようにこっちに戻るってことだったんだよ」

 「水底みなぞこ御方おんかた」に引きずりこまれ、殺されそうになったことなどは省いて話す。
 話したのは「黒のシャンタル」が男であったこと、千年前の託宣でそうするようにと言われていたこと、そんなことだけだ。
 シャンタルが人形のように自分の力で見たり聞いたり話したりができなかったことなどは、一般の民であるダル一家には話さなかった。

「まあ他にも、色々と時間がありゃ話すこともできると思うが、今はこの流れだけな」
「そうだったのかい。そんで、なんでそんな中でダルが月虹兵なんてのになったんだい?」
「あれ、聞いてないのか?」
「ああ聞いてない」
「そうなのか」

 ナスタの質問にトーヤはまた簡単に答える。

「ダルが俺の手伝いをしたいってマユリアに言ってくれてな、そんじゃあ宮と民をつなぐような兵を作ろうってそういうことになったんだよ。それまでは宮の中のことは衛士、街のことは憲兵って担当が決まってたんだろ? だがどっちか分からんような問題もあるし、その両方をつなぐような存在があった方がいいかも知れないと思ったってマユリアが言ってくれてな」
「へえ、そりゃすげえな!」
 
 ダリオが賛嘆さんたんの声を上げる。

「わが弟の案をマユリアが取り上げてくれるなんてなあ。ダルのやつ、そんなことは一切説明なしだ。トーヤの手伝いで月虹兵ってのになったからって、それしか言わねえし」
「ほんとだよねえ。あいつ、今度会ったらとっちめてやらないとね」

 ダリオの言葉にナスタもそう言ってうなずく。
 リルにも「後でとっちめる」と言われていたことがあった。
 八年経ってもダルは本当に変わっていないらしい。
 そう思うとトーヤは愉快でたまらなかった。

「何笑ってんだい」
「いや」

 ナスタがトーヤにそう聞くと、

「ダルが、本当に変わってねえんだなと思うとうれしくてな」
「ああ変わってないよ、って、会ったんじゃないのかい?」
「ああ、会った。そんで変わってないと分かったけど、さっきみたいなの聞くと、本当の本当に変わってねえんだなとあらためて思ってさ。それが月虹隊の隊長だもんなあ」
「本当だね、びっくりするよね」

 ナスタも同意して笑う。

「その上5人の子持ちだよ」
「ああ、それも聞いた」
「驚いただろ?」
「驚いたなんてもんじゃなかったな。そんでリルも今4人目が腹にいるって」
「リルにも会ったのかい。あの子もね、大商会のお嬢様で宮の侍女だったけど、今じゃもうこの村の子みたいになっちまってるさ」
「みたいだな」

 リルのことも思い出して笑う。

「そこはちょっとばかり変わったな」
「そうだね、最初の頃はすましてたからねえ」
「今じゃすっかりおっかさんだ」

 トーヤとナスタのやり取りに、リルを知る者がみんなで笑う。

「それで、どうして宮になんか行ってたんだい? 最初からここに来ればよかったのに」
「ああ、それか」

 この国が、宮がどうなっているかが全く分からなかったから、シャンタルと、そして自分も普通にこの国に入るわけにいかなかった。

 だが、そう言うとやはりこの人たちは、

「そんなに信用がなかったのかい」

 と怒り出すだろう。
 
 それを考えるとやはりトーヤは愉快になった。
 
 生まれ故郷を離れた時は、もう誰も待つ者もいない、戻る場所もない、だからできるだけ遠くへ行きたい、そう思ってシャンタリオへ行く船に乗った。しかも、その船が海賊船だと知りながら。

 何が起こるか分からない。
 それこそあの時、自分も嵐に巻き込まれて命を落としそうになったが、そのまま今はこの村で眠る他のやつらと同じだったかも知れない。
 そんな可能性も頭にありながら、それでも構わないとどこかで思いながらあの船に乗ったのだ。
 どうせ自分はこの世に一人ぼっちなのだからと。

 今思えばかなり自暴自棄になっていたんだなと思う。

 それが、あの港でディレンと再会し、初めてディレンが自分を探していてくれたこと、気にかけてくれていたことを知った。
 あちらのミーヤがそれほど深く自分のことを想っていてくれたからだということを知った。
 あらためて自分を想ってくれていた人があちらの故郷にもいたことを知った。

 そして今、ここにもまた自分を想ってくれていた人たちがいた。
 自分だけではなく、自分の家族もまた家族、そう言ってくれる人たちがいた。

『それでトーヤの国だよ。ここはもうトーヤの国だからな、戻ってくる場所なんだからな』

 八年前にダルが言ってくれたことが、深く深く心にしみていた。
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