144 / 488
第二章 第三部 女神の国
20 その時を待つのみ
しおりを挟む
「よく来てくれました」
マユリアがいつものように美しく微笑み、ミーヤもいつものように正式の礼をする。
「頭をお上げなさい」
いつものようにそう言われて頭を上げ、
「お座りなさい」
いつものように示された席に腰をかけた。
マユリアの座っている横の椅子には紙を綴じた物が何冊か積まれている。
おそらく尋問の調書だろう。
「一通り目を通しました」
マユリアがミーヤの目線の先に視線を移してそう言った。
「本当はもう少し早くおまえと話したかったのですが、衛士の取り調べもあり、わたくしも少し考えをまとめる必要がありました」
「いえ、もったいないことです」
ミーヤは座ったままで深く頭を下げる。
「不自由はないですか?」
「不自由は、なくはないですが、いつもの勤めをしておりませんので、マユリアが思っていらっしゃるよりものんびりと過ごさせていただいております」
「ならばいいのですが。相変わらずミーヤは楽しいこと」
聞いてマユリアがほんのりと笑う。
「トーヤですが、戻る時にはあの道を使うだろうと、ルギにあそこは見張らぬようにと言ってあったのですが、まさか、あんな風にして正面から堂々と入ってくるとは」
マユリアが愉快でたまらぬという風に笑う。
「それで、おまえはエリス様とはお会いしたのですよね」
「はい」
「どのような方になっていらっしゃいました」
ディレンからもどのような方になったかは聞いているが、ディレンは八年前の先代のことは知らない。
「あのままに、八年前の素直なあの方のままにご成長です。お姿もあのままに、今も精霊のように美しいお姿ですが、お声だけは男の方の声をなさっておられますので、初めてお聞きした時には少し驚きました」
ミーヤもディレンと変わらぬ言葉を告げる。
「とてもよくお笑いになると」
「え?」
「ディレン船長がそうおっしゃっておられたので」
「ああ」
「特にベルといるとずっと冗談を言っていると」
「はい、その通りです。いつも二人でころころとお笑いになっておられます」
「本当なのですね」
マユリアがこれ以上はないと思われるぐらい優しい表情を浮かべる。
「本当にずるいわ、わたくしも早くお目にかかりたい。そうして冗談を言っていただきたいものです」
「まあ」
ミーヤがマユリアの言葉に思わずくすくすと笑った。
「トーヤは本当に面白いことを思いつくこと。そうでもしないと先代がこの国には入れない。そう考えてのことなのでしょう」
「はい、そう申しておりました」
「できれば、戻ってすぐにも顔を出してもらいたかったものですが」
「それは」
「いえ、分かっています。宮の中がどうなっているかが分からなかったからですよね」
「はい、おっしゃる通りです」
「それは分かっているのです、分かった上で、それでもついそう思ってしまうのは、わたくしのわがままなのです」
マユリアはそう言っていたずらっぽく笑った。
「おそれいります」
ミーヤがまた頭を下げる。
「そして、トーヤが危惧していた通り、宮は変わってしまっていた。トーヤは間違えてはいなかった」
「はい……」
ミーヤが頭を下げたまま、やや小さな声で答える。
「この調書を読むと、おまえにもしばらく正体を明かしていなかった。それもみな、宮の者がどうなっているのかを見極めていたからなのですね」
「はい」
「一体、どれほど裏で動いてくれていたのか。それを思うと、今のおまえのことも本当に申し訳なく思っているのです。許してくださいね」
「いえ、もったいない!」
「いいえ。ですが、今の状態ではおまえのこと、知っていながら厳しく接するしかないのです。許してください」
「はい、分かっております」
「そして、いつ事が落ち着いて、おまえを自由にしてやれるかも分からない。許してください」
「マユリア……」
ミーヤは主の口からこぼれる許しを願う言葉に胸が詰まる。
「わたくしには何もできない。どうすればいいのか分かりません。トーヤたちに任せるしか、じっと耐えるしか今はできることがありません」
「はい」
「できるだけトーヤたちの邪魔にならぬようにすること、それしかできることはない」
「はい」
「アランが戻ってきています」
「え?」
「あの日、夜になって戻ってきました」
「アランが……」
「多分何か考えがあるのでしょう。今はおまえのいる部屋の隣にディレン船長、その隣にアランが入っています」
「ええっ!」
知らなかった。
セルマと2人、じっとあの部屋の中にいるので外の出来事は何も分からなかったのだ。
「びっくりしていますね」
マユリアがいたずらが成功した子どものようにくすりと笑う。
「単に警備がしやすいようにだ」
ルギが横から単調に言い、ミーヤも納得する。なんとなくホッとした気がした。
「今、トーヤたちはどこにいるのか分かりません。おまえは知っていますか?」
「いえ、存じません」
「アランもリュセルスで別れたきり知らぬということらしいです」
「そうですか」
「トーヤたちを信じるしかないのでしょうね」
マユリアが美しいまぶたを閉じて静かに言う。
「わたくしたちにできることは、何か連絡が来た時に動けるようにしておくこと、それだけ」
マユリアがいつものように美しく微笑み、ミーヤもいつものように正式の礼をする。
「頭をお上げなさい」
いつものようにそう言われて頭を上げ、
「お座りなさい」
いつものように示された席に腰をかけた。
マユリアの座っている横の椅子には紙を綴じた物が何冊か積まれている。
おそらく尋問の調書だろう。
「一通り目を通しました」
マユリアがミーヤの目線の先に視線を移してそう言った。
「本当はもう少し早くおまえと話したかったのですが、衛士の取り調べもあり、わたくしも少し考えをまとめる必要がありました」
「いえ、もったいないことです」
ミーヤは座ったままで深く頭を下げる。
「不自由はないですか?」
「不自由は、なくはないですが、いつもの勤めをしておりませんので、マユリアが思っていらっしゃるよりものんびりと過ごさせていただいております」
「ならばいいのですが。相変わらずミーヤは楽しいこと」
聞いてマユリアがほんのりと笑う。
「トーヤですが、戻る時にはあの道を使うだろうと、ルギにあそこは見張らぬようにと言ってあったのですが、まさか、あんな風にして正面から堂々と入ってくるとは」
マユリアが愉快でたまらぬという風に笑う。
「それで、おまえはエリス様とはお会いしたのですよね」
「はい」
「どのような方になっていらっしゃいました」
ディレンからもどのような方になったかは聞いているが、ディレンは八年前の先代のことは知らない。
「あのままに、八年前の素直なあの方のままにご成長です。お姿もあのままに、今も精霊のように美しいお姿ですが、お声だけは男の方の声をなさっておられますので、初めてお聞きした時には少し驚きました」
ミーヤもディレンと変わらぬ言葉を告げる。
「とてもよくお笑いになると」
「え?」
「ディレン船長がそうおっしゃっておられたので」
「ああ」
「特にベルといるとずっと冗談を言っていると」
「はい、その通りです。いつも二人でころころとお笑いになっておられます」
「本当なのですね」
マユリアがこれ以上はないと思われるぐらい優しい表情を浮かべる。
「本当にずるいわ、わたくしも早くお目にかかりたい。そうして冗談を言っていただきたいものです」
「まあ」
ミーヤがマユリアの言葉に思わずくすくすと笑った。
「トーヤは本当に面白いことを思いつくこと。そうでもしないと先代がこの国には入れない。そう考えてのことなのでしょう」
「はい、そう申しておりました」
「できれば、戻ってすぐにも顔を出してもらいたかったものですが」
「それは」
「いえ、分かっています。宮の中がどうなっているかが分からなかったからですよね」
「はい、おっしゃる通りです」
「それは分かっているのです、分かった上で、それでもついそう思ってしまうのは、わたくしのわがままなのです」
マユリアはそう言っていたずらっぽく笑った。
「おそれいります」
ミーヤがまた頭を下げる。
「そして、トーヤが危惧していた通り、宮は変わってしまっていた。トーヤは間違えてはいなかった」
「はい……」
ミーヤが頭を下げたまま、やや小さな声で答える。
「この調書を読むと、おまえにもしばらく正体を明かしていなかった。それもみな、宮の者がどうなっているのかを見極めていたからなのですね」
「はい」
「一体、どれほど裏で動いてくれていたのか。それを思うと、今のおまえのことも本当に申し訳なく思っているのです。許してくださいね」
「いえ、もったいない!」
「いいえ。ですが、今の状態ではおまえのこと、知っていながら厳しく接するしかないのです。許してください」
「はい、分かっております」
「そして、いつ事が落ち着いて、おまえを自由にしてやれるかも分からない。許してください」
「マユリア……」
ミーヤは主の口からこぼれる許しを願う言葉に胸が詰まる。
「わたくしには何もできない。どうすればいいのか分かりません。トーヤたちに任せるしか、じっと耐えるしか今はできることがありません」
「はい」
「できるだけトーヤたちの邪魔にならぬようにすること、それしかできることはない」
「はい」
「アランが戻ってきています」
「え?」
「あの日、夜になって戻ってきました」
「アランが……」
「多分何か考えがあるのでしょう。今はおまえのいる部屋の隣にディレン船長、その隣にアランが入っています」
「ええっ!」
知らなかった。
セルマと2人、じっとあの部屋の中にいるので外の出来事は何も分からなかったのだ。
「びっくりしていますね」
マユリアがいたずらが成功した子どものようにくすりと笑う。
「単に警備がしやすいようにだ」
ルギが横から単調に言い、ミーヤも納得する。なんとなくホッとした気がした。
「今、トーヤたちはどこにいるのか分かりません。おまえは知っていますか?」
「いえ、存じません」
「アランもリュセルスで別れたきり知らぬということらしいです」
「そうですか」
「トーヤたちを信じるしかないのでしょうね」
マユリアが美しいまぶたを閉じて静かに言う。
「わたくしたちにできることは、何か連絡が来た時に動けるようにしておくこと、それだけ」
0
あなたにおすすめの小説
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる