155 / 488
第三章 第一部 カースより始まる
10 広場の騒動
しおりを挟む
ルギの家は王宮のある山と海岸の中ほどよりやや海側にある。山側に行くほどゆったりとした大きめの家が多く、海側に行くほど庶民的な家が多くなる。中央のお屋敷街は論外だが、そうして山の手と下町に分かれるやや下町側に位置しているということだ。
その南北の真ん中あたりに東西に伸びた大きな石畳の道路があり、数カ所の駅に停まる東西を行き来する乗り合いの辻馬車や、急ぐ人や少人数で貸し切るための小型の馬車などが走っている。自分で馬や馬車を持っていない庶民の便利な足だ。
その大通りに出て、ダルはアーリンと一緒に中央に向かって西に歩いた。
しばらく進むと一つの駅のある広場に出た。
広場に面して様々な店舗が並び、その他にも道沿いにいくつもの露店も出ている。
「そういやそろそろお昼だね、何か食べよう」
アーリンと一緒に店を選び、一つの露店で肉詰めのパイと飲み物を買って広場のベンチに腰をかけた。
パイは具が入っているからかしっとりしていて、さっくりとした歯ごたえはあまりなかったが、味付けもよく、スパイスもほどよく効いていてなかなかおいしい。木のカップに入ったお茶はあっさりしてほどよく温かく、しっかりした味のパイとよく合った。
そうして二人で軽食を食べていると、
「あの、月虹隊のダル隊長、ですよね?」
と、なんだか気弱そうな若い男がおずおずと声をかけてきた。
「はい、そうですけど、なんでしょう」
ダルは「来たかな」と思いながら、それでも少しにっこりしながらそう返事をした。
「あの、ちょっとお話しさせていいでしょうか」
「なんでしょうか? ちょっと今こういう感じなんで、食べ終わるまで待ってもらえますか? それともさっと聞いて終わる感じですか?」
「あの、ちょっとお時間いただきたいので、少し待ってます」
「そうですか? じゃあ、もう少しだけ待っててください」
男が気を遣って少し離れたところに移動したので、少し急いで食べてしまい、アーリンに皿とカップを露店に返しにいかせる。男が様子を見てまた近づいてきた。
「待たせました、なんでしょう」
「あ、はい、すみません」
男はダルに軽く頭を下げると、体の向きを変えてどこかに合図を送った。
すぐに4人の男がつかつかと近寄ってきた。
見るからに力の強そうな、先日ベルと一緒にいた時に声をかけてきた男たちと同じタイプに見えた。
どうやら最初からそういう面子だと警戒されると思っての、さっきの人選だったようだ。
「あんたに頼みがあるんだ、宮につなぎとってもらいたい」
「え?」
前に声をかけられた時は「宮に進言してもらいたい」と言ってきたが、何か事情が変わったのか、それともあの時から最後はそのつもりだったのか、今回はそう言う。
「つなぎって?」
「俺たちを宮へ招待してもらいたい」
「え!」
ダルは真剣に驚く。
まさか、そんなことを要求してくるとは思ってもみなかった。
「月虹兵は民を宮につなぐ役目だろ? だったらそんな驚くこともないじゃないか」
「いやいや、つなぐって言っても、そんな役目じゃないしね」
ダルは心の中は動揺しながらも、落ち着いてそう答える。
「宮へお伝えしたいことがあるなら、手紙でも月虹隊本部に届けてくれるかな、そうしたら内容を見て、必要だと思ったらお伝えすることもあるよ」
「それじゃあ間に合わないからだよ!」
先頭で話をしていたひときわ体の大きな男が大声を出す。
さすがに周囲の人間が何事かと、ダルたちを振り向いた。
「今な、この国じゃあえらいことが起こってんだよ、あんた知ってんのか? 王家のお方が天のお怒りになるようなことをなさったんで、あっちこっちで天変地異が起こってるって話だ。水害で村が流されたり、疫病が流行ったり。これはみんな、今の王様が無理やり王座を奪ったせいだって話だ。だから元の王様にお戻りいただいて、一日も早く天に怒りをおさめていただきたいんだよ。なあ、みんな、そう思うよなあ!」
男が最後で一層大きな声を張り上げ、周囲の一部からも「そうだそうだ」の声が上がる。
「隊長さんよ、あんたもこの国の民なら、一刻も早くそうなってもらいたいだろ? それとも何か、この国がどうなろうとも知ったこっちゃない、そう言うのか? なあ、どうなんだ?」
「それと、君らが宮へ行くのにどんな関係があるの?」
ダルはなんとかそう答えた。
「俺らが直接上の方々にそう訴えるんだよ。そうしたらきっと民の声をお聞きくださる」
「え、上の方々って、まさか……」
ダルは想像の上を言う発言に思わず絶句する。
「もちろん上の方々だよ」
「直接なんて会えるわけないだろ!」
思わずダルの声も大きくなる。
「なんで無理なんだよ」
「なんでって言う必要あるかな、そんな簡単にお会いできる方々じゃないんだよ!」
「あんたはお会いしたことあるんだろ?」
「それは……」
ダルが思わず答えに詰まる。
「月虹隊ってのはマユリア直々のお声掛かりなんだろ? 聞けばあんた、元はただの漁師の息子だってんじゃないか、そのあんたがお会いできたんだ、これだけ国のことを思ってのこと、俺らの声だってお聞きくださるってもんじゃないのか?」
誰かは分からないが、やはり自分を狙っていたんだなとダルは理解した。
その南北の真ん中あたりに東西に伸びた大きな石畳の道路があり、数カ所の駅に停まる東西を行き来する乗り合いの辻馬車や、急ぐ人や少人数で貸し切るための小型の馬車などが走っている。自分で馬や馬車を持っていない庶民の便利な足だ。
その大通りに出て、ダルはアーリンと一緒に中央に向かって西に歩いた。
しばらく進むと一つの駅のある広場に出た。
広場に面して様々な店舗が並び、その他にも道沿いにいくつもの露店も出ている。
「そういやそろそろお昼だね、何か食べよう」
アーリンと一緒に店を選び、一つの露店で肉詰めのパイと飲み物を買って広場のベンチに腰をかけた。
パイは具が入っているからかしっとりしていて、さっくりとした歯ごたえはあまりなかったが、味付けもよく、スパイスもほどよく効いていてなかなかおいしい。木のカップに入ったお茶はあっさりしてほどよく温かく、しっかりした味のパイとよく合った。
そうして二人で軽食を食べていると、
「あの、月虹隊のダル隊長、ですよね?」
と、なんだか気弱そうな若い男がおずおずと声をかけてきた。
「はい、そうですけど、なんでしょう」
ダルは「来たかな」と思いながら、それでも少しにっこりしながらそう返事をした。
「あの、ちょっとお話しさせていいでしょうか」
「なんでしょうか? ちょっと今こういう感じなんで、食べ終わるまで待ってもらえますか? それともさっと聞いて終わる感じですか?」
「あの、ちょっとお時間いただきたいので、少し待ってます」
「そうですか? じゃあ、もう少しだけ待っててください」
男が気を遣って少し離れたところに移動したので、少し急いで食べてしまい、アーリンに皿とカップを露店に返しにいかせる。男が様子を見てまた近づいてきた。
「待たせました、なんでしょう」
「あ、はい、すみません」
男はダルに軽く頭を下げると、体の向きを変えてどこかに合図を送った。
すぐに4人の男がつかつかと近寄ってきた。
見るからに力の強そうな、先日ベルと一緒にいた時に声をかけてきた男たちと同じタイプに見えた。
どうやら最初からそういう面子だと警戒されると思っての、さっきの人選だったようだ。
「あんたに頼みがあるんだ、宮につなぎとってもらいたい」
「え?」
前に声をかけられた時は「宮に進言してもらいたい」と言ってきたが、何か事情が変わったのか、それともあの時から最後はそのつもりだったのか、今回はそう言う。
「つなぎって?」
「俺たちを宮へ招待してもらいたい」
「え!」
ダルは真剣に驚く。
まさか、そんなことを要求してくるとは思ってもみなかった。
「月虹兵は民を宮につなぐ役目だろ? だったらそんな驚くこともないじゃないか」
「いやいや、つなぐって言っても、そんな役目じゃないしね」
ダルは心の中は動揺しながらも、落ち着いてそう答える。
「宮へお伝えしたいことがあるなら、手紙でも月虹隊本部に届けてくれるかな、そうしたら内容を見て、必要だと思ったらお伝えすることもあるよ」
「それじゃあ間に合わないからだよ!」
先頭で話をしていたひときわ体の大きな男が大声を出す。
さすがに周囲の人間が何事かと、ダルたちを振り向いた。
「今な、この国じゃあえらいことが起こってんだよ、あんた知ってんのか? 王家のお方が天のお怒りになるようなことをなさったんで、あっちこっちで天変地異が起こってるって話だ。水害で村が流されたり、疫病が流行ったり。これはみんな、今の王様が無理やり王座を奪ったせいだって話だ。だから元の王様にお戻りいただいて、一日も早く天に怒りをおさめていただきたいんだよ。なあ、みんな、そう思うよなあ!」
男が最後で一層大きな声を張り上げ、周囲の一部からも「そうだそうだ」の声が上がる。
「隊長さんよ、あんたもこの国の民なら、一刻も早くそうなってもらいたいだろ? それとも何か、この国がどうなろうとも知ったこっちゃない、そう言うのか? なあ、どうなんだ?」
「それと、君らが宮へ行くのにどんな関係があるの?」
ダルはなんとかそう答えた。
「俺らが直接上の方々にそう訴えるんだよ。そうしたらきっと民の声をお聞きくださる」
「え、上の方々って、まさか……」
ダルは想像の上を言う発言に思わず絶句する。
「もちろん上の方々だよ」
「直接なんて会えるわけないだろ!」
思わずダルの声も大きくなる。
「なんで無理なんだよ」
「なんでって言う必要あるかな、そんな簡単にお会いできる方々じゃないんだよ!」
「あんたはお会いしたことあるんだろ?」
「それは……」
ダルが思わず答えに詰まる。
「月虹隊ってのはマユリア直々のお声掛かりなんだろ? 聞けばあんた、元はただの漁師の息子だってんじゃないか、そのあんたがお会いできたんだ、これだけ国のことを思ってのこと、俺らの声だってお聞きくださるってもんじゃないのか?」
誰かは分からないが、やはり自分を狙っていたんだなとダルは理解した。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる