黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第三章 第一部 カースより始まる

10 広場の騒動

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 ルギの家は王宮のある山と海岸の中ほどよりやや海側にある。山側に行くほどゆったりとした大きめの家が多く、海側に行くほど庶民的な家が多くなる。中央のお屋敷街は論外だが、そうして山の手と下町に分かれるやや下町側に位置しているということだ。

 その南北の真ん中あたりに東西に伸びた大きな石畳の道路があり、数カ所の駅に停まる東西を行き来する乗り合いの辻馬車や、急ぐ人や少人数で貸し切るための小型の馬車などが走っている。自分で馬や馬車を持っていない庶民の便利な足だ。
 
 その大通りに出て、ダルはアーリンと一緒に中央に向かって西に歩いた。

 しばらく進むと一つの駅のある広場に出た。
 広場に面して様々な店舗が並び、その他にも道沿いにいくつもの露店も出ている。

「そういやそろそろお昼だね、何か食べよう」

 アーリンと一緒に店を選び、一つの露店で肉詰めのパイと飲み物を買って広場のベンチに腰をかけた。
 パイは具が入っているからかしっとりしていて、さっくりとした歯ごたえはあまりなかったが、味付けもよく、スパイスもほどよく効いていてなかなかおいしい。木のカップに入ったお茶はあっさりしてほどよく温かく、しっかりした味のパイとよく合った。

 そうして二人で軽食を食べていると、

「あの、月虹隊のダル隊長、ですよね?」

 と、なんだか気弱そうな若い男がおずおずと声をかけてきた。

「はい、そうですけど、なんでしょう」

 ダルは「来たかな」と思いながら、それでも少しにっこりしながらそう返事をした。

「あの、ちょっとお話しさせていいでしょうか」
「なんでしょうか? ちょっと今こういう感じなんで、食べ終わるまで待ってもらえますか? それともさっと聞いて終わる感じですか?」
「あの、ちょっとお時間いただきたいので、少し待ってます」
「そうですか? じゃあ、もう少しだけ待っててください」

 男が気を遣って少し離れたところに移動したので、少し急いで食べてしまい、アーリンに皿とカップを露店に返しにいかせる。男が様子を見てまた近づいてきた。

「待たせました、なんでしょう」
「あ、はい、すみません」

 男はダルに軽く頭を下げると、体の向きを変えてどこかに合図を送った。 
 すぐに4人の男がつかつかと近寄ってきた。
 見るからに力の強そうな、先日ベルと一緒にいた時に声をかけてきた男たちと同じタイプに見えた。
 どうやら最初からそういう面子だと警戒されると思っての、さっきの人選だったようだ。

「あんたに頼みがあるんだ、宮につなぎとってもらいたい」
「え?」

 前に声をかけられた時は「宮に進言してもらいたい」と言ってきたが、何か事情が変わったのか、それともあの時から最後はそのつもりだったのか、今回はそう言う。

「つなぎって?」
「俺たちを宮へ招待してもらいたい」
「え!」

 ダルは真剣に驚く。
 まさか、そんなことを要求してくるとは思ってもみなかった。

「月虹兵は民を宮につなぐ役目だろ? だったらそんな驚くこともないじゃないか」
「いやいや、つなぐって言っても、そんな役目じゃないしね」

 ダルは心の中は動揺しながらも、落ち着いてそう答える。

「宮へお伝えしたいことがあるなら、手紙でも月虹隊本部に届けてくれるかな、そうしたら内容を見て、必要だと思ったらお伝えすることもあるよ」
「それじゃあ間に合わないからだよ!」
 
 先頭で話をしていたひときわ体の大きな男が大声を出す。
 さすがに周囲の人間が何事かと、ダルたちを振り向いた。

「今な、この国じゃあえらいことが起こってんだよ、あんた知ってんのか? 王家のお方が天のお怒りになるようなことをなさったんで、あっちこっちで天変地異が起こってるって話だ。水害で村が流されたり、疫病が流行ったり。これはみんな、今の王様が無理やり王座を奪ったせいだって話だ。だから元の王様にお戻りいただいて、一日も早く天に怒りをおさめていただきたいんだよ。なあ、みんな、そう思うよなあ!」

 男が最後で一層大きな声を張り上げ、周囲の一部からも「そうだそうだ」の声が上がる。

「隊長さんよ、あんたもこの国の民なら、一刻も早くそうなってもらいたいだろ? それとも何か、この国がどうなろうとも知ったこっちゃない、そう言うのか? なあ、どうなんだ?」
「それと、君らが宮へ行くのにどんな関係があるの?」

 ダルはなんとかそう答えた。

「俺らが直接上の方々にそう訴えるんだよ。そうしたらきっと民の声をお聞きくださる」
「え、上の方々って、まさか……」

 ダルは想像の上を言う発言に思わず絶句する。

「もちろん上の方々だよ」
「直接なんて会えるわけないだろ!」

 思わずダルの声も大きくなる。

「なんで無理なんだよ」
「なんでって言う必要あるかな、そんな簡単にお会いできる方々じゃないんだよ!」
「あんたはお会いしたことあるんだろ?」
「それは……」

 ダルが思わず答えに詰まる。

「月虹隊ってのはマユリア直々のお声掛かりなんだろ? 聞けばあんた、元はただの漁師の息子だってんじゃないか、そのあんたがお会いできたんだ、これだけ国のことを思ってのこと、俺らの声だってお聞きくださるってもんじゃないのか?」

 誰かは分からないが、やはり自分を狙っていたんだなとダルは理解した。
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