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第三章 第三部 政争の裏側
3 侵入
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その夜、夕食と入浴を済ませると、トーヤは、
「あ~やっぱり風呂はいいな。ここんちは温泉だからなおさらいい。すっきりした。じゃあ寝る」
と、とっととダルの部屋に寝に行ってしまった。
シャンタル宮に温泉が引かれているように、カースにも温泉が湧いている。おそらく、リュセルスをそれより西の地域と隔てている「聖なる山」から湧いているものが下の地にも湧いているのだろう。カースと、それからリュセルス西部の一部では温泉を引いて利用している。
カースには村長宅のように自宅に風呂のある家もあるが、共同浴場もあるためそちらを利用している村民も多い。漁の後などに男たちがみんなで汗を流し、そのまま飲みになだれ込んだりするため、共同浴場に多少の人間が集まることができるぐらいのスペースもある。
翌日、トーヤが例の洞窟を通って宮まで行くのに、封鎖の間の暇つぶしと、洞窟を通ってキノスに来る者がないように、ダリオとサディが男たちをそこに引き止める役目を引き受けてくれることになった。
「この間会ったのが兄貴でよかった。他のヤツと会ってたらどうなってたか。頼むな、親父さん、兄貴」
「おう、任せとけ」
このところ時化続きで漁に出られていないため、くさくさしてそういう行動に出る者がそろそろ出てくる頃だ。
「どうせみんな暇だろうが、とっておきのやつ出すから、浴場でいっぱいやろうぜ」
サディが声をかけ、みんなで集まって一日中酒盛りになるはずだ。
「そんじゃ、あたしたちも一息入れようよ」
女たちの方はナスタがそう声をかけ、男たちとは違う、細工物などを作ったりする作業所で集まり、こちらはこちらでいっぱい引っ掛けて楽しくやることになった。
こんな時期には時々あることで、誰も不思議に思わない。
こうして村の者たちが集まって盛り上がっている隙に、トーヤは一人洞窟から宮へと向かった。
この間ダリオと会ったカースに近い入り口から入り、ひたすら登れば「聖なる湖」へとつながる出口に簡単に着く。
途中、ダリオが色々と運んでくれていた物が色々置いてあり、何かあったらベルとシャンタルと3人でここに籠もれるように準備もしてある。もっとも、ここの存在を知るルギが追ってきたらお手上げではあるが、その可能性は今のところ低いだろう。
ほどなく何度も通った見慣れた風景が見えてきた。聖なる湖の湖面に反射する光りがチラチラと見えている。ここまで来れば「奥宮」は目と鼻の先だ。
「さてと、ここからがちょーっとばかり厄介だがな」
口ではそう言っているが、八年前、隅から隅まで調べ上げ、今回もどこか変わっているところがないか調べられるだけは調べている。侵入するのはさほど骨ではなかろうとトーヤは思った。
聖なる湖のあたりに来る者はほとんどいない。運悪くたまたま来る者に遭遇しないように、森には入らないようにして身を隠しながらなんとか「葬送の扉」から宮の内部に潜り込むことができた。
「さて、問題は奥宮の最奥までどうやって入るか、だな」
奥宮の最も奥、宮の主たちの住まう私的な空間の手前には始終見張りの衛士が立っている。宮の構造から、そこを通らないと奥には入れない造りになっている。
だがそれは、真っ当な道を通るなら、だ。
あの日、ベルとシャンタルが飛び出して通ったように、建物の外に手がかりを探しながら奥宮の内側にある庭まで入り込めば、マユリアの私室のある宮殿エリアにも入ることができるだろう。
八年前にも思ったことだが、神様が住む重要な場所、何者も立ち入ることができない場所でありながら、シャンタル宮の内部には、トーヤのような者が見れば驚くほどあちらこちらに穴がある。
今度のようなことができると、その穴すら、わざとそうして作ってあるのではないかと疑うほど、忍び込むのは簡単であった。
トーヤはやすやすと宮殿エリアの一室の窓からの侵入に成功した。
(やっぱこういうの気色悪いよな)
あの洞窟同様、今日のために準備された道ですらあるような、それほどにトーヤにとっては簡単な仕事だったからだ。
そこは衣装部屋だった。あの日、幼い当代シャンタルが自身に対する侍女たちの評価を聞いてしまったあの部屋だ。
トーヤは奥宮の主たちが住まう宮殿の入り口近く、衛士たちの立番場所からほど近いその部屋からするりと抜け出し、ほとんど人のいない廊下をそっと奥へと向かった。
奥宮の広い廊下をやや登るように、山の頂上に近づくように奥へ進むと、広い中庭のある内側、向かって右側にシャンタルの私室部分がある。そして廊下を挟んだ反対側がマユリアの宮殿だ。
トーヤはそこにあるマユリアの応接室に入ったことがあった。「王宮の鐘」が鳴ったあの日、クーデターに成功して父王から玉座を奪った新国王がマユリアに求婚をしたあの部屋だ。
もちろんトーヤはそんなことは知らない。ただ入ったことがある部屋であり、あそこならマユリアとゆっくり話せるのではないかと思ってのことだ。
おそらく今、マユリアは以前のように「前の宮」にある客室まで出てくることはほぼないだろうと思った。「穢れ」を避けるため、ほぼ奥宮にいると聞いていたからだ。
そうして、そっと鍵を開け、その部屋へ入った。
「あ~やっぱり風呂はいいな。ここんちは温泉だからなおさらいい。すっきりした。じゃあ寝る」
と、とっととダルの部屋に寝に行ってしまった。
シャンタル宮に温泉が引かれているように、カースにも温泉が湧いている。おそらく、リュセルスをそれより西の地域と隔てている「聖なる山」から湧いているものが下の地にも湧いているのだろう。カースと、それからリュセルス西部の一部では温泉を引いて利用している。
カースには村長宅のように自宅に風呂のある家もあるが、共同浴場もあるためそちらを利用している村民も多い。漁の後などに男たちがみんなで汗を流し、そのまま飲みになだれ込んだりするため、共同浴場に多少の人間が集まることができるぐらいのスペースもある。
翌日、トーヤが例の洞窟を通って宮まで行くのに、封鎖の間の暇つぶしと、洞窟を通ってキノスに来る者がないように、ダリオとサディが男たちをそこに引き止める役目を引き受けてくれることになった。
「この間会ったのが兄貴でよかった。他のヤツと会ってたらどうなってたか。頼むな、親父さん、兄貴」
「おう、任せとけ」
このところ時化続きで漁に出られていないため、くさくさしてそういう行動に出る者がそろそろ出てくる頃だ。
「どうせみんな暇だろうが、とっておきのやつ出すから、浴場でいっぱいやろうぜ」
サディが声をかけ、みんなで集まって一日中酒盛りになるはずだ。
「そんじゃ、あたしたちも一息入れようよ」
女たちの方はナスタがそう声をかけ、男たちとは違う、細工物などを作ったりする作業所で集まり、こちらはこちらでいっぱい引っ掛けて楽しくやることになった。
こんな時期には時々あることで、誰も不思議に思わない。
こうして村の者たちが集まって盛り上がっている隙に、トーヤは一人洞窟から宮へと向かった。
この間ダリオと会ったカースに近い入り口から入り、ひたすら登れば「聖なる湖」へとつながる出口に簡単に着く。
途中、ダリオが色々と運んでくれていた物が色々置いてあり、何かあったらベルとシャンタルと3人でここに籠もれるように準備もしてある。もっとも、ここの存在を知るルギが追ってきたらお手上げではあるが、その可能性は今のところ低いだろう。
ほどなく何度も通った見慣れた風景が見えてきた。聖なる湖の湖面に反射する光りがチラチラと見えている。ここまで来れば「奥宮」は目と鼻の先だ。
「さてと、ここからがちょーっとばかり厄介だがな」
口ではそう言っているが、八年前、隅から隅まで調べ上げ、今回もどこか変わっているところがないか調べられるだけは調べている。侵入するのはさほど骨ではなかろうとトーヤは思った。
聖なる湖のあたりに来る者はほとんどいない。運悪くたまたま来る者に遭遇しないように、森には入らないようにして身を隠しながらなんとか「葬送の扉」から宮の内部に潜り込むことができた。
「さて、問題は奥宮の最奥までどうやって入るか、だな」
奥宮の最も奥、宮の主たちの住まう私的な空間の手前には始終見張りの衛士が立っている。宮の構造から、そこを通らないと奥には入れない造りになっている。
だがそれは、真っ当な道を通るなら、だ。
あの日、ベルとシャンタルが飛び出して通ったように、建物の外に手がかりを探しながら奥宮の内側にある庭まで入り込めば、マユリアの私室のある宮殿エリアにも入ることができるだろう。
八年前にも思ったことだが、神様が住む重要な場所、何者も立ち入ることができない場所でありながら、シャンタル宮の内部には、トーヤのような者が見れば驚くほどあちらこちらに穴がある。
今度のようなことができると、その穴すら、わざとそうして作ってあるのではないかと疑うほど、忍び込むのは簡単であった。
トーヤはやすやすと宮殿エリアの一室の窓からの侵入に成功した。
(やっぱこういうの気色悪いよな)
あの洞窟同様、今日のために準備された道ですらあるような、それほどにトーヤにとっては簡単な仕事だったからだ。
そこは衣装部屋だった。あの日、幼い当代シャンタルが自身に対する侍女たちの評価を聞いてしまったあの部屋だ。
トーヤは奥宮の主たちが住まう宮殿の入り口近く、衛士たちの立番場所からほど近いその部屋からするりと抜け出し、ほとんど人のいない廊下をそっと奥へと向かった。
奥宮の広い廊下をやや登るように、山の頂上に近づくように奥へ進むと、広い中庭のある内側、向かって右側にシャンタルの私室部分がある。そして廊下を挟んだ反対側がマユリアの宮殿だ。
トーヤはそこにあるマユリアの応接室に入ったことがあった。「王宮の鐘」が鳴ったあの日、クーデターに成功して父王から玉座を奪った新国王がマユリアに求婚をしたあの部屋だ。
もちろんトーヤはそんなことは知らない。ただ入ったことがある部屋であり、あそこならマユリアとゆっくり話せるのではないかと思ってのことだ。
おそらく今、マユリアは以前のように「前の宮」にある客室まで出てくることはほぼないだろうと思った。「穢れ」を避けるため、ほぼ奥宮にいると聞いていたからだ。
そうして、そっと鍵を開け、その部屋へ入った。
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