196 / 488
第三章 第三部 政争の裏側
10 夢見
しおりを挟む
王宮から前国王捜索を命じられたキリエはすぐさま宮を閉鎖し、
「不審な者、不審なことがないか調べなさい」
と、前国王が行方不明との内容は伏せて侍女と衛士たちに命じた。
衛士は即座にルギの指示の元、非番の者まで全員駆り出され、宮の入れるだけの区域は隅々まで何かがないかを探す。
衛士たちが入れない奥宮をはじめとする場所では、キリエ自らが信頼できる侍女たちを率いて捜索を行うことになる。
「宮に不審者が忍び込んだかも知れない、それを調べよと王宮からの命が参りました」
「えっ?」
自分の言葉にマユリアが少し動揺を見せたようにキリエには見えた。
それは宮に不審者が入り込んだと聞けばそのような反応もあっておかしくはないが、いつもと少し何かが違うように感じたのだ。マユリアが生まれる前から見守り続けているキリエから見ても、ほんの些細な違和感ではあったが、それにしても初めての反応のように思えた。
「何かご心配なことでもおありでしょうか」
「いえ、特に何も」
マユリアはトーヤが忍び込んだことがバレたのではないかと思ったのだ。
少し早く打つ心臓の鼓動を押さえ、できるだけ落ち着いた口調で尋ねる。
「それよりも、その不審者とは一体何者なのです? そんなことが今までこの宮で起きたことはありませんが」
「おっしゃる通りです」
キリエは王宮からの命令の内容をマユリアに告げた。
「では、前国王様が姿を消されたということですか」
「はい。まだあまり問題を大きくしたくはないということで、捜索する相手は伏せて調査するようにとのことでした」
「そうでしたか」
マユリアはトーヤのことではなかったことにホッとする。
その一連の様子にキリエはやはり違和感を感じた。
「あの」
「なんですか」
「もしかして、お体の具合がお悪いのでは」
「え?」
「いえ、なんだか少しご様子が違うように感じたものですから」
「そうですか?」
やはりキリエの目はごまかせないとマユリアは観念する。
「実は、少しばかり夢見が悪かったのです。そこへ不審者との知らせ、少しばかりドキリとしたようです」
「さようでしたか」
キリエは少しホッとしたが、それだけで終わらせるわけにはいかない事態であるとも判断をした。
「マユリアのご覧になる夢はただの夢ではない可能性がございます。内容をお話しいただけますか」
「まあ」
マユリアは言ってしまったことに少しばかり苦笑をする。確かに夢見は良くはなかったのだが、それを口にするつもりもなかったからだ。
「言うほどのことではないのですが」
「おそれいります」
キリエは引くつもりはないようだった。
「分かりました。でも本当に些細な夢なのです」
「はい」
「トーヤがこの部屋に来ました」
「え?」
「夢の話です」
マユリアは笑って見せる。
「わたくしに、交代の後どうしたいのかと聞きました」
「さようですか……」
「わたくしがどう答えようかと迷っている間に目が覚めました。それだけのことです」
本当のことであった。
昨日、トーヤがいきなり今いるここ、応接室に現れて「どうしたいのか」と聞いてきた。その夜、今話したような内容の夢を見たのだ。
「あの、それが良くない夢見であったのでしょうか」
「ええ」
もう一度マユリアがほころぶように笑う。
「どうしたいのかを答えられなかったのですから。もしもきちんと答えられていたらどうなっていたのか、そう考えると少しばかり心が重かったのです」
「さようでしたか」
キリエは納得をしたようだった。
なぜキリエやルギに話してはいけないのかは聞けなかったが、トーヤはわざわざ釘を刺していったのだ、それなりの理由があるのだろう。話してよくなったら言うと言っていたのだから、それまでは約束を守らなければならない。
「トーヤのことです、きっとマユリアのことを気にかけてくれているはずです。そのせいかも知れません」
「そうですね」
「ですから、きっとここにも来るでしょう。その時にきちんとお答えになられたら、何も問題はないかと思います」
「そうですか」
マユリアは心が軽くなったように感じた。
トーヤが帰った後、夢は叶わぬこともあるのだと胸苦しい思いを感じたことが、キリエの一言で晴れたようだった。
夢とは違い、現実のマユリアはきちんと自分の意思をトーヤに伝えた。ではきっと良い方向に進んでくれるはずだ。そう思うと安心できた。マユリアはトーヤを信じているとあらためて思った。
「そうですね、トーヤならきっとわたくしの夢を叶えてくれるでしょうね」
「ええ、そう思います。ですから、少しお休みになられてはいかがでしょう。部屋の警備はいつもより厳重にさせますので、どうぞお気を楽になさってください」
きっと前国王のこと言っているのだろうとマユリアは思った。
「国王であらせられたお方、決してそこまで無茶なことはなさらないだろうとは思いますが、マユリアのお身の回りは念のため、これまで以上にしっかりとお守りいたします。ですから、ご安心ください」
「キリエ、ありがとう」
前国王がトーヤのようにいきなりこの部屋に現れてマユリアに触れる、連れ出す、などということはなかろうが、それでもいつもより注意を払うにこしたことはないだろう。
「不審な者、不審なことがないか調べなさい」
と、前国王が行方不明との内容は伏せて侍女と衛士たちに命じた。
衛士は即座にルギの指示の元、非番の者まで全員駆り出され、宮の入れるだけの区域は隅々まで何かがないかを探す。
衛士たちが入れない奥宮をはじめとする場所では、キリエ自らが信頼できる侍女たちを率いて捜索を行うことになる。
「宮に不審者が忍び込んだかも知れない、それを調べよと王宮からの命が参りました」
「えっ?」
自分の言葉にマユリアが少し動揺を見せたようにキリエには見えた。
それは宮に不審者が入り込んだと聞けばそのような反応もあっておかしくはないが、いつもと少し何かが違うように感じたのだ。マユリアが生まれる前から見守り続けているキリエから見ても、ほんの些細な違和感ではあったが、それにしても初めての反応のように思えた。
「何かご心配なことでもおありでしょうか」
「いえ、特に何も」
マユリアはトーヤが忍び込んだことがバレたのではないかと思ったのだ。
少し早く打つ心臓の鼓動を押さえ、できるだけ落ち着いた口調で尋ねる。
「それよりも、その不審者とは一体何者なのです? そんなことが今までこの宮で起きたことはありませんが」
「おっしゃる通りです」
キリエは王宮からの命令の内容をマユリアに告げた。
「では、前国王様が姿を消されたということですか」
「はい。まだあまり問題を大きくしたくはないということで、捜索する相手は伏せて調査するようにとのことでした」
「そうでしたか」
マユリアはトーヤのことではなかったことにホッとする。
その一連の様子にキリエはやはり違和感を感じた。
「あの」
「なんですか」
「もしかして、お体の具合がお悪いのでは」
「え?」
「いえ、なんだか少しご様子が違うように感じたものですから」
「そうですか?」
やはりキリエの目はごまかせないとマユリアは観念する。
「実は、少しばかり夢見が悪かったのです。そこへ不審者との知らせ、少しばかりドキリとしたようです」
「さようでしたか」
キリエは少しホッとしたが、それだけで終わらせるわけにはいかない事態であるとも判断をした。
「マユリアのご覧になる夢はただの夢ではない可能性がございます。内容をお話しいただけますか」
「まあ」
マユリアは言ってしまったことに少しばかり苦笑をする。確かに夢見は良くはなかったのだが、それを口にするつもりもなかったからだ。
「言うほどのことではないのですが」
「おそれいります」
キリエは引くつもりはないようだった。
「分かりました。でも本当に些細な夢なのです」
「はい」
「トーヤがこの部屋に来ました」
「え?」
「夢の話です」
マユリアは笑って見せる。
「わたくしに、交代の後どうしたいのかと聞きました」
「さようですか……」
「わたくしがどう答えようかと迷っている間に目が覚めました。それだけのことです」
本当のことであった。
昨日、トーヤがいきなり今いるここ、応接室に現れて「どうしたいのか」と聞いてきた。その夜、今話したような内容の夢を見たのだ。
「あの、それが良くない夢見であったのでしょうか」
「ええ」
もう一度マユリアがほころぶように笑う。
「どうしたいのかを答えられなかったのですから。もしもきちんと答えられていたらどうなっていたのか、そう考えると少しばかり心が重かったのです」
「さようでしたか」
キリエは納得をしたようだった。
なぜキリエやルギに話してはいけないのかは聞けなかったが、トーヤはわざわざ釘を刺していったのだ、それなりの理由があるのだろう。話してよくなったら言うと言っていたのだから、それまでは約束を守らなければならない。
「トーヤのことです、きっとマユリアのことを気にかけてくれているはずです。そのせいかも知れません」
「そうですね」
「ですから、きっとここにも来るでしょう。その時にきちんとお答えになられたら、何も問題はないかと思います」
「そうですか」
マユリアは心が軽くなったように感じた。
トーヤが帰った後、夢は叶わぬこともあるのだと胸苦しい思いを感じたことが、キリエの一言で晴れたようだった。
夢とは違い、現実のマユリアはきちんと自分の意思をトーヤに伝えた。ではきっと良い方向に進んでくれるはずだ。そう思うと安心できた。マユリアはトーヤを信じているとあらためて思った。
「そうですね、トーヤならきっとわたくしの夢を叶えてくれるでしょうね」
「ええ、そう思います。ですから、少しお休みになられてはいかがでしょう。部屋の警備はいつもより厳重にさせますので、どうぞお気を楽になさってください」
きっと前国王のこと言っているのだろうとマユリアは思った。
「国王であらせられたお方、決してそこまで無茶なことはなさらないだろうとは思いますが、マユリアのお身の回りは念のため、これまで以上にしっかりとお守りいたします。ですから、ご安心ください」
「キリエ、ありがとう」
前国王がトーヤのようにいきなりこの部屋に現れてマユリアに触れる、連れ出す、などということはなかろうが、それでもいつもより注意を払うにこしたことはないだろう。
0
あなたにおすすめの小説
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤
凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。
幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。
でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです!
ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?
幸せな政略結婚のススメ【本編完結】
ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」
「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」
家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。
お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが?
スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに?
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・11/21ヒーローのタグを変更しました。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる