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第四章 第三部
2 復権の助け手
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「お喜びください、もうすぐこの窮屈な場所から出してさしあげられそうですよ」
客室から出て神官長は私室へと戻ると、そこにいた前国王ににこやかにそう報告する。誰も入らないように命じているということで、前国王は神官長の私室の一番奥の寝室でひっそりと身を潜めていた。
「なんだと」
「ですから、もうすぐ外に出して差し上げられます」
前国王は神官長の返事を聞いても不愉快そうな顔を崩さない。
「お気に召しませんか? まさか、ずっとここにいらっしゃりたいというわけでは」
「そんなはずがあるまい」
前国王は少しかすれた声で吐き捨てるようにそう言った。
「ではお喜びください、自由になれるのですよ?」
「自由だと……」
前国王は神官長が何を言っても不信感を隠さず、警戒しながら一言一言確かめるように言葉を発している。
「ええ、この窮屈な部屋から出られるのです、自由だとは思いませんか?」
「何を考えている」
「この国の明るい未来のことを」
神官長がにこやかにそう答え、前国王の顔はますます不愉快さを増す。だが結局のところ、選べる道は一つだけなのだと、仕方なく神官長にこの先のことを聞いた。
「それで、どうすればいいのだ」
「はい」
神官長は前国王が大人しくそう聞いてきたの話を続ける。
「その前に、一つだけお約束していただきたいのです」
「何をだ」
「私があなた様をお助けしたことは秘密にしていただきたい」
前国王がそれまでそむけていた視線をゆっくりと神官長に移動し、
「助けた、だと?」
と鋭い目つきで言う。
「はい、お助けいたしました」
「あのような方法でか」
前国王はギロリと神官長を睨みつけた。
「あのような方法とは?」
「あのような非情な方法のことだ」
元王宮侍女のことを言っているのだ。
「非情でしたか?」
「非情であろう」
「あれがあの者の望みでした。本人もそう言って感謝していたと思うのですが」
あれから何度かあの元王宮侍女のことについて同じような話を繰り返している。そしてやはり同じ流れになるしかない。
「では、どうすればよかったと思います。あの者を絶望させたまま、弟の元王宮衛士のように、人から見えぬ草むらで絶命させればよかった、そうおっしゃいますか? もちろん私も何度も考え直すようにと諭しました。最後の最後まで考えを変えさせようと、引き伸ばすために、新しい国王陛下に異議を申し立てることができるかも知れない、そう言って引き止めていたのです。それでもあの者はあの道を選んだのです。それでも私を非情とおっしゃいますか?」
そこまで言われてしまうともうそれ以上話が進まなくなる。
「もうよい。それで、私は一体どうすればいいのだ」
「はい」
そうだ、どうこう言ってもあなたは結局はこの話に乗るしかないのだ。
そうだ、よく分かっているはずだ、お分かりでしょう。
神官長が満足そうに話を続ける。
「今、宮にバンハ公爵家のヌオリ様、セウラー伯爵家のライネン様など、名家のご子息方が滞在しておられます」
「バンハ公爵家だと」
前国王が気にいらないという言い方でその名を口にする。
「ええ、あの、あなた様がご譲位なさったと聞き、逃げるように王宮を去った、あのバンハ公爵とセウラー伯爵のご子息です」
そうなのだ。王宮の鐘がなったあの時、王宮にいた前国王の取り巻きの貴族たちは、そのまま留まると新国王からなんらかの罪に問われるのではないかと大慌てで自分の屋敷へと飛んで帰り、中には遠い領地まで逃げ去った者もあった。誰一人として国王を救い出そうと動く者はいなかったのだ。
無言のまま前国王のこめかみに血管が浮かび出ていた。思い出すだけでも火を吐きそうなほど胸の中に怒りが燃え上がる。
「まあ、役立たずの親のことは忘れてしまわれるといいでしょう。町に流れた噂を聞き、そのご子息たちが王宮に日参し、あなた様に会わせろと言い続けています」
「なんだと」
「親のあまりに情けない姿に、我らこそがこの国の真の国王を救うのだ、そう思ってらっしゃるようですよ」
「…………」
前国王は黙ったまま少し考え、そしてまとめたことを口から出した。
「つまり、息子の隣で大きな顔をしているラキム伯爵やジート伯爵を引きずり降ろし、腰抜けの親父ではなく自分たちこそが国王の取り巻きとして返り咲きたい、そういうことだな」
神官長は国王の言葉を聞いて思わず声を出して笑った。
「いや、失礼、あまり大きな声を出して神官たちに聞こえてはいけませんな……」
前国王は神官長が笑ったことすら不愉快であるという顔で憮然として黙り込んだ。
「まあ、それほど皮肉な言い方をなさいますな。若い者たちは若い者たちで色々と考えているのですよ。そのおかげであなた様は『助け手』を得たのですから」
神官長があえて「助け手」という言葉を使った。
神官長の計画のためにヌオリたちはまさに神が遣わせた「助け手」であると思ったからだ。
「欲得ずくだとしても、少なくともあの方たちは心よりあなた様の復権を望んでいらっしゃると思いますよ。いかがなさいます? 助けさせてさしあげますか? それともご自分一人でどうにかなさいますか?」
考えるまでもないことだった。
客室から出て神官長は私室へと戻ると、そこにいた前国王ににこやかにそう報告する。誰も入らないように命じているということで、前国王は神官長の私室の一番奥の寝室でひっそりと身を潜めていた。
「なんだと」
「ですから、もうすぐ外に出して差し上げられます」
前国王は神官長の返事を聞いても不愉快そうな顔を崩さない。
「お気に召しませんか? まさか、ずっとここにいらっしゃりたいというわけでは」
「そんなはずがあるまい」
前国王は少しかすれた声で吐き捨てるようにそう言った。
「ではお喜びください、自由になれるのですよ?」
「自由だと……」
前国王は神官長が何を言っても不信感を隠さず、警戒しながら一言一言確かめるように言葉を発している。
「ええ、この窮屈な部屋から出られるのです、自由だとは思いませんか?」
「何を考えている」
「この国の明るい未来のことを」
神官長がにこやかにそう答え、前国王の顔はますます不愉快さを増す。だが結局のところ、選べる道は一つだけなのだと、仕方なく神官長にこの先のことを聞いた。
「それで、どうすればいいのだ」
「はい」
神官長は前国王が大人しくそう聞いてきたの話を続ける。
「その前に、一つだけお約束していただきたいのです」
「何をだ」
「私があなた様をお助けしたことは秘密にしていただきたい」
前国王がそれまでそむけていた視線をゆっくりと神官長に移動し、
「助けた、だと?」
と鋭い目つきで言う。
「はい、お助けいたしました」
「あのような方法でか」
前国王はギロリと神官長を睨みつけた。
「あのような方法とは?」
「あのような非情な方法のことだ」
元王宮侍女のことを言っているのだ。
「非情でしたか?」
「非情であろう」
「あれがあの者の望みでした。本人もそう言って感謝していたと思うのですが」
あれから何度かあの元王宮侍女のことについて同じような話を繰り返している。そしてやはり同じ流れになるしかない。
「では、どうすればよかったと思います。あの者を絶望させたまま、弟の元王宮衛士のように、人から見えぬ草むらで絶命させればよかった、そうおっしゃいますか? もちろん私も何度も考え直すようにと諭しました。最後の最後まで考えを変えさせようと、引き伸ばすために、新しい国王陛下に異議を申し立てることができるかも知れない、そう言って引き止めていたのです。それでもあの者はあの道を選んだのです。それでも私を非情とおっしゃいますか?」
そこまで言われてしまうともうそれ以上話が進まなくなる。
「もうよい。それで、私は一体どうすればいいのだ」
「はい」
そうだ、どうこう言ってもあなたは結局はこの話に乗るしかないのだ。
そうだ、よく分かっているはずだ、お分かりでしょう。
神官長が満足そうに話を続ける。
「今、宮にバンハ公爵家のヌオリ様、セウラー伯爵家のライネン様など、名家のご子息方が滞在しておられます」
「バンハ公爵家だと」
前国王が気にいらないという言い方でその名を口にする。
「ええ、あの、あなた様がご譲位なさったと聞き、逃げるように王宮を去った、あのバンハ公爵とセウラー伯爵のご子息です」
そうなのだ。王宮の鐘がなったあの時、王宮にいた前国王の取り巻きの貴族たちは、そのまま留まると新国王からなんらかの罪に問われるのではないかと大慌てで自分の屋敷へと飛んで帰り、中には遠い領地まで逃げ去った者もあった。誰一人として国王を救い出そうと動く者はいなかったのだ。
無言のまま前国王のこめかみに血管が浮かび出ていた。思い出すだけでも火を吐きそうなほど胸の中に怒りが燃え上がる。
「まあ、役立たずの親のことは忘れてしまわれるといいでしょう。町に流れた噂を聞き、そのご子息たちが王宮に日参し、あなた様に会わせろと言い続けています」
「なんだと」
「親のあまりに情けない姿に、我らこそがこの国の真の国王を救うのだ、そう思ってらっしゃるようですよ」
「…………」
前国王は黙ったまま少し考え、そしてまとめたことを口から出した。
「つまり、息子の隣で大きな顔をしているラキム伯爵やジート伯爵を引きずり降ろし、腰抜けの親父ではなく自分たちこそが国王の取り巻きとして返り咲きたい、そういうことだな」
神官長は国王の言葉を聞いて思わず声を出して笑った。
「いや、失礼、あまり大きな声を出して神官たちに聞こえてはいけませんな……」
前国王は神官長が笑ったことすら不愉快であるという顔で憮然として黙り込んだ。
「まあ、それほど皮肉な言い方をなさいますな。若い者たちは若い者たちで色々と考えているのですよ。そのおかげであなた様は『助け手』を得たのですから」
神官長があえて「助け手」という言葉を使った。
神官長の計画のためにヌオリたちはまさに神が遣わせた「助け手」であると思ったからだ。
「欲得ずくだとしても、少なくともあの方たちは心よりあなた様の復権を望んでいらっしゃると思いますよ。いかがなさいます? 助けさせてさしあげますか? それともご自分一人でどうにかなさいますか?」
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