黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第四章 第三部

22 困った二人

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「ほんとにつらそうですよ、あの、俺のベッドでよかったら横になってください」

 アランがミーヤの顔色を見て心配そうにそう言った。

「いえ、大丈夫です、ご心配をおかけしました」

 ミーヤはアランの申し出を固辞し、椅子に座ったまま動かない。

「フェイちゃんと特別に仲がよかったからなあ、ミーヤは……」

 ダルのつぶやきが聞こえてきた。

「そうだったよなあ、本当の姉妹みたいだったもんな」

 ダリオもそう言う。

「ほら、やっぱりちょっと堪えてるんですよ、横になってください」

 もう一度アランが心配そうにそう声をかけた。

「いえ、本当に、もう大丈夫ですから」

 ミーヤはそう言って、逆に立ち上がろうとする。

「ほんっとに侍女ってのは融通が利かなくて困るよな」

 イライラしたようなトーヤの声が聞こえ、ダルもダリオもアランも驚いてそちらを見る。

「いっつも思ってたんだがな、なーんで立ったまま話聞いてんだよ。ここは宮じゃねえし、宮だったとしても部屋の中と一緒だ。座るなり寝っころがるなり、聞きやすいように聞きゃいいだろうが。それを無理してつっぱって、立ったまま聞いてようとするから気分が悪くなるんだよ」

 「侍女」と言ってはいるが、明らかにミーヤに向けられた言葉であった。

「分かったら、とっとと寝るなりなんなりして、楽に話を聞いとけ!」

 イラついたように、ぶつけるようにトーヤがそう言って、プイッと横を向いてしまった。

「大丈夫ですから!」

 ミーヤがムカッとしたようにそう言うと立ち上がり、

「失礼いたしました、どうぞ続けてください」

 そう言って皆に頭を下げた。

「ミーヤ様……」

 アーダが横でおろおろしている。
 アランも手を貸していいのかどうかという表情だ。

 他の者もみんな、どうしたものかという顔をしている。
 ここが、不思議な空間で、不思議な光に不思議な話を聞いていることを、すっかり忘れてしまったかのようだ。

「まあ、ミーヤも疲れたらその時また座ればいいし、とにかく話を続けようよ。ね?」

 いつものように能天気な声がした。

 トーヤはその声にもイラッとしたようで、こちらは緊張のきの字もないように、床にべったりと座り込んだシャンタルをにらみつける。

「トーヤも座ったら? そう言ってた本人が立ちくらみしたりしたら、その方がおかしいよ」

 と、シャンタルがさらにすましてそう言った。

「そ、そうだな。とりあえず座ろうぜ!」

 ベルがすっくと立ち上がり、トーヤの手を持って、

「さ、座ろう座ろう」

 と、引っ張って座らせ、

「ミーヤさんも無理せず座った方がいいよ。兄貴、ミーヤさん頼んだぜ」
「あ、ああ」

 アランにそう声をかけると、トーヤがそれを気にいらなげにアランにきつい視線を向けた。

「あ!」
 
 その瞬間、ベルには分かってしまった。

「あっちゃあ……」

 しまった、という風に両手で頭を抱える。

「ん、どうしたの?」

 シャンタルがベルに声をかけるが、

「いや。なんでもねえ、続けてくれ」

 と、雑談でも止めてしまったかのように、ベルが続きを促す。

「そうなの? じゃあ続けてくれますか?」

 それをまた当然のようにシャンタルが受け流し、光にどうぞとばかりに声をかけた。

(おれ、分かっちまった……)

 ベルは勘がいい。
 時には予言と思えるぐらい、ピタリと物事を当てることすらある。

 その勘が告げていた。
 この二人がどうしてこんな様子なのかを。

(ほんっとに困った二人だよなあ……)

 ベルにはミーヤが具合が悪くなった理由が分かってしまった。

(ミーヤさん、おれたちにヤキモチ焼いたんだ)

 今まではトーヤと自分たちがいつもの調子でやり取りするのを、微笑ましそうに、楽しそうに見ていたので、ミーヤにはそんな感情などないように思ってしまっていた。

(けど違ったんだ、ミーヤさんも普通の人間だったんだよな)

 自分がフェイに対して抱いたような感情を、なぜか急にミーヤは自分たち、もしかすると自分に抱いてしまったのだろう。

(そんで、それにショック受けてんだよなあ、多分)

 その通りであった。
 ミーヤは自分の内側のもやもやする感情に、フェイへのつらい悲しい、そして愛しい思いが相混ぜになり、神経が疲弊してしまっていた。

(今日、トーヤがなーんか機嫌悪かったのは、あれは昨日おっかさんに言われたことのせいだよな)

 その通りであった。
 ナスタに言われたこと、ミーヤが待っていてくれたんだろうというあの言葉、あれにかなり堪えてるんだな、と推測した。

(もしかしたら、あの後でばあちゃんにもなんか言われたのかもしんねえなあ)

 その通りであった。
 ナスタに言われた言葉に戸惑うトーヤは、今度はディナに、人と人との関係は一つではない、無理にくっつけようとして壊れることもある、そう言われた。ベルはその後で席を立ったので聞いてはいなかったが、その何かにきっともっと堪えたんだろう、と推測をした。

(トーヤがトーヤなら、ミーヤさんもミーヤさんだよなあ)

 そう長くはない付き合いの中、ベルはミーヤの性格に、かなり気づいていた。
 いつもは柔らかく、何に対しても穏やかだが、その本質はかなりの頑固者だ。

(ほんっとに困った二人だよなあ)

 ベルはもう一度そう思って、大きく一つため息をついた。
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