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第四章 第四部
14 先代の行方
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「お久しぶりでございます」
トーヤたちが不思議な空間に4度目の召喚をされていた頃、宮では神官長がマユリアに面会をしていた。
「どのような用でしょう」
マユリアは見た目はいつもと変わらず、淡々と神官長に向かい合っていたが、内心ではあまり愉快には思っていなかった。またあの話であろう、そう思うとそんな心持ちにもなろうというものだ。
「はい、何度も同じことを申し上げに来るのは大変心苦しいのですが」
ああ、やはりそのことか。
マユリアは美しい顔に薄く疲れを浮かべた。
「ではこちらも何度も申し上げております。わたくしは人の身に戻った折には、両親と――」
「分かっております!」
神官長は失礼にも、マユリアの言葉を途中でそう言って止めると、
「分かっております。もちろんそのことではあるのですが、今回は少しばかり違いまして」
と、続けた。
「違う?」
「はい」
マユリアもさすがにこの言い方が少し気になったようだ。
「はい」
神官長が満面の笑みで続ける。
「此度は女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻についてのお話です」
マユリアの美しい顔が一瞬にして冷ややかな表情を浮かべる。
「そのお話ではないと言いませんでしたか?」
「はい、違うのです」
神官長は堂々と胸を張ってそう答えた。
「そうですか。ではどう違うのか伺います」
マユリアはそう言うと、優雅に椅子に座り直した。
「ありがとうございます」
神官長は立ち上がって丁寧に頭を下げると、こちらもゆっくりと椅子に腰を掛け直した。
「私が申し上げましたのは、女神マユリアとシャンタリオ国王との婚姻についてです」
マユリアは返事をせずに黙って聞いている。
「これまでお考えいただきたいと申し上げておりましたのは、あなた様、当代マユリアにシャンタリオの当代国王陛下へのお輿入れをお考え下さい、そういうことだったと思います」
マユリアは神官長の言葉の意味をゆっくりと考えているようだった。
「ええ、確かにそう伺っていたように思います」
マユリアは一言ずつ、警戒するようにそう答えた。
「此度は違うのです」
神官長もゆっくりと、噛み砕くようにマユリアに説明をする。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、です」
マユリアが美しい顔に疑念を浮かべながら、じっと神官長の顔を見つめた。
その視線に、さすがの神官長にも少しばかり緊張の影がよぎる。
「説明をしてもらえますか?」
「は、はい」
思わず神官長の声が上ずる。
俗世のことから離れた身、一生を神に捧げると誓いを立てた身ではあるものの、天上の美に正面から見つめられると、やはり心臓がドキドキというのを止めることはできなかった。
「今の民の様子をご存知でありましょうか?」
「民の様子? 何があったのです」
「いえ、今はまだ、起きてはおりません」
その会話の内容に、神官長は少し落ち着きを取り戻した。
「今はまだ」と、あえてこの先に起こることであると匂わせる。
「ですが、このままでは確実に起こります」
「一体何が起こると言うのです」
「はい」
神官長は少し言葉を置いてから、
「暴動や反乱、もしかすると戦の可能性も。そんな、この国では今まで起こったことがないことが、でございます」
マユリアがその神官長の言葉に息を飲む。
「……何故、そのようなことが起きねばならないのです……」
想像もしなかった言葉を耳にして、さすがにマユリアが言葉を詰まらせる。
「落ち着いてください」
神官長が優位に立ったようにマユリアにそう言った。
この女神が動揺を見せるということはついぞなかったことだ。
少しばかり鉄壁の心の壁を動かせた、神官長はそんな気持ちになっていた。
「あなた様もご存知でいらっしゃいましょう、このシャンタリオに今起こっている、あらゆる出来事のことを。この二千年の安寧の年月を覆すような、不穏な事々を」
マユリアは変わらぬ様子を見せてはいるが、その心の中には少なからず風が吹き荒れている。
「何を言っているのか、わたくしには分かりません」
マユリアは少しきつい目をして神官長にぴしりとそう言った。
「いえ、ご存知のはずです。八年前のあの出来事、先代シャンタルを聖なる湖にお沈めしたあの時のことを」
「確かにあれは悲しい出来事ではありましたが、託宣にもあったこと。それゆえ、先代のお言葉の通り、ご用意なさっていた棺にお納めし、湖におかえりいただいたのです。それがなぜ今になって、そのように民に不安を与えていると言うのです」
マユリアは先ほどの少しばかりの動揺をすっかり包み隠し、いつもの様子で疑問をそう口にした。
「本当に先代は聖なる湖におかえりになったのでしょうか?」
「え?」
「先代は本当はどこにいらっしゃるのでしょう」
マユリアは黙ったまま静かに神官長を見つめた。
「私は先代は湖にはいらっしゃらない、そう思っております」
マユリアはその言葉を聞くと、やっと口を開いた。
「いいでしょう。あなたの言う通り、先代が湖にはいらっしゃらない、そのことが事実だとして、それがどうして反乱や暴動、挙げ句には戦に通じるのか、それを説明してください」
神官長はその言葉を聞き、
「いやはや、やはり一筋縄でいく方ではない」
そう言ってうれしそうに笑った。
トーヤたちが不思議な空間に4度目の召喚をされていた頃、宮では神官長がマユリアに面会をしていた。
「どのような用でしょう」
マユリアは見た目はいつもと変わらず、淡々と神官長に向かい合っていたが、内心ではあまり愉快には思っていなかった。またあの話であろう、そう思うとそんな心持ちにもなろうというものだ。
「はい、何度も同じことを申し上げに来るのは大変心苦しいのですが」
ああ、やはりそのことか。
マユリアは美しい顔に薄く疲れを浮かべた。
「ではこちらも何度も申し上げております。わたくしは人の身に戻った折には、両親と――」
「分かっております!」
神官長は失礼にも、マユリアの言葉を途中でそう言って止めると、
「分かっております。もちろんそのことではあるのですが、今回は少しばかり違いまして」
と、続けた。
「違う?」
「はい」
マユリアもさすがにこの言い方が少し気になったようだ。
「はい」
神官長が満面の笑みで続ける。
「此度は女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻についてのお話です」
マユリアの美しい顔が一瞬にして冷ややかな表情を浮かべる。
「そのお話ではないと言いませんでしたか?」
「はい、違うのです」
神官長は堂々と胸を張ってそう答えた。
「そうですか。ではどう違うのか伺います」
マユリアはそう言うと、優雅に椅子に座り直した。
「ありがとうございます」
神官長は立ち上がって丁寧に頭を下げると、こちらもゆっくりと椅子に腰を掛け直した。
「私が申し上げましたのは、女神マユリアとシャンタリオ国王との婚姻についてです」
マユリアは返事をせずに黙って聞いている。
「これまでお考えいただきたいと申し上げておりましたのは、あなた様、当代マユリアにシャンタリオの当代国王陛下へのお輿入れをお考え下さい、そういうことだったと思います」
マユリアは神官長の言葉の意味をゆっくりと考えているようだった。
「ええ、確かにそう伺っていたように思います」
マユリアは一言ずつ、警戒するようにそう答えた。
「此度は違うのです」
神官長もゆっくりと、噛み砕くようにマユリアに説明をする。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、です」
マユリアが美しい顔に疑念を浮かべながら、じっと神官長の顔を見つめた。
その視線に、さすがの神官長にも少しばかり緊張の影がよぎる。
「説明をしてもらえますか?」
「は、はい」
思わず神官長の声が上ずる。
俗世のことから離れた身、一生を神に捧げると誓いを立てた身ではあるものの、天上の美に正面から見つめられると、やはり心臓がドキドキというのを止めることはできなかった。
「今の民の様子をご存知でありましょうか?」
「民の様子? 何があったのです」
「いえ、今はまだ、起きてはおりません」
その会話の内容に、神官長は少し落ち着きを取り戻した。
「今はまだ」と、あえてこの先に起こることであると匂わせる。
「ですが、このままでは確実に起こります」
「一体何が起こると言うのです」
「はい」
神官長は少し言葉を置いてから、
「暴動や反乱、もしかすると戦の可能性も。そんな、この国では今まで起こったことがないことが、でございます」
マユリアがその神官長の言葉に息を飲む。
「……何故、そのようなことが起きねばならないのです……」
想像もしなかった言葉を耳にして、さすがにマユリアが言葉を詰まらせる。
「落ち着いてください」
神官長が優位に立ったようにマユリアにそう言った。
この女神が動揺を見せるということはついぞなかったことだ。
少しばかり鉄壁の心の壁を動かせた、神官長はそんな気持ちになっていた。
「あなた様もご存知でいらっしゃいましょう、このシャンタリオに今起こっている、あらゆる出来事のことを。この二千年の安寧の年月を覆すような、不穏な事々を」
マユリアは変わらぬ様子を見せてはいるが、その心の中には少なからず風が吹き荒れている。
「何を言っているのか、わたくしには分かりません」
マユリアは少しきつい目をして神官長にぴしりとそう言った。
「いえ、ご存知のはずです。八年前のあの出来事、先代シャンタルを聖なる湖にお沈めしたあの時のことを」
「確かにあれは悲しい出来事ではありましたが、託宣にもあったこと。それゆえ、先代のお言葉の通り、ご用意なさっていた棺にお納めし、湖におかえりいただいたのです。それがなぜ今になって、そのように民に不安を与えていると言うのです」
マユリアは先ほどの少しばかりの動揺をすっかり包み隠し、いつもの様子で疑問をそう口にした。
「本当に先代は聖なる湖におかえりになったのでしょうか?」
「え?」
「先代は本当はどこにいらっしゃるのでしょう」
マユリアは黙ったまま静かに神官長を見つめた。
「私は先代は湖にはいらっしゃらない、そう思っております」
マユリアはその言葉を聞くと、やっと口を開いた。
「いいでしょう。あなたの言う通り、先代が湖にはいらっしゃらない、そのことが事実だとして、それがどうして反乱や暴動、挙げ句には戦に通じるのか、それを説明してください」
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そう言ってうれしそうに笑った。
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