316 / 488
第四章 第四部
20 王家の血
しおりを挟む
神官長はそう言い切ると、マユリアの顔をじっと見上げた。
高い位置に背筋を伸ばして座っているマユリアと、低い位置から熱を入れて話している間に前のめりになっていた神官長。視線の高さにより高低差ができていた。
神官長は下から期待に満ちた目を女神に向ける。
マユリアは少し伏せ気味の視線を上からゆっくりと投げた。
「それで、その話をルギにしたのですか。ルギの気持ちがよく分かる気がします」
その視線には哀れみが含まれている。
「いえ、ルギ隊長にはここまでの話をしてはおりません」
「では、ルギに何を話したのです」
そう聞いて神官長は小さく含み笑いをした。
「気になられますか、私がルギ隊長にどのような話をしたのかが」
「ええ、同じ話をしたものだとばかり思っていましたから」
「隊長にはここまで詳しい話はしておりません。ただ、本当の女神の国を作りたいとだけ。それには隊長も納得しておられたと思います」
「ルギがですか?」
マユリアはその言葉を信じてはいないようだった。
「まあ、いいでしょう。後ほどルギに何を聞いたのかを尋ねてみます。それで、神官長はその方法が一番いい方策だ、そう言うのですね」
「はい」
「そうですか」
マユリアはそれを是とも非とも言わず、神官長の言葉を聞いた、という形の返事をした。
「話はそれで終わりですか?」
「いえ、ここからが始まりの話です」
神官長の言葉にマユリアは少しだけ首を傾け、
「分かりました。約束です、続きがあるというのなら聞きましょう。ですが、できるだけ早くお願い致します。わたくしにもやらねばならぬことがあるので」
と、静かに答えた。
「はい、ありがとうございます」
神官長は頭を下げようとして、やめて、
「では、どうしてそうなるとマユリアの地位が高いということを分からせることができるかですが、それは、そのような国の者は、相手の地位の高さを王家との関わりでしか見ることができないからです」
「そうなのですか」
マユリアはあまり興味がなさそうに神官長には見えた。
「はい。例えば西の大国アルディナ王国においては、アルディナ神殿の大神官、聖神官は非常に地位が高うございますが、それはその役職に就くのが王家の人間だからでございます」
「そうなのですか」
光の女神アルディナの作りし光の王国アルディナ、そこの神殿の話だけに、多少の興味を引いたようだと神官長は考えた。
「はい。大神官と聖神官、それぞれに男性と女性がその地位に就きますが、女性の方は必ず王家の血を引く女性と決まっているのです。ちなみに今は大神官が現在の国王の王女、聖神官がその大叔父であったと記憶しております」
「本当に色々とよく知っていますね」
マユリアは神官長の博学に驚いているようだった。
「ありがとうございます。ですが、あちらの情報がこちらに届くまでに時間がかかりますもので、あくまでも、私が知った最新の情報ということで、その後に交代がありましたら、他の方に変わっている可能性もございます」
神官長は正直に自分の知識の限界を伝えた。
「大神官には女性が、聖神官には男性が就かれるということですか」
やはりマユリアの興味を引いた。神官長は満足する。
「いえ、大神官の方が地位が高く、男性、女性、どちらがその任にあたるのかは、その時の人次第のようです。能力の高い方が大神官職に就かれるとか」
「そうなのですか」
マユリアは素直に関心をしている。
「はい。ですが、そのように尊ばれるのは、やはり王家の血族だからです」
「そうなのですね」
少しはお分かりいただけたようだと神官長は思った。
「今の大神官、アルディナ王女はまことに徳高く、素晴らしい方だそうです。ですがそれも、王女であるがゆえのこと、王家の一員だからこそ、そう認めてもらえるのです。もしもこの方が市井の者であったなら、とてもそのような高位の職に就けることはなく、なれたとしても、町の神殿の神官か、神官学校の教師までだとの話です」
「そうなのですか」
代々のシャンタルは血筋で選ばれるわけではない。よって、もちろんマユリアも自然とそうなる。貧しい家の者もあれば、王家の出身の者もいる。ただ託宣によって先代が次のシャンタルを見つける。みな平等に神によって指名される。それを二千年の間繰り返してきたシャンタリオにおいては、それはなかなかに理解しにくい事柄であった。
おそらくマユリアにも頭では理解出来ても、心では理解出来てはいないだろうと神官長は考えていた。
「きっとお分かりになりにくいと思います」
「ええ。知識としてそうなのかとは思えても、何故、神に仕える者に王家の血筋が必要なのかは理解できません」
「そこなのです」
神官長はやっと思ったところまで話が進んだと思った。
「しかし、外の国ではその方が普通の考えであることが多いのです。シャンタリオのこと、シャンタルのことこそ理解できないのです。それゆえ、シャンタルを、マユリアを、ただ美しい飾り物のように見る者がおるのです」
「そうなのですね」
マユリアにもなんとなく理解していただけた。
神官長はそう手応えを感じていた。
高い位置に背筋を伸ばして座っているマユリアと、低い位置から熱を入れて話している間に前のめりになっていた神官長。視線の高さにより高低差ができていた。
神官長は下から期待に満ちた目を女神に向ける。
マユリアは少し伏せ気味の視線を上からゆっくりと投げた。
「それで、その話をルギにしたのですか。ルギの気持ちがよく分かる気がします」
その視線には哀れみが含まれている。
「いえ、ルギ隊長にはここまでの話をしてはおりません」
「では、ルギに何を話したのです」
そう聞いて神官長は小さく含み笑いをした。
「気になられますか、私がルギ隊長にどのような話をしたのかが」
「ええ、同じ話をしたものだとばかり思っていましたから」
「隊長にはここまで詳しい話はしておりません。ただ、本当の女神の国を作りたいとだけ。それには隊長も納得しておられたと思います」
「ルギがですか?」
マユリアはその言葉を信じてはいないようだった。
「まあ、いいでしょう。後ほどルギに何を聞いたのかを尋ねてみます。それで、神官長はその方法が一番いい方策だ、そう言うのですね」
「はい」
「そうですか」
マユリアはそれを是とも非とも言わず、神官長の言葉を聞いた、という形の返事をした。
「話はそれで終わりですか?」
「いえ、ここからが始まりの話です」
神官長の言葉にマユリアは少しだけ首を傾け、
「分かりました。約束です、続きがあるというのなら聞きましょう。ですが、できるだけ早くお願い致します。わたくしにもやらねばならぬことがあるので」
と、静かに答えた。
「はい、ありがとうございます」
神官長は頭を下げようとして、やめて、
「では、どうしてそうなるとマユリアの地位が高いということを分からせることができるかですが、それは、そのような国の者は、相手の地位の高さを王家との関わりでしか見ることができないからです」
「そうなのですか」
マユリアはあまり興味がなさそうに神官長には見えた。
「はい。例えば西の大国アルディナ王国においては、アルディナ神殿の大神官、聖神官は非常に地位が高うございますが、それはその役職に就くのが王家の人間だからでございます」
「そうなのですか」
光の女神アルディナの作りし光の王国アルディナ、そこの神殿の話だけに、多少の興味を引いたようだと神官長は考えた。
「はい。大神官と聖神官、それぞれに男性と女性がその地位に就きますが、女性の方は必ず王家の血を引く女性と決まっているのです。ちなみに今は大神官が現在の国王の王女、聖神官がその大叔父であったと記憶しております」
「本当に色々とよく知っていますね」
マユリアは神官長の博学に驚いているようだった。
「ありがとうございます。ですが、あちらの情報がこちらに届くまでに時間がかかりますもので、あくまでも、私が知った最新の情報ということで、その後に交代がありましたら、他の方に変わっている可能性もございます」
神官長は正直に自分の知識の限界を伝えた。
「大神官には女性が、聖神官には男性が就かれるということですか」
やはりマユリアの興味を引いた。神官長は満足する。
「いえ、大神官の方が地位が高く、男性、女性、どちらがその任にあたるのかは、その時の人次第のようです。能力の高い方が大神官職に就かれるとか」
「そうなのですか」
マユリアは素直に関心をしている。
「はい。ですが、そのように尊ばれるのは、やはり王家の血族だからです」
「そうなのですね」
少しはお分かりいただけたようだと神官長は思った。
「今の大神官、アルディナ王女はまことに徳高く、素晴らしい方だそうです。ですがそれも、王女であるがゆえのこと、王家の一員だからこそ、そう認めてもらえるのです。もしもこの方が市井の者であったなら、とてもそのような高位の職に就けることはなく、なれたとしても、町の神殿の神官か、神官学校の教師までだとの話です」
「そうなのですか」
代々のシャンタルは血筋で選ばれるわけではない。よって、もちろんマユリアも自然とそうなる。貧しい家の者もあれば、王家の出身の者もいる。ただ託宣によって先代が次のシャンタルを見つける。みな平等に神によって指名される。それを二千年の間繰り返してきたシャンタリオにおいては、それはなかなかに理解しにくい事柄であった。
おそらくマユリアにも頭では理解出来ても、心では理解出来てはいないだろうと神官長は考えていた。
「きっとお分かりになりにくいと思います」
「ええ。知識としてそうなのかとは思えても、何故、神に仕える者に王家の血筋が必要なのかは理解できません」
「そこなのです」
神官長はやっと思ったところまで話が進んだと思った。
「しかし、外の国ではその方が普通の考えであることが多いのです。シャンタリオのこと、シャンタルのことこそ理解できないのです。それゆえ、シャンタルを、マユリアを、ただ美しい飾り物のように見る者がおるのです」
「そうなのですね」
マユリアにもなんとなく理解していただけた。
神官長はそう手応えを感じていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる