324 / 488
第五章 第一部
5 忠信
しおりを挟む
「ルギ」
「はい」
「誰かに見られたという覚えはありますか?」
「いえ、全く」
「そうでしょうね」
もしも、そんな気配があったとしたら、ルギが黙って放置しておくわけがない。
もちろんトーヤも。
「キリエ」
「はい」
「神官長が見たという言葉、本当だと思いますか?」
「はい」
キリエが頭を一つ下げて続ける。
「私は棺が湖の真ん中あたりまで進み、トーヤと約束していた通り、頭の部分だけを残して沈むのを見届けてから岸に戻りました。そのまま後ろを振り返ってはおりませんが、おそらく、その後で完全に沈んだものと推測いたします。だとしたら、神官長が申しました、棺が湖の上に浮いている状態というのは、ルギとトーヤがもう一度沈めるための作業をしている時だとしか思えません」
「そうですか。ルギはどうです、棺はきちんと沈んでいたと思いますか?」
「はい」
ルギが頭を一つ下げて続ける。
「私は葬列の一番後ろに付いておりましたが、実は、一つだけ水音がしました」
「水音ですか」
「はい。おそらくは、棺が沈むのを見届けて、トーヤが湖に潜った時の音かと思います」
「トーヤが潜った水音ですか」
「はい。トーヤは棺が沈んだのを見届けてから湖に潜ったはずです」
「つまり、神官長が申す通り、棺が湖面に浮いている状態のうちは、トーヤはまだ潜ってはいないだろうということですか」
「はい」
その通りだ。トーヤは湖が完全に湖面から姿を消すのを見届けてから潜った。
「その水音は、皆に聞こえるような音だったのですか?」
「いえ、私と、もしかしたらその前を歩いていました者に届くか届かないかの大きさの音でした」
「そうですか。だとしたら、神官長にまで届いたという可能性はないだろうということですね」
「神官長は列の先頭を歩いておりました」
キリエがそう答える。
「私は神官長の後ろの神官たちの次を歩いておりましたので、先頭の神官長とはかなり距離がございました。私に聞こえなかったものが神官長に聞こえているとは思えません」
「そうですか」
マユリアはルギとキリエの言葉を聞き、神官長が前もって棺の秘密に気がついていたのではないだろうと判断した。
「おそらく、神官長はキリエに話した通り、落とし物を取りに湖に戻り、その時に偶然、湖面に浮かんだ棺を目にしたのでしょう。そのことを見たとキリエに話したのはいつのことなのです?」
「はい、ほんの少し前のことです」
キリエは神官長から、バンハ公爵家のヌオリたちを前の宮で預かってくれるように要請があったことを話した。
「その時に、さきほど申し上げましたセルマがラーラ様に陥れられた、セルマを解放せよとの話になりましたので、拒否いたしましたところ、最後のシャンタルの話を持ち出したのでございます」
「では、先ほどおまえが話をしにくいと言ったこと、それがこの棺の話なのですね」
「それもございました」
「それも?」
「はい」
「では、話せぬことは他にもある、そういうことなのですね?」
「はい」
キリエは素直に認める。
「そして、それはわたくしには話せない秘密ということなのですね」
「はい」
そのことすら素直に認めるキリエに、さすがにマユリアが少しだけ笑った。
「だからわたくしはキリエを信頼しているのですよ」
「もったいのうございます」
「聞いてはいけない話ならば、もう聞くことはありません」
「ありがとうございます」
またマユリアが笑い、それでこの話は終わりとなった。
「他に、何か神官長の言葉で言っておくことはありませんか」
「いえ」
キリエがすぐにそう答えたが、ルギは答えなかった。
「ルギ?」
「あ、いえ」
ルギは少しだけ考えて、
「それで全てかと」
と答えた。
マユリアはそんな2人の様子を見て、今の段階では両名ともこれ以上何かを話すことはないのだろうと判断をした。
「では、神官長がわたくしに話したことを今から全部話します。もしも、それを聞いて何か思い出すこと、話してもいいと思うこと、話さねばならないと思ったことがあったなら、またいつでも言ってください」
「はい」
「はい」
今はこれでいいとマユリアは思った。
マユリアはキリエのこともルギのことも心から信頼している。
では、信じればいい。
何もかもを素直に全部話すということだけが、忠信ではないのだから。
そして、マユリアは神官長が自分に語ったことを全て語った。
神官長がシャンタルとマユリアのことを「飾り物」と言った時、キリエもルギも明らかに怒りを目に宿らせたが、それでも黙ってマユリアの言葉を聞き続けた。
神官長がマユリアを王家の一員にと言った時には驚きを隠さず、外の国の、特にアルディナの聖神官の話には興味深い表情を見せた。
そして最後、マユリアを、当代マユリア個人ではなく、女神マユリアに政治力を持たせるために現国王個人ではなく、シャンタリオ国王との婚姻によって、王家の一員になるという考えを聞くと、考え込んでいるようであった。
「わたくしは、神官長は結局はわたくしを国王陛下の皇妃にしたい、そのためにそのような話を持ち出したのだと理解しました。そしてそのように言うと、神官長はこの国には先がない、次代様が最後のシャンタルであると必死に訴えてきたのです」
「はい」
「誰かに見られたという覚えはありますか?」
「いえ、全く」
「そうでしょうね」
もしも、そんな気配があったとしたら、ルギが黙って放置しておくわけがない。
もちろんトーヤも。
「キリエ」
「はい」
「神官長が見たという言葉、本当だと思いますか?」
「はい」
キリエが頭を一つ下げて続ける。
「私は棺が湖の真ん中あたりまで進み、トーヤと約束していた通り、頭の部分だけを残して沈むのを見届けてから岸に戻りました。そのまま後ろを振り返ってはおりませんが、おそらく、その後で完全に沈んだものと推測いたします。だとしたら、神官長が申しました、棺が湖の上に浮いている状態というのは、ルギとトーヤがもう一度沈めるための作業をしている時だとしか思えません」
「そうですか。ルギはどうです、棺はきちんと沈んでいたと思いますか?」
「はい」
ルギが頭を一つ下げて続ける。
「私は葬列の一番後ろに付いておりましたが、実は、一つだけ水音がしました」
「水音ですか」
「はい。おそらくは、棺が沈むのを見届けて、トーヤが湖に潜った時の音かと思います」
「トーヤが潜った水音ですか」
「はい。トーヤは棺が沈んだのを見届けてから湖に潜ったはずです」
「つまり、神官長が申す通り、棺が湖面に浮いている状態のうちは、トーヤはまだ潜ってはいないだろうということですか」
「はい」
その通りだ。トーヤは湖が完全に湖面から姿を消すのを見届けてから潜った。
「その水音は、皆に聞こえるような音だったのですか?」
「いえ、私と、もしかしたらその前を歩いていました者に届くか届かないかの大きさの音でした」
「そうですか。だとしたら、神官長にまで届いたという可能性はないだろうということですね」
「神官長は列の先頭を歩いておりました」
キリエがそう答える。
「私は神官長の後ろの神官たちの次を歩いておりましたので、先頭の神官長とはかなり距離がございました。私に聞こえなかったものが神官長に聞こえているとは思えません」
「そうですか」
マユリアはルギとキリエの言葉を聞き、神官長が前もって棺の秘密に気がついていたのではないだろうと判断した。
「おそらく、神官長はキリエに話した通り、落とし物を取りに湖に戻り、その時に偶然、湖面に浮かんだ棺を目にしたのでしょう。そのことを見たとキリエに話したのはいつのことなのです?」
「はい、ほんの少し前のことです」
キリエは神官長から、バンハ公爵家のヌオリたちを前の宮で預かってくれるように要請があったことを話した。
「その時に、さきほど申し上げましたセルマがラーラ様に陥れられた、セルマを解放せよとの話になりましたので、拒否いたしましたところ、最後のシャンタルの話を持ち出したのでございます」
「では、先ほどおまえが話をしにくいと言ったこと、それがこの棺の話なのですね」
「それもございました」
「それも?」
「はい」
「では、話せぬことは他にもある、そういうことなのですね?」
「はい」
キリエは素直に認める。
「そして、それはわたくしには話せない秘密ということなのですね」
「はい」
そのことすら素直に認めるキリエに、さすがにマユリアが少しだけ笑った。
「だからわたくしはキリエを信頼しているのですよ」
「もったいのうございます」
「聞いてはいけない話ならば、もう聞くことはありません」
「ありがとうございます」
またマユリアが笑い、それでこの話は終わりとなった。
「他に、何か神官長の言葉で言っておくことはありませんか」
「いえ」
キリエがすぐにそう答えたが、ルギは答えなかった。
「ルギ?」
「あ、いえ」
ルギは少しだけ考えて、
「それで全てかと」
と答えた。
マユリアはそんな2人の様子を見て、今の段階では両名ともこれ以上何かを話すことはないのだろうと判断をした。
「では、神官長がわたくしに話したことを今から全部話します。もしも、それを聞いて何か思い出すこと、話してもいいと思うこと、話さねばならないと思ったことがあったなら、またいつでも言ってください」
「はい」
「はい」
今はこれでいいとマユリアは思った。
マユリアはキリエのこともルギのことも心から信頼している。
では、信じればいい。
何もかもを素直に全部話すということだけが、忠信ではないのだから。
そして、マユリアは神官長が自分に語ったことを全て語った。
神官長がシャンタルとマユリアのことを「飾り物」と言った時、キリエもルギも明らかに怒りを目に宿らせたが、それでも黙ってマユリアの言葉を聞き続けた。
神官長がマユリアを王家の一員にと言った時には驚きを隠さず、外の国の、特にアルディナの聖神官の話には興味深い表情を見せた。
そして最後、マユリアを、当代マユリア個人ではなく、女神マユリアに政治力を持たせるために現国王個人ではなく、シャンタリオ国王との婚姻によって、王家の一員になるという考えを聞くと、考え込んでいるようであった。
「わたくしは、神官長は結局はわたくしを国王陛下の皇妃にしたい、そのためにそのような話を持ち出したのだと理解しました。そしてそのように言うと、神官長はこの国には先がない、次代様が最後のシャンタルであると必死に訴えてきたのです」
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる