397 / 488
第五章 第四部
14 神官長のマユリア
しおりを挟む
2回目もやはりマユリアと面談をしていた時であった。
侍女頭のキリエから、宮での仕事に神官を借りたいとの申し出があり、そのことでマユリアに説明をしていた。
神官長の心の中には期待があった。だが、それは、あの時と同じく、マユリアが意識を失うということがきっかけなのかも知れない。神官長はそれを思うと、なんという無礼なことを期待しているのかと自分で自分を諌めたが、やはり思った通りにきっかけはマユリアの不調であったことから、それを期待することをためらわなくなっていった。
2回目の面会は初回よりやや時間が長く取られた。その時、その方、マユリアにしか見えないその美しい方はこう名乗られた。
「ええ、マユリアで構いません」
そうおっしゃったので神官長はマユリアとお呼びすることにした。当代マユリアとまた別の方なのか、それとも同じ方なのかは分からなかったが、そんなことはどうでもよかった。とにかく、不思議な方が自分が血を吐くように訴えた言葉にお答えをくださった、それで十分だった。
その後も、次第にご一緒できる時間は増え、その方が何を望んでいらっしゃるかを知ることができた。それは、神官長が望むことでもあった。
「きっと、この国を真に女神が統べる国にいたします、お誓い申し上げます。そのためにどうぞお力をお貸しください」
神官長はその方に誓い、その時からその日のために全てを捧げるようになったのだ。
今回、久々の面会でその方が要求したのは、女神マユリアと国王の婚姻である。少しでも早くその話をまとめろとのことであった。
「まだ説得はできないのですか」
「申し訳ありません、色々と手を尽くしてはおるのですが、どうにも理解していただけません」
「まあいいでしょう。どうしても本人が嫌だと言うのなら、その時にはわたくしが表に出てもかまいません」
そうおっしゃってくださった。ようやくご本人が、私のマユリアが表に出ても構わないとおっしゃったのだ。神官長はそれを思うと心が踊るようであった。
今はもう、神官長にとってマユリアとは、今、シャンタル宮で二期目の任期をお務めになられる当代マユリアではなく、マユリアの中から神官長に語りかけるマユリアと名乗る方であった。
もしも、当代ではなくあのお方が表に出てきてくださったなら、全てが今すぐに思うままになる。すぐにもセルマを解放し、侍女頭の交代を命じていただける。侍女頭の交代には主たちであっても口を出すことはできない。だが、それはあくまで「慣習」でしかない。これからの新しい世のために、そのぐらいのことは覆せばいい。
セルマは神官長の優秀な手駒であった。だが、今もまだ謹慎中という名目で一室に閉じ込められている。話によると、あのミーヤという侍女と一緒だとのことだ。ミーヤは謹慎が解けて侍女の仕事に戻っているというのに、なぜ今でも同室にしているのか、
セルマはあの侍女に取り込まれてしまった可能性がある。もしもそうなら、セルマの処遇も考えなければならないと神官長はため息をついた。セルマを見捨てるとしたら、次の侍女頭候補を見つけなければならないことを面倒に思ったのだ。
「長年に渡ってうまく育ててきたというのにな、やれやれまた一つ仕事が増えてしまった」
神官長にとってセルマは、あくまでそれだけの存在であった。正義感が強く、キリエやラーラ様が最後のシャンタルを見て見ぬ振りをしている、この国の行く末に目をつぶり、自分のことだけを考えている、そう信じて自分こそがこの国のために身を捧げると神官長の言うがままになってくれた。
「なかなかあれだけの素材はいない」
神官長がセルマを見つけたのは本当に偶然であった。例の黒い香炉、たまたまあれの管理責任者がセルマであった。まさか、あんな特殊な香炉が神具係にあるとは思わなかった。それで色々と来歴などを聞いているうちに、セルマの頑固でまっすぐで融通が利かない性格を見抜くことになったのだ。
うまく誘導すれば思ったように動いてくれるのではないか。その見込みは大当たりであった。それ以後、セルマは神官長と共にこの国の未来、真に女神が統べる国を作るための同志になった。
交代の日はもう目の前。といっても、それは自分が日にちを決めることだ。これも慣習なんぞ無視して、一番都合のいい日にするつもりだ。
「まずはその前に事が起こってもらわねば困る」
現国王派と前国王派の動きがまだ鈍い。あの元王宮衛士も姿を消したままだ。だが、少し気長に待てばいい。多少遅れてもやがて騒ぎはもっともっと大きくなる。
「それにつけても、やはり問題は次の侍女頭だ。可もなく不可もない者をつけるという方法もある」
そう、かっての自分のように、じっと大人しくその座を守るだけの者を。セルマのように、思う通りに動いてくれて、そしてそこそこ能力を持つ者を今から探すのはおそらくむずかしいだろう。
「やはりセルマに戻ってもらうのが一番いいのだが……」
神官長は一度セルマに面会を申し入れ、どのような様子なのかを調べてみようと考えた。その上で次の侍女頭のことを考えよう。キリエが何を言おうと次の侍女頭は自分が決める。
侍女頭のキリエから、宮での仕事に神官を借りたいとの申し出があり、そのことでマユリアに説明をしていた。
神官長の心の中には期待があった。だが、それは、あの時と同じく、マユリアが意識を失うということがきっかけなのかも知れない。神官長はそれを思うと、なんという無礼なことを期待しているのかと自分で自分を諌めたが、やはり思った通りにきっかけはマユリアの不調であったことから、それを期待することをためらわなくなっていった。
2回目の面会は初回よりやや時間が長く取られた。その時、その方、マユリアにしか見えないその美しい方はこう名乗られた。
「ええ、マユリアで構いません」
そうおっしゃったので神官長はマユリアとお呼びすることにした。当代マユリアとまた別の方なのか、それとも同じ方なのかは分からなかったが、そんなことはどうでもよかった。とにかく、不思議な方が自分が血を吐くように訴えた言葉にお答えをくださった、それで十分だった。
その後も、次第にご一緒できる時間は増え、その方が何を望んでいらっしゃるかを知ることができた。それは、神官長が望むことでもあった。
「きっと、この国を真に女神が統べる国にいたします、お誓い申し上げます。そのためにどうぞお力をお貸しください」
神官長はその方に誓い、その時からその日のために全てを捧げるようになったのだ。
今回、久々の面会でその方が要求したのは、女神マユリアと国王の婚姻である。少しでも早くその話をまとめろとのことであった。
「まだ説得はできないのですか」
「申し訳ありません、色々と手を尽くしてはおるのですが、どうにも理解していただけません」
「まあいいでしょう。どうしても本人が嫌だと言うのなら、その時にはわたくしが表に出てもかまいません」
そうおっしゃってくださった。ようやくご本人が、私のマユリアが表に出ても構わないとおっしゃったのだ。神官長はそれを思うと心が踊るようであった。
今はもう、神官長にとってマユリアとは、今、シャンタル宮で二期目の任期をお務めになられる当代マユリアではなく、マユリアの中から神官長に語りかけるマユリアと名乗る方であった。
もしも、当代ではなくあのお方が表に出てきてくださったなら、全てが今すぐに思うままになる。すぐにもセルマを解放し、侍女頭の交代を命じていただける。侍女頭の交代には主たちであっても口を出すことはできない。だが、それはあくまで「慣習」でしかない。これからの新しい世のために、そのぐらいのことは覆せばいい。
セルマは神官長の優秀な手駒であった。だが、今もまだ謹慎中という名目で一室に閉じ込められている。話によると、あのミーヤという侍女と一緒だとのことだ。ミーヤは謹慎が解けて侍女の仕事に戻っているというのに、なぜ今でも同室にしているのか、
セルマはあの侍女に取り込まれてしまった可能性がある。もしもそうなら、セルマの処遇も考えなければならないと神官長はため息をついた。セルマを見捨てるとしたら、次の侍女頭候補を見つけなければならないことを面倒に思ったのだ。
「長年に渡ってうまく育ててきたというのにな、やれやれまた一つ仕事が増えてしまった」
神官長にとってセルマは、あくまでそれだけの存在であった。正義感が強く、キリエやラーラ様が最後のシャンタルを見て見ぬ振りをしている、この国の行く末に目をつぶり、自分のことだけを考えている、そう信じて自分こそがこの国のために身を捧げると神官長の言うがままになってくれた。
「なかなかあれだけの素材はいない」
神官長がセルマを見つけたのは本当に偶然であった。例の黒い香炉、たまたまあれの管理責任者がセルマであった。まさか、あんな特殊な香炉が神具係にあるとは思わなかった。それで色々と来歴などを聞いているうちに、セルマの頑固でまっすぐで融通が利かない性格を見抜くことになったのだ。
うまく誘導すれば思ったように動いてくれるのではないか。その見込みは大当たりであった。それ以後、セルマは神官長と共にこの国の未来、真に女神が統べる国を作るための同志になった。
交代の日はもう目の前。といっても、それは自分が日にちを決めることだ。これも慣習なんぞ無視して、一番都合のいい日にするつもりだ。
「まずはその前に事が起こってもらわねば困る」
現国王派と前国王派の動きがまだ鈍い。あの元王宮衛士も姿を消したままだ。だが、少し気長に待てばいい。多少遅れてもやがて騒ぎはもっともっと大きくなる。
「それにつけても、やはり問題は次の侍女頭だ。可もなく不可もない者をつけるという方法もある」
そう、かっての自分のように、じっと大人しくその座を守るだけの者を。セルマのように、思う通りに動いてくれて、そしてそこそこ能力を持つ者を今から探すのはおそらくむずかしいだろう。
「やはりセルマに戻ってもらうのが一番いいのだが……」
神官長は一度セルマに面会を申し入れ、どのような様子なのかを調べてみようと考えた。その上で次の侍女頭のことを考えよう。キリエが何を言おうと次の侍女頭は自分が決める。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
現代ダンジョン奮闘記
だっち
ファンタジー
15年前に突如としてダンジョンが登場した現代の地球。
誰が何のために。
未だに解明されていないが、モンスターが落とす魔石はすべてのエネルギー源を代替できる物質だった。
しかも、ダンジョンでは痛みがあるが死なない。
金も稼げる危険な遊び場。それが一般市民が持っているダンジョンの認識だ。
そんな世界でバイトの代わりに何となくダンジョンに潜る一人の少年。
探索者人口4億人と言われているこの時代で、何を成していくのか。
少年の物語が始まる。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる