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第六章 第一部
4 神官の役割
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神官長の元に届いたのは大変満足な結果だった。
「では、そのような衝突があったというのは本当の話なのですね」
「はい、残念ながら」
神官が申し訳無さそうな顔で、神殿の長にリュセルスの街で起こったことを報告する。
現国王派と前国王派がぶつかり、ケガ人や逮捕者が出ている。街の様子を探るようにと言われていた神官は、実際に目の前で数十人の男たちがつかみ合いを始め、その中には棍棒か何かを振るって相手にケガをさせた者がいたのも見た。
「あのような光景を王都で目にするとは、思ってもみませんでした」
「そうですか……つらい思いをさせましたね」
「いえ、これも天から与えられたお役目と思っております」
神官はフードをかぶり、顔を隠したままで膝をついて深くおじぎをした。
この神官は元は憲兵の任についていた。だが、ある時家族の不幸をきっかけに神への奉仕に目覚めて神官になったという経歴の持ち主だ。その経験を活かし、神官長は街での色々な隠密行動をさせている。それも神へのお仕えする形の一つだと諭して。
この神官以外にも、色々な理由で人生の途中から神官を志す者はいる。侍女とは違い、神官にはそのような者も多い。神官長のように、幼くして神官学校に入り、人生を神に捧げる者もあるが、その半ばから俗世を離れ、神に残りの人生を捧げるのだ。
ちょうど「行儀見習いの侍女」とは逆の形になる。侍女には神聖を求められるが故に、その人生の前半をどのように過ごしたか分からぬ者を途中から神に仕えさせるわけにはいかない。なので何にも染まらぬ幼い時から宮に入ることになる。
女性でそのように残りの人生を神に仕えることで終えたいと願う者は、「箕帚の司」のように、侍女以外の役割りを担う者として宮へ入ることになる。いわば下働きになるわけで、どうしても侍女より低い身分の者という扱いにはなるが、一生を神に捧げるという意味では、侍女や神官と同じであるだろう。
「どうしてそのようなことになったのでしょうね」
「はい」
神官長の問いに神官が答えるには、例の元王宮衛士、あの者が姿を見せなくなったのは、その証言を不都合に思った現国王が捕らえた、もしくは命を奪ったからだ、そのような噂が立っているからだという。
「なんということでしょう、そんな話になっているとは」
「はい」
あの男が行方不明になったことで、一度は計画が遅延したと思ったが、思わぬ方向に加熱をしたものだ。神官長はやはりこれも自分の行いが正しかったからだと、ただただ満足する。
「おまえは引き続き街の様子を知らべ、何かあったら知らせて下さい。憲兵であったおまえだからこそ、街のことをよく知るおまえだからこそできることです。やはり天はおまえを正しく導いてくださった」
「はい、ありがたく思っております」
神官はそう言って神官長の部屋を出て、またリュセルスへと向かった。
今の神官以外にも、色々と必要だと街での隠密行動につける神官もいる。どの者も、それなりにそのようなことを得意とする経歴を持った者たちだ。以前、月虹隊の隊長と、ラデルの工房の弟子だという少年をつけさせた者たちも、俗世から神殿に入った者たちであった。
だがこれは、特に神官長が黒い目的で使っているというわけではない。今では月虹隊という宮と民をつなぐ兵がいるが、それ以前はそのような用は、元々は全て神殿の神官の役割であった。
宮の中にある、全国の神殿の本宮であるこの神殿にも、街の神殿にも、困りごとの相談や、悩みを聞いてもらいに来る民はいる。そして、中には揉め事の仲裁などを頼みに来る者も。そんな時に神官たちがその者たちの事情を聞きに行ったり、事情を調べたりすることが必要になる。中にはあまり事情を知られたくない者もあるため、隠密に色々なことを調べることも神官たちの役目の一つであるため、そのような役目に違和感を感じることがない。
特に、今のように不穏な動きがあるとなると、民のことを案じて、と一言つけるだけで、どの神官もまじめに役目を果たしてくれる。
「もしかしたらかなり遅れるかもと思いましたが、順調に事は進んでいるようですし、そろそろ交代の日のことを考えましょうか」
神官長は胸の前で両手を組み、神に感謝をする。
「マユリアからはまだ婚姻を受けるというお返事をいただいていない。それさえ受けていただけたら、後は全部うまくいくはず。そうそう、そろそろあの方たちにもきっちりと動いていただかなければね」
神官長はそう言うと、机に座って手紙をいくつか書いた。
この手紙は神官たちに預けるわけにはいかない。これは神殿の業務ではないからだ。そんな時のために、神官長は、あの元王宮衛士の男や、元王宮侍女であった女のように、使える者たちを密かに抱えている。何人かはセルマにつけてやったのだが、今はセルマが謹慎処分になっているので、また戻ってきて連絡が取れる場所で待機をしているのだ。セルマに命じられて月虹隊詰め所に投書をしたのも、そのような者たちだった。
神官長はそのような者たちと連絡を取ると、手紙をある場所に届けてもらった。
「これでまた、少し話は進むでしょう」
「では、そのような衝突があったというのは本当の話なのですね」
「はい、残念ながら」
神官が申し訳無さそうな顔で、神殿の長にリュセルスの街で起こったことを報告する。
現国王派と前国王派がぶつかり、ケガ人や逮捕者が出ている。街の様子を探るようにと言われていた神官は、実際に目の前で数十人の男たちがつかみ合いを始め、その中には棍棒か何かを振るって相手にケガをさせた者がいたのも見た。
「あのような光景を王都で目にするとは、思ってもみませんでした」
「そうですか……つらい思いをさせましたね」
「いえ、これも天から与えられたお役目と思っております」
神官はフードをかぶり、顔を隠したままで膝をついて深くおじぎをした。
この神官は元は憲兵の任についていた。だが、ある時家族の不幸をきっかけに神への奉仕に目覚めて神官になったという経歴の持ち主だ。その経験を活かし、神官長は街での色々な隠密行動をさせている。それも神へのお仕えする形の一つだと諭して。
この神官以外にも、色々な理由で人生の途中から神官を志す者はいる。侍女とは違い、神官にはそのような者も多い。神官長のように、幼くして神官学校に入り、人生を神に捧げる者もあるが、その半ばから俗世を離れ、神に残りの人生を捧げるのだ。
ちょうど「行儀見習いの侍女」とは逆の形になる。侍女には神聖を求められるが故に、その人生の前半をどのように過ごしたか分からぬ者を途中から神に仕えさせるわけにはいかない。なので何にも染まらぬ幼い時から宮に入ることになる。
女性でそのように残りの人生を神に仕えることで終えたいと願う者は、「箕帚の司」のように、侍女以外の役割りを担う者として宮へ入ることになる。いわば下働きになるわけで、どうしても侍女より低い身分の者という扱いにはなるが、一生を神に捧げるという意味では、侍女や神官と同じであるだろう。
「どうしてそのようなことになったのでしょうね」
「はい」
神官長の問いに神官が答えるには、例の元王宮衛士、あの者が姿を見せなくなったのは、その証言を不都合に思った現国王が捕らえた、もしくは命を奪ったからだ、そのような噂が立っているからだという。
「なんということでしょう、そんな話になっているとは」
「はい」
あの男が行方不明になったことで、一度は計画が遅延したと思ったが、思わぬ方向に加熱をしたものだ。神官長はやはりこれも自分の行いが正しかったからだと、ただただ満足する。
「おまえは引き続き街の様子を知らべ、何かあったら知らせて下さい。憲兵であったおまえだからこそ、街のことをよく知るおまえだからこそできることです。やはり天はおまえを正しく導いてくださった」
「はい、ありがたく思っております」
神官はそう言って神官長の部屋を出て、またリュセルスへと向かった。
今の神官以外にも、色々と必要だと街での隠密行動につける神官もいる。どの者も、それなりにそのようなことを得意とする経歴を持った者たちだ。以前、月虹隊の隊長と、ラデルの工房の弟子だという少年をつけさせた者たちも、俗世から神殿に入った者たちであった。
だがこれは、特に神官長が黒い目的で使っているというわけではない。今では月虹隊という宮と民をつなぐ兵がいるが、それ以前はそのような用は、元々は全て神殿の神官の役割であった。
宮の中にある、全国の神殿の本宮であるこの神殿にも、街の神殿にも、困りごとの相談や、悩みを聞いてもらいに来る民はいる。そして、中には揉め事の仲裁などを頼みに来る者も。そんな時に神官たちがその者たちの事情を聞きに行ったり、事情を調べたりすることが必要になる。中にはあまり事情を知られたくない者もあるため、隠密に色々なことを調べることも神官たちの役目の一つであるため、そのような役目に違和感を感じることがない。
特に、今のように不穏な動きがあるとなると、民のことを案じて、と一言つけるだけで、どの神官もまじめに役目を果たしてくれる。
「もしかしたらかなり遅れるかもと思いましたが、順調に事は進んでいるようですし、そろそろ交代の日のことを考えましょうか」
神官長は胸の前で両手を組み、神に感謝をする。
「マユリアからはまだ婚姻を受けるというお返事をいただいていない。それさえ受けていただけたら、後は全部うまくいくはず。そうそう、そろそろあの方たちにもきっちりと動いていただかなければね」
神官長はそう言うと、机に座って手紙をいくつか書いた。
この手紙は神官たちに預けるわけにはいかない。これは神殿の業務ではないからだ。そんな時のために、神官長は、あの元王宮衛士の男や、元王宮侍女であった女のように、使える者たちを密かに抱えている。何人かはセルマにつけてやったのだが、今はセルマが謹慎処分になっているので、また戻ってきて連絡が取れる場所で待機をしているのだ。セルマに命じられて月虹隊詰め所に投書をしたのも、そのような者たちだった。
神官長はそのような者たちと連絡を取ると、手紙をある場所に届けてもらった。
「これでまた、少し話は進むでしょう」
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