黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

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第六章 第一部

10 個人的に

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 ディレンからの手紙を読み、トーヤたち3人はエリス様の部屋へ移動していた。もちろん、表からではなく、窓から窓を通ってこっそりと。そして予定通り、アランたちの部屋へリューを案内する。

「今は主寝室が船長、侍女部屋がハリオさん、そして護衛の俺が従者部屋に入ってますが、リューさんは船長と一緒でいいですよね」
「ああ、構わん」
「お願いします」

 そう言いながらもリューの返事は上の空だ。客室ではあるが、部屋の豪華さにとても気持ちが落ち着かないようだ。

「そう驚くこともないでしょう、リューさんも元は王宮衛士なんでしょ? だったら豪華な部屋なんて見慣れてるでしょうに」
「それはそうなんですが、なんというかまた違いますよ。こんな豪華な部屋に自分が客として入るなんて思ってみたこともないですし」
「それはまあそうだな、俺も最初に案内された時にはびっくりした」
「俺も」
「俺もですよ」

 リューの言葉にディレンもアランもハリオもそう答える。確かにそうだ、職場として見ている時と、実際に自分がこの部屋に寝泊まりすることでは感覚が全然違う。

「もしも、嵐の海に飲み込まれた後、目が覚めてこんな部屋に寝ていたら、びっくりするだろうなあ」
「え?」

 リューの思いもかけない言葉に3人共驚いた。

「なんですそれ」

 アランがいつものように表情に出さずにそう聞くと、

「ああ、みなさんはご存知ないですよね、八年前にこの国ではそんなことがあったんですよ」

 と、リューがシャンタルの託宣と「助け手」のことを簡単に説明してくれた。

「その助け手という男が、アランさんと同じくアルディナの神域で傭兵をしていたらしいです。年も確か、当時17か18で、同じぐらいじゃなかったかなあ。俺は王宮に勤めてましたから、結構詳しくどういう人か聞いたんですよ。今は月虹隊の副隊長ということになっていますが、八年前にこの国を出て、外の国で何か役目を果たしているとか言われてます。でも何しろ八年の間、何の連絡もないようですから、帰ってくるのかどうか」

 まさかリューからトーヤの話を聞くとは思わなかったが、おそらく八年前にはリュセルスではかなり話題になったのだろう。確かに言われてみればそれほどの大事であったのだろうとは思う。
 だが3人共そのことに触れることはできない。何しろついさっきまで、この部屋でのうのうと寛いでいたのはその本人だ、などと言えるわけもない。

「あ、そういや」

 アランが思い出したように話を変える。

「さっきシャンタルにお手紙を届けたんですが、そこに船長の部下を連れて行ってもいいかと書いてみたんですよ」
「お手紙?」
「ええ、俺、シャンタルと文通してるもんで」
「ええっ!」

 リューにすると、アランがシャンタルと友達だというだけでも驚きなのに、その上に文通までしていると聞いてまた言葉を失う。

「あの、なんでそんなことに」
「ああ」

 ディレンがその経緯を説明し、またリューは何も言えなくなる。

「あの」
「なんです」
「その、お手紙というのを拝見してもいいでしょうか」

 おずおずとそう申し出るリューに、アランは少し考えたが、

「いや、ちょっとそれはだめかな。特に問題のある内容ではないですが、シャンタルは俺が友達だからと思って手紙を書いてくれてるわけで、それを勝手に人に見せるわけにはいかないです」

 そうきっぱりと断った。

 リューはアランが断ったことで、なんとなくこの少年に好感を持った。相手が誰でも、自分を信頼する相手を裏切ることはできない、そう判断したことがうれしかった。

「いえ、そうですよね。すみません、俺の方こそ」
「いえ、まあ神様の手紙なんて誰でも興味持って当然ですよ。ですが、本当に普通の話しかしてませんよ。まあ、お返事が来るまで待って下さい。早かったらもうすぐ来るんじゃないかな」

 アランの言葉通り、それから半刻ほどですぐにお返事が届いた。これを届けるのはシャンタル付きの侍女だ。

「明日のお昼をご一緒しませんか、とのことです」
「ええっ!」

 そんなに簡単にこの国で一番えらい方に、この国を統べる女神に会えるのか!

 また言葉をなくして立ち尽くすリューに、アランが一言だけ注意を促した。

「言っておきますが、公式の謁見とかじゃないですからね。公式の食事会でも公式のお茶会でもない。お友達と食事をするのに、お友達のお友達もどうぞご一緒にってだけのことです。それをよく覚えておいてください」
 
 つまり、個人的な場なので公的な話はするなということだ。

「くれぐれも頼みますよ。約束してもらえないなら、今からでもお断りしますからね」
「分かりました」

 そうしてリューは望み通りに女神にお目通りを願えることになったのだが、アランに釘を刺されたように、その場で現国王のことを言い出すことはできそうにない。その点だけは残念だが、とにかく今は一度お目にかかり、なんとかつなぎを取るのが重要だと自分に言い聞かせる。
 シャンタルやマユリアではなくとも、うまくいけば侍女頭のキリエ様や警護隊のルギ隊長とでも話をさせてもらえるかも知れない。

 その夜リューは豪華な客室のベッドで、眠れずに何度も寝返りをうっていた。
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