439 / 488
第六章 第二節
8 新たな味方
しおりを挟む
セルマが役目に復帰したと聞き、神官長はほくそ笑んだ。どうやらキリエが自分に付く気になった、そう思ったからだ。
確かにセルマは自分の思った通りに動いてくれた、とても使いやすい駒だった。だが、どう考えても「鋼鉄の侍女頭」には劣る。キリエの本心はどうでもいい。結果として、自分の思う通りに動いてくれればそれでいいのだ。
「新しい味方はこれまでよりはるかに強力だ」
あの日、キリエは神官長の味方ではないと言った。だが、同じ方向を向いたということは、つまりそういうことだ。神官長はもう一度楽しそうに笑い、部屋を出た。
「侍女頭にご面会を」
思った通り、すんなりと面会申請が通った。
「セルマを解放なさったそうですね」
「解放ではありません。謹慎を解いただけです」
「香炉の話はどうなりました」
「あれはもう、いくら調べても分からぬこと。これ以上の詮索はせぬこととなりました」
「なるほど」
そうして例の事件はなかったことにした、そういうことなのだと神官長は納得する。
「取次役は3名に増やし、各々の業務を分担させることにしました」
そうして一人だけが力を持つことを防いだのだな。
「ええまあ、それがよろしいかも知れませんな」
なかなかの落とし所だ。セルマを今までの通りの場所に戻すことはできない。だが罰することもできない。これ以上あの事件を深掘りせず、セルマは元の職務に就けながら、その力だけを削ぐ。
「それでは、侍女頭はこれまで通りキリエ様が? それとも交代の時にどなたかに引き継ぎを?」
「混乱を収めるため、もう少しの間、私が務めることにいたしました」
「さようですか、それはよろしゅうございました」
「これから、シャンタルにそのことを報告に参ります。今しばらく、私が侍女頭を続けることを」
キリエはそう伝えて神官長を返し、その足で当代シャンタルの元へその旨を伝えに行った。
「では、わたくしがマユリアになった後も、まだキリエにそばにいてもらえるのですね」
「はい。いつまでいられるかは分かりませんが、いましばらくは」
小さな主は素直にそう喜んでくれた。
「さて、それじゃあ行きますよ。まずは奥宮から」
「え?」
こちらは新たな取次役の3人だ。侍女頭の執務室で、もう一度あらためて新しい取次役についての話をして、廊下に出てきたばかりだ。
「これからは業務のことについては、すべてフウに任せます」
キリエがそう話を締めくくり、3人は部屋を出た。その途端、フウがそう言い出した。
「どこへ行くのです」
セルマが戸惑ったように、だがまだ少し反感を持った顔でそう聞く。
「決まっているでしょう。新しい役割を見せびらかしに行くんですよ」
「えっ!」
さすがのセルマがそう声を上げるが、フウは素知らぬ顔だ。
「さあ、付いてきて」
2人は仕方なくフウの後を付いて行く。フウは取りまとめ役、2人の上役だ、従わないわけにはいかない。
フウは2人を連れ、奥宮を練り歩いた。途中、時々フウが見つけた侍女に声をかけ、今は何も取り次ぐことはないかと聞く。
「何かあったらすぐにこの3人に言ってください。セルマは奥宮、ミーヤは前の宮ですが、3人しかいないのですから、見つけたら誰でも構いません。とにかく、キリエ様のご負担を減らすためですから、お願いしましたよ」
最奥のシャンタルとマユリアの宮殿以外の全部の場所をそうして回り、
「じゃあ、セルマはここで。次はミーヤと前の宮に行きます」
そう言って、セルマを奥宮の入り口、衛士たちの立ち番のところに置くと、ミーヤと2人で今度は前の宮で同じことを繰り返す。
「前の宮の担当はこのミーヤですが、ミーヤも忙しいですからね、見つけたら私でもセルマでも構いません、用件を伝えてください。それじゃあ」
元から変人で通っているフウのやることだ、どの侍女も適当に相槌を打って「はあ」とか「分かりました」とか言うと、そそくさと離れていく。
そうして行脚を終えると、最後にミーヤの担当である、アランたちの部屋へやってきた。
「入りますよ、いいですか? 準備は済んでいますか?」
そんな意味不明のことを言い、アランの返事が聞こえると、ミーヤと共に中に入ってきた。
応接にはこの部屋の客人であるアランとハリオが2人で座っていた。
「他の方はどうされました?」
「え?」
「トーヤさんと、ベルさんと、それからご先代」
「えっ!」
最後のはハリオだ。アランはこんな時でも表情を崩さず声も出さなかった。
「今のはハリオさんですね。はじめまして」
「あ、あの、はじめまして」
ハリオが完全に飲まれた様子で思わずそう返す。
「修行が足りませんね、そのぐらいで声をあげるなんて。アランさんを見てみなさい。そういえば、アランさんの方がずっといい男ですね」
さすがのアランも少しばかり目を丸くするが、
「ありがとうございます。ですが、おっしゃっている意味が分からないんですが」
「あら、そうですか。では」
フウはそう言うと、片膝をついて正式の礼をしてこう言った。
「キリエ様から派遣された、あなた方の新しい味方です。まあ、色々なことがありますからね、キリエ様も大変なのです」
これにはアラン隊長も返す言葉もない。一体どういうことなのだ。
確かにセルマは自分の思った通りに動いてくれた、とても使いやすい駒だった。だが、どう考えても「鋼鉄の侍女頭」には劣る。キリエの本心はどうでもいい。結果として、自分の思う通りに動いてくれればそれでいいのだ。
「新しい味方はこれまでよりはるかに強力だ」
あの日、キリエは神官長の味方ではないと言った。だが、同じ方向を向いたということは、つまりそういうことだ。神官長はもう一度楽しそうに笑い、部屋を出た。
「侍女頭にご面会を」
思った通り、すんなりと面会申請が通った。
「セルマを解放なさったそうですね」
「解放ではありません。謹慎を解いただけです」
「香炉の話はどうなりました」
「あれはもう、いくら調べても分からぬこと。これ以上の詮索はせぬこととなりました」
「なるほど」
そうして例の事件はなかったことにした、そういうことなのだと神官長は納得する。
「取次役は3名に増やし、各々の業務を分担させることにしました」
そうして一人だけが力を持つことを防いだのだな。
「ええまあ、それがよろしいかも知れませんな」
なかなかの落とし所だ。セルマを今までの通りの場所に戻すことはできない。だが罰することもできない。これ以上あの事件を深掘りせず、セルマは元の職務に就けながら、その力だけを削ぐ。
「それでは、侍女頭はこれまで通りキリエ様が? それとも交代の時にどなたかに引き継ぎを?」
「混乱を収めるため、もう少しの間、私が務めることにいたしました」
「さようですか、それはよろしゅうございました」
「これから、シャンタルにそのことを報告に参ります。今しばらく、私が侍女頭を続けることを」
キリエはそう伝えて神官長を返し、その足で当代シャンタルの元へその旨を伝えに行った。
「では、わたくしがマユリアになった後も、まだキリエにそばにいてもらえるのですね」
「はい。いつまでいられるかは分かりませんが、いましばらくは」
小さな主は素直にそう喜んでくれた。
「さて、それじゃあ行きますよ。まずは奥宮から」
「え?」
こちらは新たな取次役の3人だ。侍女頭の執務室で、もう一度あらためて新しい取次役についての話をして、廊下に出てきたばかりだ。
「これからは業務のことについては、すべてフウに任せます」
キリエがそう話を締めくくり、3人は部屋を出た。その途端、フウがそう言い出した。
「どこへ行くのです」
セルマが戸惑ったように、だがまだ少し反感を持った顔でそう聞く。
「決まっているでしょう。新しい役割を見せびらかしに行くんですよ」
「えっ!」
さすがのセルマがそう声を上げるが、フウは素知らぬ顔だ。
「さあ、付いてきて」
2人は仕方なくフウの後を付いて行く。フウは取りまとめ役、2人の上役だ、従わないわけにはいかない。
フウは2人を連れ、奥宮を練り歩いた。途中、時々フウが見つけた侍女に声をかけ、今は何も取り次ぐことはないかと聞く。
「何かあったらすぐにこの3人に言ってください。セルマは奥宮、ミーヤは前の宮ですが、3人しかいないのですから、見つけたら誰でも構いません。とにかく、キリエ様のご負担を減らすためですから、お願いしましたよ」
最奥のシャンタルとマユリアの宮殿以外の全部の場所をそうして回り、
「じゃあ、セルマはここで。次はミーヤと前の宮に行きます」
そう言って、セルマを奥宮の入り口、衛士たちの立ち番のところに置くと、ミーヤと2人で今度は前の宮で同じことを繰り返す。
「前の宮の担当はこのミーヤですが、ミーヤも忙しいですからね、見つけたら私でもセルマでも構いません、用件を伝えてください。それじゃあ」
元から変人で通っているフウのやることだ、どの侍女も適当に相槌を打って「はあ」とか「分かりました」とか言うと、そそくさと離れていく。
そうして行脚を終えると、最後にミーヤの担当である、アランたちの部屋へやってきた。
「入りますよ、いいですか? 準備は済んでいますか?」
そんな意味不明のことを言い、アランの返事が聞こえると、ミーヤと共に中に入ってきた。
応接にはこの部屋の客人であるアランとハリオが2人で座っていた。
「他の方はどうされました?」
「え?」
「トーヤさんと、ベルさんと、それからご先代」
「えっ!」
最後のはハリオだ。アランはこんな時でも表情を崩さず声も出さなかった。
「今のはハリオさんですね。はじめまして」
「あ、あの、はじめまして」
ハリオが完全に飲まれた様子で思わずそう返す。
「修行が足りませんね、そのぐらいで声をあげるなんて。アランさんを見てみなさい。そういえば、アランさんの方がずっといい男ですね」
さすがのアランも少しばかり目を丸くするが、
「ありがとうございます。ですが、おっしゃっている意味が分からないんですが」
「あら、そうですか。では」
フウはそう言うと、片膝をついて正式の礼をしてこう言った。
「キリエ様から派遣された、あなた方の新しい味方です。まあ、色々なことがありますからね、キリエ様も大変なのです」
これにはアラン隊長も返す言葉もない。一体どういうことなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる