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第一章 第一節 シャンタリオへ
3 神の助け手
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(どういうことだこりゃあ……一体何があったんだ……)
どう考えても何も思い出せない。そして聞いても「今は答えられない」ときたもんだ。
(まるで妖魔にでもつままれたような、いや、そんなもんじゃないなこれは)
もっとたちの悪い、人を持ち上げておいて一気に地獄の底に突き落とす魔のしわざか? ときゅっと身をすくめてトーヤは口をつぐんだ。それに、何を聞いても答えられないのでは話をする価値もない。
どうしようもないと開き直ると、少しばかり気持ちが落ち着いた。
することもないので周囲をもっと観察してやろうと、トーヤは目だけで周囲を注意深く見渡した。
調度品はさっき見た通り、どれも見たこともないぐらい豪華、に見える。
だが、実際に本当に高価なものかどうかは分からない。あくまで「見える」だけだ。
もしも、トーヤを騙すためだけに高価に見えるものをわざわざ用意したとしたら、それはまたえらく暇なことだな、そんなことを思いながら一通り眺めてみた。
次に、近くに控えてニコニコしている例の少女を見た。
顔付きは、それほど自分や故郷の人間たちと違う造りをしているわけではない。
ただ、見たこともない服装をしている。
上着は紗のように薄い生地、ほとんど白に近いオレンジ色で、膝上あたりまでの長さをしている。
その上着の襟元からずっと裾までが、本体よりもっと濃いオレンジ、夜明けの水平線から顔をのぞかせる太陽のような色の別布で、指3本分ぐらいの幅にぐるりと縁取られていた。
胸のすぐ下あたりを幅広の、縁取りと同じ色の帯でキュッと締めている。
その2色のオレンジに、少女の黒い髪がふんわりとかかり、よく映えて見えた。
上着の下には白いブラウスのような服を着ているのが透けて見え、その上にやはりハイウエストで、紅色のスカートのようなものをはいている。
さきほど片膝をついて跪いた時に見た限りだと、どうもズボンのように両足に分かれたようなデザインになっているらしいが、立っている時には一見するとスカートと見分けがつかない。
足元はキラキラした石がついたサンダルを素足に履いている。
体の前で軽く組まれた上着の袖は、ふんわりと腕を上から包み、手首のところがやはり濃い方のオレンジの布でキュッと締まったデザインになっている。
その先に続くほっそりした手の先、爪は磨かれたようにつやつやとしていた。
トーヤは自分の知っている女たちの手を思い浮かべて比べた。
手入れはしていても、どうしても生活が手に出てしまう。働く手だ。
目の前の少女の手は、少なくとも労働であくせくと痛めつけられた手には見えない。
(きっと水仕事なんかしたこともないんだろうよ)
見ようによっては苦労知らずにも見える少女を、そうやって少し斜めに見てみる。
一体どこの誰だか知らないが、こんな女をそばに付けて懐柔するつもりなら大間違いだ、甘く見るなよ。
そんな風にあれこれと思いを巡らせていると「チリンチリン」と鈴の音がして人の近づく気配がし、豪奢な扉が開くと、3人の人間が中に入ってきた。
中央に、服装は少女と似たような形をしているが、年齢はもう少し上の二十歳前後に見える美しい女がいた。
やはり黒い髪を、こちらはシニヨンのようにゆるくまとめている。
額には濃い紫の石が付いた鎖が付けられている。
オレンジの少女の石より一回り、二回り大きい石だ。
後ろにはトーヤのそばにいる少女と同じような衣装だが色違い、こちらは黄色と水色の服を着た2人の少女を従えている。
女の衣装は、見たところは少女たちと似たような形だが、色は額の石と同じ濃い紫、高貴の色、最高位の色と言われる紫だ。
その色をふんだんに身に纏ったその姿、優雅な立ち居振る舞い、少女たちの女主人であろう。
こいつの指図でこんな状況になっているのか、とトーヤは少しばかり身構えた。
紫の衣装の女は、ゆっくりとトーヤが上半身を起こして座っているベッドの傍らまで近づくと、ふわっと柔らかい笑みを浮かべ、優しく声をかけてきた。
「お気がつかれましたか?」
よく通る心地よい声だったが、本日4回目の同じ問いかけにトーヤはため息をついた。
「お気がつかれましたが、どういう状況なのかよく分からないので困ってるところだ」
女はにっこりと笑うとこう言った。
「シャンタルの託宣により、あなたを『神の助け手』としてお迎えいたしました。わたくしはマユリアと申します」
トーヤは驚きのあまり、あんぐりと口を開けたまま女を見上げた。
シャンタリオに来るに当たって、とりあえず最低の基礎知識として頭に入れたことが浮かんだ。
『この国はシャンタルという生き神様が治めている』
『シャンタルを支えるのはやはり女神でシャンタルの侍女のマユリアである』
トーヤとしては冗談のようにしか思えなかったその聖なる存在が、今、自分の目の前にいる。
どう考えても、やはりたちの悪い冗談か、魔につままれた状態としか思えなかった。
どう考えても何も思い出せない。そして聞いても「今は答えられない」ときたもんだ。
(まるで妖魔にでもつままれたような、いや、そんなもんじゃないなこれは)
もっとたちの悪い、人を持ち上げておいて一気に地獄の底に突き落とす魔のしわざか? ときゅっと身をすくめてトーヤは口をつぐんだ。それに、何を聞いても答えられないのでは話をする価値もない。
どうしようもないと開き直ると、少しばかり気持ちが落ち着いた。
することもないので周囲をもっと観察してやろうと、トーヤは目だけで周囲を注意深く見渡した。
調度品はさっき見た通り、どれも見たこともないぐらい豪華、に見える。
だが、実際に本当に高価なものかどうかは分からない。あくまで「見える」だけだ。
もしも、トーヤを騙すためだけに高価に見えるものをわざわざ用意したとしたら、それはまたえらく暇なことだな、そんなことを思いながら一通り眺めてみた。
次に、近くに控えてニコニコしている例の少女を見た。
顔付きは、それほど自分や故郷の人間たちと違う造りをしているわけではない。
ただ、見たこともない服装をしている。
上着は紗のように薄い生地、ほとんど白に近いオレンジ色で、膝上あたりまでの長さをしている。
その上着の襟元からずっと裾までが、本体よりもっと濃いオレンジ、夜明けの水平線から顔をのぞかせる太陽のような色の別布で、指3本分ぐらいの幅にぐるりと縁取られていた。
胸のすぐ下あたりを幅広の、縁取りと同じ色の帯でキュッと締めている。
その2色のオレンジに、少女の黒い髪がふんわりとかかり、よく映えて見えた。
上着の下には白いブラウスのような服を着ているのが透けて見え、その上にやはりハイウエストで、紅色のスカートのようなものをはいている。
さきほど片膝をついて跪いた時に見た限りだと、どうもズボンのように両足に分かれたようなデザインになっているらしいが、立っている時には一見するとスカートと見分けがつかない。
足元はキラキラした石がついたサンダルを素足に履いている。
体の前で軽く組まれた上着の袖は、ふんわりと腕を上から包み、手首のところがやはり濃い方のオレンジの布でキュッと締まったデザインになっている。
その先に続くほっそりした手の先、爪は磨かれたようにつやつやとしていた。
トーヤは自分の知っている女たちの手を思い浮かべて比べた。
手入れはしていても、どうしても生活が手に出てしまう。働く手だ。
目の前の少女の手は、少なくとも労働であくせくと痛めつけられた手には見えない。
(きっと水仕事なんかしたこともないんだろうよ)
見ようによっては苦労知らずにも見える少女を、そうやって少し斜めに見てみる。
一体どこの誰だか知らないが、こんな女をそばに付けて懐柔するつもりなら大間違いだ、甘く見るなよ。
そんな風にあれこれと思いを巡らせていると「チリンチリン」と鈴の音がして人の近づく気配がし、豪奢な扉が開くと、3人の人間が中に入ってきた。
中央に、服装は少女と似たような形をしているが、年齢はもう少し上の二十歳前後に見える美しい女がいた。
やはり黒い髪を、こちらはシニヨンのようにゆるくまとめている。
額には濃い紫の石が付いた鎖が付けられている。
オレンジの少女の石より一回り、二回り大きい石だ。
後ろにはトーヤのそばにいる少女と同じような衣装だが色違い、こちらは黄色と水色の服を着た2人の少女を従えている。
女の衣装は、見たところは少女たちと似たような形だが、色は額の石と同じ濃い紫、高貴の色、最高位の色と言われる紫だ。
その色をふんだんに身に纏ったその姿、優雅な立ち居振る舞い、少女たちの女主人であろう。
こいつの指図でこんな状況になっているのか、とトーヤは少しばかり身構えた。
紫の衣装の女は、ゆっくりとトーヤが上半身を起こして座っているベッドの傍らまで近づくと、ふわっと柔らかい笑みを浮かべ、優しく声をかけてきた。
「お気がつかれましたか?」
よく通る心地よい声だったが、本日4回目の同じ問いかけにトーヤはため息をついた。
「お気がつかれましたが、どういう状況なのかよく分からないので困ってるところだ」
女はにっこりと笑うとこう言った。
「シャンタルの託宣により、あなたを『神の助け手』としてお迎えいたしました。わたくしはマユリアと申します」
トーヤは驚きのあまり、あんぐりと口を開けたまま女を見上げた。
シャンタリオに来るに当たって、とりあえず最低の基礎知識として頭に入れたことが浮かんだ。
『この国はシャンタルという生き神様が治めている』
『シャンタルを支えるのはやはり女神でシャンタルの侍女のマユリアである』
トーヤとしては冗談のようにしか思えなかったその聖なる存在が、今、自分の目の前にいる。
どう考えても、やはりたちの悪い冗談か、魔につままれた状態としか思えなかった。
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