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第一章 第一節 シャンタリオへ
8 もう一人の……
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「大体分かればそんでかまわねえよ」
「わかったのかなあ……まあ、いいか」
「適当だな」
「うん適当。そんで?」
ベルが話の続きを促す。
大抵の場合、トーヤとベルが話をし、それをアランとシャンタルが黙って聞いていることが多い。そうして、大事なことがあれが横から質問したり、自分の意見を言ったりする。
そしてトーヤとベルで話を脱線させると、それをアランが一声で元の線に戻す。そういう時、シャンタルは楽しそうに笑って見ていることが多い。
今回もそうして、ほぼトーヤとベルが話をし、2人が横からそれを聞いている形が多くなっていた。
「まあ聞かれたんでな、とりあえず俺の服とかどうしたのか聞いた」
「そしたら?」
「嵐にもまれて、元々小汚かった服はボロボロになってたんだが、丁寧に洗濯して畳んで置いてあるとさ」
「やっぱり親切に思えるけどなあ」
ベルが素直に自分の感想を言う。
「なんでもいいが、とにかくその時着せられてた絹のシャラシャラの服がもう落ち着かなくてな、なんでもいいからまず落ち着く服を用意してくれって言った」
「絹なのに? もったいねえ~」
「おまえも一回着てみろ、落ち着かねえぞ?」
「そんなもんなのかねえ」
「そんなもんだ」
トーヤはズズッと一口お茶を飲んだ。
「そう言ったら、分かりましたご用意します、だとよ。そして服の他にもう一つ俺が身につけてた大事なもんがなかったか聞いたら、それもちゃんとあった」
「大事なもの?」
「ああ、ある人の形見みたいなもんだ」
「そりゃ大事だな。でもトーヤがそんなもん持ってるの見たことねえぜ?」
トーヤはまた一口お茶を飲み、一息考えるようにしてから答えた。
「まあ、その後で人にやっちまったからな、今は持ってねえ」
「ええっ、大事なもんなのにか?」
「まあそれはいいじゃねえか」
「ええー形見なのにか? それ、誰にやったんだ?」
ベルが聞くが、トーヤは答える気がなさそうにまたお茶を飲んだ。
「あんまりしつこく聞いてやるなよ」
アランが諦めなさそうなベルをなだめる。
「まあ、そんなことをいくつか聞いた。そんでその後で、俺の世話をする人間ってのを紹介した」
「おばはんが直々に世話してくれんのかと思った」
「それは御免こうむる」
トーヤが眉を顰めたので、ベルが楽しそうに笑った。
「だろうな~そんだけ嫌がってたら~」
「笑うなよ」
「だってトーヤめちゃくちゃ嫌そう」
笑うベルをまたトーヤが小突く。
「俺の世話係ってのが、最初に声をかけてきた女だ」
「お気がつかれましたか~ってやつだな?」
「ああそうだ」
トーヤはまた何かを思い出すように少し顔を上げた。
「この者がお世話をいたします」
侍女頭の女は、トーヤが目を覚ました時にそばにいた少女を「こちらへ」と呼んだ。
少女はさきほどやったように、また片膝をついて跪き、丁寧に頭を下げてから名乗った。
「お世話をさせていただきます、ミーヤと申します」
少女の名前を聞いてトーヤは思わず息を飲んだ。
「ミーヤ」
その名前はトーヤにとって特別な響きを持っていた。
親代わりの大事な人間の名前だ。
こんな見知らぬ土地でその名前に出会うとは思わなかった。
「どうかなされましたか?」
ミーヤと呼ばれた少女は跪いたまま、また首を傾げて聞いた。
「いや……」
まさか、こんな生まれ故郷から見ると地の果てのような場所でその名前を耳にするとは。
あの町を離れた大きな理由がその名前から離れたいがためだったのに、皮肉なものだ。
「トーヤ、トーヤってば、おい、どうしたんだよ?」
「ん、あ?」
「なんか、急に黙っちまうからさあ」
ベルの言葉に現実に引き戻された気がした。
「あ、ああ、すまん、ちょっと色々思い出してたもんでな」
「寝ちまったのかとおもったぜ」
「まあ、色々あったな、とな」
「そうなのかよ」
ベルは訝しそうにトーヤを見つめた。
「まあ、なんでもいいけどよ。そんで結局シャンタルに会ったのはその次の日ぐらいか?? まだ全然出てこねえんだが」
「いや、会ってない」
「は?」
ベルが、トーヤの言葉の意味をよく知ろうとするように顔を覗き込む。
「この後、まだしばらくは全然会ってねえな」
「なんだよそれー!」
「世話役の何人かの女たち以外とは、その後しばらく誰とも会えなかった」
「あ?」
「まずはな、俺の体調がまだよくないってことだ」
「ああ、嵐で溺れたんだものな」
「その後5日も寝てたしな」
「うん」
「正直、起きた時は何がなんだか分からなくて気がついたら起き上がってたが、体はガッタガタだった」
「そりゃそうかもなあ」
「マユリアや大臣のおっさんらが帰った後、ベッドの上にひっくりかえった」
「おいおい、大丈夫かよ!」
「大丈夫じゃなかったな」
「えっ!」
ベルが身を乗り出して心配そうにトーヤを見る。
もう何年も前の出来事だと言うのに、目の前の男が今にも倒れるんじゃないか、そういう目をする。
「世話係のミーヤがえらく心配してな、医者を呼んでくれて、それで診察を受けてどこが具合が悪いか聞かれたのでこう答えた」
「なんてだ!」
「腹減った、ってな」
ベルが拳を繰り出し、ニヤリと笑うトーヤに受け止められて、アランとシャンタルも思わず笑った。
「わかったのかなあ……まあ、いいか」
「適当だな」
「うん適当。そんで?」
ベルが話の続きを促す。
大抵の場合、トーヤとベルが話をし、それをアランとシャンタルが黙って聞いていることが多い。そうして、大事なことがあれが横から質問したり、自分の意見を言ったりする。
そしてトーヤとベルで話を脱線させると、それをアランが一声で元の線に戻す。そういう時、シャンタルは楽しそうに笑って見ていることが多い。
今回もそうして、ほぼトーヤとベルが話をし、2人が横からそれを聞いている形が多くなっていた。
「まあ聞かれたんでな、とりあえず俺の服とかどうしたのか聞いた」
「そしたら?」
「嵐にもまれて、元々小汚かった服はボロボロになってたんだが、丁寧に洗濯して畳んで置いてあるとさ」
「やっぱり親切に思えるけどなあ」
ベルが素直に自分の感想を言う。
「なんでもいいが、とにかくその時着せられてた絹のシャラシャラの服がもう落ち着かなくてな、なんでもいいからまず落ち着く服を用意してくれって言った」
「絹なのに? もったいねえ~」
「おまえも一回着てみろ、落ち着かねえぞ?」
「そんなもんなのかねえ」
「そんなもんだ」
トーヤはズズッと一口お茶を飲んだ。
「そう言ったら、分かりましたご用意します、だとよ。そして服の他にもう一つ俺が身につけてた大事なもんがなかったか聞いたら、それもちゃんとあった」
「大事なもの?」
「ああ、ある人の形見みたいなもんだ」
「そりゃ大事だな。でもトーヤがそんなもん持ってるの見たことねえぜ?」
トーヤはまた一口お茶を飲み、一息考えるようにしてから答えた。
「まあ、その後で人にやっちまったからな、今は持ってねえ」
「ええっ、大事なもんなのにか?」
「まあそれはいいじゃねえか」
「ええー形見なのにか? それ、誰にやったんだ?」
ベルが聞くが、トーヤは答える気がなさそうにまたお茶を飲んだ。
「あんまりしつこく聞いてやるなよ」
アランが諦めなさそうなベルをなだめる。
「まあ、そんなことをいくつか聞いた。そんでその後で、俺の世話をする人間ってのを紹介した」
「おばはんが直々に世話してくれんのかと思った」
「それは御免こうむる」
トーヤが眉を顰めたので、ベルが楽しそうに笑った。
「だろうな~そんだけ嫌がってたら~」
「笑うなよ」
「だってトーヤめちゃくちゃ嫌そう」
笑うベルをまたトーヤが小突く。
「俺の世話係ってのが、最初に声をかけてきた女だ」
「お気がつかれましたか~ってやつだな?」
「ああそうだ」
トーヤはまた何かを思い出すように少し顔を上げた。
「この者がお世話をいたします」
侍女頭の女は、トーヤが目を覚ました時にそばにいた少女を「こちらへ」と呼んだ。
少女はさきほどやったように、また片膝をついて跪き、丁寧に頭を下げてから名乗った。
「お世話をさせていただきます、ミーヤと申します」
少女の名前を聞いてトーヤは思わず息を飲んだ。
「ミーヤ」
その名前はトーヤにとって特別な響きを持っていた。
親代わりの大事な人間の名前だ。
こんな見知らぬ土地でその名前に出会うとは思わなかった。
「どうかなされましたか?」
ミーヤと呼ばれた少女は跪いたまま、また首を傾げて聞いた。
「いや……」
まさか、こんな生まれ故郷から見ると地の果てのような場所でその名前を耳にするとは。
あの町を離れた大きな理由がその名前から離れたいがためだったのに、皮肉なものだ。
「トーヤ、トーヤってば、おい、どうしたんだよ?」
「ん、あ?」
「なんか、急に黙っちまうからさあ」
ベルの言葉に現実に引き戻された気がした。
「あ、ああ、すまん、ちょっと色々思い出してたもんでな」
「寝ちまったのかとおもったぜ」
「まあ、色々あったな、とな」
「そうなのかよ」
ベルは訝しそうにトーヤを見つめた。
「まあ、なんでもいいけどよ。そんで結局シャンタルに会ったのはその次の日ぐらいか?? まだ全然出てこねえんだが」
「いや、会ってない」
「は?」
ベルが、トーヤの言葉の意味をよく知ろうとするように顔を覗き込む。
「この後、まだしばらくは全然会ってねえな」
「なんだよそれー!」
「世話役の何人かの女たち以外とは、その後しばらく誰とも会えなかった」
「あ?」
「まずはな、俺の体調がまだよくないってことだ」
「ああ、嵐で溺れたんだものな」
「その後5日も寝てたしな」
「うん」
「正直、起きた時は何がなんだか分からなくて気がついたら起き上がってたが、体はガッタガタだった」
「そりゃそうかもなあ」
「マユリアや大臣のおっさんらが帰った後、ベッドの上にひっくりかえった」
「おいおい、大丈夫かよ!」
「大丈夫じゃなかったな」
「えっ!」
ベルが身を乗り出して心配そうにトーヤを見る。
もう何年も前の出来事だと言うのに、目の前の男が今にも倒れるんじゃないか、そういう目をする。
「世話係のミーヤがえらく心配してな、医者を呼んでくれて、それで診察を受けてどこが具合が悪いか聞かれたのでこう答えた」
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「腹減った、ってな」
ベルが拳を繰り出し、ニヤリと笑うトーヤに受け止められて、アランとシャンタルも思わず笑った。
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