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第二章 第二節 青い運命
21 心の距離
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フェイが部屋を出てしばらくすると、1人の侍女が全てつつがなく終わったことを告げに来た。
「お二人は5日間墓所に近付けませんが、6日目には神官と一緒に祈りを捧げに行き、その後はいつでも会いに行けるようになります」
「分かりました、ありがとうございます」
ミーヤが同僚に丁寧に頭を下げる。
トーヤは椅子に座ったまま、墓所の方角だと言われた方向をただ黙って見つめていて振り向きもしなかった。
「ミーヤ……」
侍女はミーヤの肩に手をかけ、そっと抱き寄せて優しく抱きしめた。
「ミーヤ、色々と大変だろうと思うけど、フェイのためにもトーヤ様を1日も早く立ち直らせてあげてね」
「ありがとう……」
これまで同僚の侍女たちの中にはトーヤを怖がる者もいたのだが、フェイに対する情愛の深さ、さきほどの嘆き悲しむ姿を見てこの侍女はトーヤを悪い人間ではないと思ったようだ。
同僚を見送るとミーヤはトーヤに近付き、自分も横に椅子を置いて並んで座った。
「済んだそうです……」
「そうか……」
トーヤはそれだけ言うと身動きもせず同じ姿勢を続けた。
ミーヤもその隣で黙ってじっと座り続けた。
どのぐらいの時間が経っただろう。
ふと、トーヤが口を開いた。
「なんでだろな……」
トーヤが相変わらず墓所の方角を見たまま、ミーヤの顔を見ることもせずに続けた。
「なんでこんなに悲しいんだろうな……たった2月ほどしか一緒にいなかった家族でもない子どもだったのに心臓をかきむしられるほど悲しい。今までだって実の母親やミーヤ、他の友だちや仲間を亡くしたこと、何回もあるのにな。その時ももちろん悲しかったが、なんでだろうな、何かが違うんだ」
「そうなのですか……」
「あんたは、大事な人を亡くしたことがあるのか?」
「……私がまだ幼い頃、まだ物心もつかない頃、両親が流行り病で亡くなりました」
トーヤが言葉もなくミーヤを見る。
「その後、祖父母と暮らしてましたが、6歳の時に祖母が病で亡くなり、それからは祖父と2人でした。8歳の時に私が宮に上がってから祖父は1人で暮らしてます」
「そうなのか……」
「はい。私はこちらに来てからも祖父と連絡を取ってますが、フェイは……親から何かあっても連絡は不要と言われているようですし……」
「昨日もそんなこと言ってたな。なんでだ、あんな小さい子に」
「聞いた話ですが……」
ミーヤによると、フェイが生まれて割とすぐに生母が亡くなり、しばらくは父親と2人で暮らしていたが、新しい母親が来て新しい子供が生まれるとフェイは疎まれるようになっていったらしい。
「それで、ちょうど宮で募集があり、フェイは宮に上がるようになったらしいですが、もしも宮に選ばれなかった時にはどこかに奉公にやるつもりだったらしいです」
「なんだその親は……」
トーヤは怒る気にもなれず、情けなさそうにそう言った。
「ですから、フェイは、トーヤに優しかった頃の父親を見ていたんじゃないでしょうか」
「親父かよ……」
トーヤがふっと力弱く笑った。
「まだ17なのに、7つしか違わねえのに親父かよ……せっかく第1夫人にしてやったのに、なんて失礼なやつだ」
「まあ……」
2人で力なく笑う。
「ですが、子供を亡くした親、特に娘を亡くした父親はさきほどのトーヤのように嘆き悲しむと聞いたことがあるように思います」
「そうなのか?」
「はい」
「だったら母親は強いのかな……俺が親父ならミーヤは母親だろ?悲しいだろうに落ち着いてたし」
「私は……フェイは、私のことはお姉さま、と……」
「それはずるいだろ、1人だけ」
2人でゆるやかに笑う。
「まあ母親でも姉でもどっちでもいい、女の方が強いのかな」
「それはどうでしょう……1人がああなるともう1人は自分が落ち着かないと、と思うものなのかも」
「ああ、あるかもな……」
「それと、私は着いていけないことを承知していましたが、トーヤは違ったでしょ?だから、突然のことに気持ちが追いつかなかったのかも」
「ああ、それもあるかもな……」
しばらく沈黙した後でトーヤが言う。
「親ってなんなんだろうな……」
「なんだろう、とは?」
「俺は、血のつながりがないのにフェイを亡くして父親みたいに悲しかったってのに、実の父親はフェイをいらないと言ったわけだろう?それに俺は母親を亡くした後はミーヤが母親代わりだった。親ってのは一体なんなんだ?血がつながってりゃ無条件に親だとばっかり思ってたがどうやら違うみたいだな」
トーヤが目を閉じて静かに言う。
「フェイ、そんな薄情な親父の元じゃなくなんで俺のところに生まれてこなかったんだよ……」
「必要でしょうか?」
「え?」
「血のつながりです」
トーヤが驚いてミーヤを見る。
「トーヤがフェイとどのような関係であったとしても、トーヤがフェイを慈しみ、フェイもトーヤに懐いていた、それだけで十分ではありませんか?」
「それは……」
「フェイはフェイです。トーヤの元に生まれてきてもこなくても、そうして生まれてきてそうして生きたのがフェイなのですから、もしも違う場所に生まれてきていたら、それはフェイとは別の人間だと私は思います。」
「そうなのかな……」
「はい、必要なのは血のつながりではなく心の距離ではないでしょうか」
「心の、距離……」
「はい、トーヤとフェイの心の間には距離がなくつながっている、それで十分だと私は思います」
そう言ってミーヤがにっこりと笑った。
「6日目になったらフェイに会いに行きましょう。きっと喜びます。今は少しだけ我慢です。トーヤはフェイの父親なのですから、そのままのトーヤとフェイでいいと思います」
「……そうだな……」
ミーヤの言葉にトーヤは顔をそむけてそう答えた。
「お二人は5日間墓所に近付けませんが、6日目には神官と一緒に祈りを捧げに行き、その後はいつでも会いに行けるようになります」
「分かりました、ありがとうございます」
ミーヤが同僚に丁寧に頭を下げる。
トーヤは椅子に座ったまま、墓所の方角だと言われた方向をただ黙って見つめていて振り向きもしなかった。
「ミーヤ……」
侍女はミーヤの肩に手をかけ、そっと抱き寄せて優しく抱きしめた。
「ミーヤ、色々と大変だろうと思うけど、フェイのためにもトーヤ様を1日も早く立ち直らせてあげてね」
「ありがとう……」
これまで同僚の侍女たちの中にはトーヤを怖がる者もいたのだが、フェイに対する情愛の深さ、さきほどの嘆き悲しむ姿を見てこの侍女はトーヤを悪い人間ではないと思ったようだ。
同僚を見送るとミーヤはトーヤに近付き、自分も横に椅子を置いて並んで座った。
「済んだそうです……」
「そうか……」
トーヤはそれだけ言うと身動きもせず同じ姿勢を続けた。
ミーヤもその隣で黙ってじっと座り続けた。
どのぐらいの時間が経っただろう。
ふと、トーヤが口を開いた。
「なんでだろな……」
トーヤが相変わらず墓所の方角を見たまま、ミーヤの顔を見ることもせずに続けた。
「なんでこんなに悲しいんだろうな……たった2月ほどしか一緒にいなかった家族でもない子どもだったのに心臓をかきむしられるほど悲しい。今までだって実の母親やミーヤ、他の友だちや仲間を亡くしたこと、何回もあるのにな。その時ももちろん悲しかったが、なんでだろうな、何かが違うんだ」
「そうなのですか……」
「あんたは、大事な人を亡くしたことがあるのか?」
「……私がまだ幼い頃、まだ物心もつかない頃、両親が流行り病で亡くなりました」
トーヤが言葉もなくミーヤを見る。
「その後、祖父母と暮らしてましたが、6歳の時に祖母が病で亡くなり、それからは祖父と2人でした。8歳の時に私が宮に上がってから祖父は1人で暮らしてます」
「そうなのか……」
「はい。私はこちらに来てからも祖父と連絡を取ってますが、フェイは……親から何かあっても連絡は不要と言われているようですし……」
「昨日もそんなこと言ってたな。なんでだ、あんな小さい子に」
「聞いた話ですが……」
ミーヤによると、フェイが生まれて割とすぐに生母が亡くなり、しばらくは父親と2人で暮らしていたが、新しい母親が来て新しい子供が生まれるとフェイは疎まれるようになっていったらしい。
「それで、ちょうど宮で募集があり、フェイは宮に上がるようになったらしいですが、もしも宮に選ばれなかった時にはどこかに奉公にやるつもりだったらしいです」
「なんだその親は……」
トーヤは怒る気にもなれず、情けなさそうにそう言った。
「ですから、フェイは、トーヤに優しかった頃の父親を見ていたんじゃないでしょうか」
「親父かよ……」
トーヤがふっと力弱く笑った。
「まだ17なのに、7つしか違わねえのに親父かよ……せっかく第1夫人にしてやったのに、なんて失礼なやつだ」
「まあ……」
2人で力なく笑う。
「ですが、子供を亡くした親、特に娘を亡くした父親はさきほどのトーヤのように嘆き悲しむと聞いたことがあるように思います」
「そうなのか?」
「はい」
「だったら母親は強いのかな……俺が親父ならミーヤは母親だろ?悲しいだろうに落ち着いてたし」
「私は……フェイは、私のことはお姉さま、と……」
「それはずるいだろ、1人だけ」
2人でゆるやかに笑う。
「まあ母親でも姉でもどっちでもいい、女の方が強いのかな」
「それはどうでしょう……1人がああなるともう1人は自分が落ち着かないと、と思うものなのかも」
「ああ、あるかもな……」
「それと、私は着いていけないことを承知していましたが、トーヤは違ったでしょ?だから、突然のことに気持ちが追いつかなかったのかも」
「ああ、それもあるかもな……」
しばらく沈黙した後でトーヤが言う。
「親ってなんなんだろうな……」
「なんだろう、とは?」
「俺は、血のつながりがないのにフェイを亡くして父親みたいに悲しかったってのに、実の父親はフェイをいらないと言ったわけだろう?それに俺は母親を亡くした後はミーヤが母親代わりだった。親ってのは一体なんなんだ?血がつながってりゃ無条件に親だとばっかり思ってたがどうやら違うみたいだな」
トーヤが目を閉じて静かに言う。
「フェイ、そんな薄情な親父の元じゃなくなんで俺のところに生まれてこなかったんだよ……」
「必要でしょうか?」
「え?」
「血のつながりです」
トーヤが驚いてミーヤを見る。
「トーヤがフェイとどのような関係であったとしても、トーヤがフェイを慈しみ、フェイもトーヤに懐いていた、それだけで十分ではありませんか?」
「それは……」
「フェイはフェイです。トーヤの元に生まれてきてもこなくても、そうして生まれてきてそうして生きたのがフェイなのですから、もしも違う場所に生まれてきていたら、それはフェイとは別の人間だと私は思います。」
「そうなのかな……」
「はい、必要なのは血のつながりではなく心の距離ではないでしょうか」
「心の、距離……」
「はい、トーヤとフェイの心の間には距離がなくつながっている、それで十分だと私は思います」
そう言ってミーヤがにっこりと笑った。
「6日目になったらフェイに会いに行きましょう。きっと喜びます。今は少しだけ我慢です。トーヤはフェイの父親なのですから、そのままのトーヤとフェイでいいと思います」
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ミーヤの言葉にトーヤは顔をそむけてそう答えた。
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