黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

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第二章 第三節 進むべき道を

14 フェイの導き

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「ありました」
「本当にあったのか!」

 ミーヤの言葉にトーヤは思わず声を上げた。

「はい、ダルさんのおっしゃった通り、湖が見える場所にありました」
「そうか……」
「見に行ってみますか?」
「え?」

 トーヤは戸惑った。

「行けるのかな……」
「行けるように思います」
「なんでそんなこと分かるんだ?」
「あの時、トーヤは普通ではありませんでしたし」
「はっきり言うなあ」

 苦笑する。

「に、してもなあ……」

 そう言いながら椅子に腰掛けたまま右足を左足の上に乗せ、両手をかけた。

「お行儀が悪いですよ」
「すんません!」

 急いで元に戻す。

「また怒られた」

 いつもはそう言うとすぐ近くでフェイがクスクスと笑っていた。
 今はもうない。

「フェイが笑っていますよ?」
「笑ってるかな」
「ええ、笑ってます。また怒られてるって」
「ちびも、あんたぐらいになったらガミガミ言うようになったのかなあ」
「まあ!」
「わ、また怒られる!」

 そう言って首をすくめるのを見てミーヤが笑った。

「いるんですね、フェイ、そこに」
「ああ、いるな、ここに」

 2人でいつもフェイがいた場所を見て笑った。

「そうだな、フェイも付いててくれるし行ってみるか」
「はい、行きましょう」

 翌日、またフェイに会いに行き、そのまま墓所のさらに西に出た。
 墓所の西も森だった。
 こちらにはほとんど訪れる人はなく、森の中にはわずかな道もなかった。

「奥宮は男子禁制ですし、かと言って前の宮から聖なる森に向かうと目立つと思います。こちらには道はありませんが、山沿いに行けば森に入れるのではないでしょうか」
「大丈夫かな、本来の道じゃないところから森に入って」
「本来の道でも入れなかったんですから一緒じゃないでしょうか?」
「あんた、たまに面白いこと言うよな」

 トーヤが笑いミーヤがちょっと眉をひそめた。

「真面目に言ったつもりだったんですが……」
「まあなんでもいい、確かにそうだ。もしも誰かに何か聞かれたら何があるのか散歩してたって言やあいいな」」

 そう言って気楽に散歩のように歩き始める。

 墓所を隠すように西側を取り巻いている森が山裾まで続いている。山裾に沿って東北に婉曲えんきょくするように歩いていくとやがて右手、東に聖なる森が見えてきた。

「反対側だな」
「はい」

 聖なる森には入らずまっすぐ山裾に進む。
 背丈が高くなってきた下生えを払いながらなおも進むと、やがて山裾と聖なる森の交じるあたりに着いた。

「そろそろです」
「うん……」

 木々に隠れるようにそれはあった。

「あった」
「はい……」

 山裾に突然ぽっかりと穴が開いている。 

「こんなに堂々と口開けてるのに誰も気付かねえのかよ……」

 思わずトーヤがそう言った。

「聖なる森のさらに向こうですから、来る人もいないのでしょう」
「にしても……」

 本当にいつ、誰が、何の目的で作ったものなのか、またあらためてそう思わずにはいられない。

「もしかしたら、宮が作ったのかも知れねえな……」
「宮がですか?」
「ああ。王宮からの抜け道じゃないかって話があったらしいから、もしかしたら王宮からこっちに抜ける逃げ道だった可能性もあるが、だとしたら例えば王宮の北とかもっとすんなりと行ける場所に作りそうにも思う」
「どうなのでしょう……」

 2人で洞窟の中を覗き込む。

「入ってみるか」
「え、入るのですか?」
「なんだよ、怖いのか?」

 トーヤがからかうように言うとミーヤがムッとしたように、

「怖くなんてありませんよ?」
「さすがお転婆てんば、強がり結構、行くぞ」

 トーヤが笑って後を引き取る。

「と言っても、あまり奥まで行っても見えなくて危ないから、見える範囲だけな」
「はい」
「ほら」

 そう言ってトーヤが左手を出す。

「はい?」
「手だよ、危ないだろ?」
「……はい……」

 ミーヤが素直にトーヤの手の上に自分の右手を乗せる。

「行くぞ」
「はい」

 トーヤが洞窟の壁に手をつくようにしてゆっくり進み、ミーヤが手を引かれてそこに続く。
 太陽の角度がいいせいか、そこそこ進むことができた。

「ここまでだな、これ以上は足元が見えない」
「はい」

 トーヤは来る時に手をついていたのとは反対の壁に手を付き直して体を反転させる。

「そら、気をつけてな」
「はい」

 ミーヤも同じようにして体の向きを変え、今度は2人揃って明るい方へ向かって進んだ。

「ダルの言う通りだとすると、あのままずっと海まで続いてるんだな」
「なんだか不思議です……」
「本当だな」
 
 洞窟から外に出る。
 目の前に聖なる湖が見える。

「これも不思議だな、あの時はどんだけ走ってもたどり着けなかったのに……」
「はい……」

 2人で揃ってキラキラ光る湖を見ていると、

「あ!」

 何かが森から飛び出し、ミーヤが驚いて思わずトーヤにしがみついた。

「なんだ、ただの鳥だよ」

 ちゅいー

 そんな声で鳴きながら青い小鳥が空へと舞った。

「フェイ……」
「フェイ……」

 2人で同時にそう言っていた。

「フェイが、導いてくれたのかも知れねえな」
「はい」

 2人で小鳥が見えなくなるまでじっと見ていた。
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