黒のシャンタル 第一話 「過去への旅」<完結>

小椋夏己

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第二章 第六節 奇跡

21 気晴らし

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 言っていた通り、その日一日リルは自室で休んでいたが、翌日からは元の通りにダルの世話役に復帰した。

 ただ、見た目は冷淡だと思えるぐらい、ダルと線を引いているのが分かった。
 ダルもそれで何も言うことはない。

「それでは、ご用がなければこれで下がらせていただきます」
「あ、ああ、ありがとう」

 リルはそう言って頭を下げるとダルの部屋から出ていった。

「はあ~肩凝るな」
「ごめんな」

 ダルが一緒にいたトーヤにすまなそうに言う。

「いや、いいって。しかし、いつ頃落ち着くかな」
「落ち着いてくれるかな」
「どうかなあ。しかし、ダルも女泣かせだよなあ」
「トーヤあ~」

 情けなさそうに言う。

 ダルはダルで楽しかったのだ、リルに世話役として付いてもらうのが。
 だが、その気持ちが恋情であるかどうかと聞かれると、いなと言うしかない。
 どうやっても、ダルはアミが好きだと思う気持ちを消すことはできなかった。

「……俺も」
「ん?」
「俺も、ああなるのかな……」
「何がだ?」
「いや、もしも、その好きだって誰かに言って、その……」
「ああ、アミちゃんに振られたら、ってか?」
「はっきり言うなよな!」
「いや、そうだろ?」

 トーヤがケラケラと笑った。

「まあまあ、なるようにしかならねえって。当たって砕けろだ、だろ?」
「砕けたくないから言えないのに……」
「お、素直に認めたな、進歩じゃねえか」
「だって……」

 ダルがぼそぼそと言う。

「リルさん、勇気あるよな……」
「だな」
「俺、もしもと思ったら、とても言えねえんだよ」
「だな」
「なあ、どしたらいい?」

 知らんがな、とトーヤは言いかけて我慢した。

「まあ、考えるしかねえな」
「トーヤあ~」
「知らんがな」

 言ってしまった。

「うう、トーヤ冷たい……」
「だってな、ダルがどうしたいか、だけじゃねえか」
「俺が?」
「ああ。俺が代わりにアミちゃんくどいてみていいならくどくけどよ、それはだめだろ?」
「だめだよ!」
「なら、おまえがなんとかするしかねえだろ?」
「う、うう……」

 こっちはこっちでどうやってシャンタルに心を開かせるかで頭がいっぱいいっぱいで、それどころではない、はずだったのだが、いい気晴らしになったと思った。
 決して面白がっているわけではない。リルの気持ちを思うとかわいそうではあるが、それはトーヤがどうこう言えることではないし、リルが実家の力を使ってダルに何かを仕掛けてこない限り、それは大した問題ではないように思えたからだ。

「まあな、言うだろ?」
「何をだ?」
「みんな悩んで大きくなった、ってな」
「なんだよそれ~」
「まあせいぜい悩みたまへ、ダル君」
「ひとごとだと思って……」
「ひとごとだしな」
「トーヤあ~」
「それやめろって、なつくなって」
「トーヤあ~」
「うぜえ!」

 ダルはトーヤにげしげしと足蹴あしげにされながらも、トーヤに抱きつくのをやめない。

「うぜえなーこのひょろ長いの……おい、離せって! 俺は野郎に抱きつかれて喜ぶ趣味はねえんだよ! 第一な、おまえ、あんなべっぴんに告白されて、それ断っといて、なんでおまえがへこんでんだよ!」
「だって、だってな……」
「うらやましいじゃねえか!」
「え?」
「リルなんてべっぴんで、その上スタイルだってあれだろ? いいじゃねえかよ。そんでもって大商会のお嬢様だ、うまくいきゃ、それこそダル様、月虹兵で大商会の婿さんのダル様じゃねえか。それ断っといてなんだようらやましい!」
「トーヤあ~」
「だからな、それやめろって! その声!」

 げしげしと蹴り続けるが、ダルはいっかな離そうとしない。

「失礼します」

 ミーヤの声がした。

「やっぱりこちらでしたか。今度はなんです?」

 ダルを蹴るトーヤ、蹴られても離れないダルを見てミーヤが呆れた顔をする。
 じゃれ合ってる子犬としか思えない。

「いやあ、こいつよお、うざくて」
「だって、だってな……」

 ダルが反撃方法を思いついた。

「だって、トーヤが俺のことうらやましいって」
「おい!」
「うらやましい?」
「うん」
「おい! やめろって!!」

 さらに激しく蹴るがダルはやめない。

「だって、トーヤが俺があんなべっぴんのこと断ってうらやまし」
「あーああああああー聞こえないー!」
「うらやましいって!」

 ひとしきり声を張り上げるダル。

「自分が代わりたいって!」
「嘘つけ! 言ってねえぞ!」

 それは言ってない。
 今回に限りトーヤの言ってる方が正しい。
 だが、今までが今までだ。

「そうですか、うらやましいですよね、そりゃあ」
「ちょ、ちょ、待て! 言ってねえって! 本当だって!」
「代わりたいんですね?」
「言ってねえー! 本当だってー!!」

 あまりの慌てぶりに、ダルがさすがに気の毒に思ったようだ。

「ミーヤさん、ごめん。今回だけは本当にトーヤ言ってないから」
「そうだよ、な、ダルもそう言ってるだろ? な?」
「そうですか? ダルさんはやさしいですからねえ、かばってらっしゃるのでは?」

 にこにことあの笑顔が怖い……

「うん、言ってない、本当、ごめんなさい」
「な?」
「うん、今回『だけ』は本当だから」

 それでもダルは「だけ」に力を入れて言うことを忘れなかった。
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